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第十三話:同じ空の下で

その日、星羅は部屋のカーテンを閉めたまま、ソファに座っていた。

昼なのに、部屋は少し暗い。

仕事は入っていない。

台本も、今日は開く気にならなかった。

テーブルの上に置いたスマホを、何度か見ては伏せる。

通知は来ない。

来ないと分かっているのに、つい確認してしまう。

「……ばかみたい」

小さくつぶやいて、息を吐いた。

頭に浮かぶのは、あの舞台。

ライトに照らされた瞬間の空気。

自分が一歩踏み出す前に、すでにそこにあった間。

――来る。

そう確信できたツッコミ。

言葉を投げても、必ず受け止めてくれるという安心。

「……考えすぎ」

星羅は首を振る。

即興は即興。

一回きりの化学反応。

続くなんて、思う方が変だ。

ソファに深く腰を沈め、天井を見上げる。

時計の秒針が、やけに大きく聞こえた。

そのとき、スマホが震えた。

一瞬、心臓が跳ねる。

反射的に画面を伏せてしまい、数秒してから、そっと手に取る。

表示された名前は、島原瑠美。

「……あ」

期待していなかった、と言えば嘘になる。

でも、期待していた相手とは違う。

通話ボタンを押す前に、一度だけ深呼吸する。

「はい、相原です」

『星羅ちゃん?今、大丈夫?』

「はい。大丈夫です」

『今ね、事務所に来られる?ちょっと話したいことがあって』

話したいこと。

その言葉だけで、胸の奥がざわつく。

「……今から、ですか?」

『うん。もう一人、呼んでて』

一拍、間があった。

「……誰、ですか?」

電話の向こうで、島原が少し笑った気配がした。

『三谷くん』

名前を聞いた瞬間、思考が止まる。

「……はい。分かりました」

電話を切ったあと、しばらくスマホを握ったまま動けなかった。

嬉しい、なんて思っちゃいけない。

期待したら、裏切られるかもしれない。

それでも――

胸の奥が、確かに軽くなっているのを、星羅は否定できなかった。

急いで着替える。

鏡の前で立ち止まり、服装を確認して、またため息をつく。

「……別に、普通でいい」

誰に言うでもなく、自分に言い聞かせる。

玄関を出て、エレベーターを待つ間。

無意識に、スマホを握り直していた。

連絡は、来ていない。

それなのに、もう分かってしまっている。

同じ時間、同じ場所に向かっていることを。

「……ほんと、ずるい」

誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。

事務所のビルが見えてきた頃、胸の鼓動が少し早くなる。

舞台に上がる前と、よく似た感覚。

――拾ってもらえる。

――ちゃんと、来てくれる。

そんな前提で、自分が動いていることに気づいて、星羅は小さく笑った。

「……もう、逃げられないか」

そう呟いて、星羅はビルの中へ足を踏み入れた。

同じ空の下、同じ午後。

まだ言葉にはならないけれど――

二人は、確かに同じ方向を向いていた。

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