第十四話『再会の形』
「ぽーん」
エレベーターが3階に止まった。
(……何で『ぽーん』なんやろ? 『てってれー』でも『着いたよ3階に テヘッ』でもいいのに……)
瑛太は思考を巡らせながらも、心臓の奥で小さな高鳴りを感じていた。
扉が開き、光が差し込む。
「瑛太、こっちこっち」
島原の声に振り向くと、その横には星羅が立っていた。
「瑛太さん、お疲れさまです。お久しぶりですね」
星羅の笑顔は太陽のように柔らかく、瑛太の胸の奥で何かが弾けた。
「うん、暫くぶりやね」自分でも驚くほど心が温かくなる。
「会議室押さえてあるから、行きましょう」
「はい」
「はい」
二人の返事が重なり、空気がほんの少し震えた。
「あら、息ぴったり、ふふっ」
島原が振り返る。星羅は目を伏せて照れ笑い。瑛太は窓を見て、空を見上げるフリで心の動揺を隠した。
「ふーん、いいじゃない」
そして会議室へ進む。二人の足取りはまだ少しぎこちないが、確かに重なり合っていた。
机を挟み、島原と向かい合う。
「今日、来てもらったのはね、先日出てもらった特番の評判が良くてね」
「二人にはコンビとして、出てほしいの」
瑛太と星羅は顔を見合わせる。
「やったぁ」
「やったなぁ」
島原は説明を続ける。
「今回は勝ち抜き戦のお笑い番組で――」
島原は一度、言葉を切った。
「ただし、条件があるの」
二人の視線が自然に集まる。
「星羅ちゃん、女優業との並行は厳しくなると思うの。しばらくは、この企画を優先してもらうことになる」
星羅は言葉を失い、静かに瑛太を一瞬だけ見た。その視線は助けを求めるものでも確認でもなく、ただ決意を確かめるものだった。
「……分かりました」
星羅は静かに言った。
「やります」
瑛太が思わず声を上げる。
「え、ええんか?」
星羅は微かに笑みを浮かべた。
「逃げたくないんです、この舞台から」
瑛太はその言葉を胸に刻み、真正面から受け取った。
午後の光が柔らかく降り注ぐ。二人の影が長く伸びる。
会議室には、一つの選択と、それでも前に進むと決めた二人の影だけが残った。
椅子に腰を下ろし、瑛太は星羅の目を見る。
「久しぶりやな、元気してた?」
「元気は元気でしたけど…」
「けど?」
「何だか、この前の輝いた世界と興奮が忘れられなくて…」
星羅の苦笑いに、瑛太の心がそっとほぐれる。
「そっか……俺も同じや」
「わぁ、嬉しい」
互いの想いが小さな笑みとなって交わる。
そして、再び島原が扉を開ける。
「ごめん、ごめん、資料を渡すの忘れてた」
ぱらりと置かれた書類。再び扉は閉まる。
「島原さん、絶対わざとやろ」
「ふふっ」
瑛太は資料を手に取りページをめくる。
「うわ、細かく書いてくれてる…」
星羅も資料を見ながら笑みを浮かべる。
「これなら、私たちでも大丈夫そうですね」
舞台で呼吸がぴったり合ったときの感覚――あの化学反応――が蘇る。
「よし、やるか!」
「うん!」
二人は椅子を立ち、資料を手に稽古場への一歩を踏み出す。
午後の光が優しく二人を包み、未来への期待が静かに息づいていた。




