第2話:『ツッコミは、救命胴衣』
第2話用プロフィール
三谷 瑛太
・ツッコミ担当。
・ズレに気づくのが早すぎて、黙っていられない。
・本人は「普通の指摘」のつもりだが、言葉の圧が強い。
・救うつもりで投げた一言が、だいたい人生を動かす。
相原 星羅
・若手女優。
・本人は気づいていないが、緊張すると完成度が上がりすぎる。
・ズレているのはボタンだけではない。
・ツッコミを向けられた瞬間、なぜか呼吸が楽になる。
オーディション会場。
控室は、静かだった。
音がないわけじゃない。 ページをめくる音。 椅子がきしむ音。 誰かの浅い呼吸。
小さい音ばかりなのに、やけに響く。
三谷瑛太は、壁にもたれていた。
腕を組んだまま、ただそこにいる。
自分の出番はない。 付き添い。 それだけのはずやった。
(……なんで来てもうたんやろな)
視線の先。
相原星羅がいる。
椅子に座って、台本を見ている。
ページをめくる指が、少しだけ早い。
姿勢は綺麗。 表情も整っている。
ちゃんとしてる。 ちゃんと、しすぎてる。
(……あかんやつや)
そこまで見てから、視線が少しだけ下に落ちる。
シャツのボタンが、ひとつズレている。
(気づかんわけないやろ)
でも、直していない。
直せないまま、そこにある感じやった。
(緊張してる)
名前が呼ばれる直前。
星羅が立ち上がる。
椅子の音が、少し遅れて響く。
深呼吸。
その呼吸が、浅い。
(……関係ない)
そう思った瞬間やった。
足が、勝手に動いていた。
「相原さん」
星羅が振り返る。
「……三谷さん?」
その目。
追い詰められてる目や。
(……あかん)
もう戻れない距離まで来てしまっている。
それでも、口が先に動く。
「シャツのボタン、ズレとるやないかぁーい!」
空気が止まる。
星羅が固まる。
ゆっくり、自分の胸元を見る。
一拍。
そのまま、控室を飛び出した。
(やってもうたか……)
数分後。
ドアが開く。
星羅が戻ってくる。
ボタンは揃っていた。
でも、それより違うものがあった。
さっきより、呼吸が深い。
星羅は瑛太の前で止まる。
「……ありがとうございました」
声が、少しだけ落ち着いている。
「言ってもらえなかったら、あのまま出ていました」
間。
「たぶん……ダメでした」
瑛太は視線を外す。
「ツッコミなんで」
それだけ言う。
「崩れそうなとこ、放っとけないだけです」
星羅は、少しだけ笑った。
「変ですね」
「何がですか」
「怒鳴られたのに、助けられた気がしました」
その言葉に、すぐ返せなかった。
呼び出しの声。
星羅の名前。
「……行ってきます」
歩いていく背中。
さっきより、少し軽い。
瑛太は、その背中を見送る。
(……なんやねん、これ)
さっきの出来事を思い返す。
助けたわけじゃない。
でも、助けてしまっていた。
意識より先に、体が動いていた。
舞台の奥から声が聞こえる。
さっきより震えていない。
瑛太は小さく息を吐いた。
ツッコミは――
救命胴衣みたいなもんかもしれない。
でもそのあと、少しだけ遅れて思う。
(これ、もう戻されへんやつちゃうか)
第3話、何か始まりそうです(≧▽≦)
1/10(土曜日)の昼頃に第3話公開
ヾ(・ω・*)ノヨテイ




