その4 謎の化け物
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ディアナの告白。
それは悪役令嬢対策倶楽部の少女達の度肝を抜くものだった。
「ディアナも精霊を見る事が出来るんですの?!」
「うん。ずっと黙っててゴメン」
ディアナが言うには、自分も曾祖母と同じ『精霊を見る目』を持っているというのだ。
彼女が人並み外れた魔法を使えるのもその目の力によるものなのだという。
ローゼマリー達は驚きの連続に頭の芯がフワフワしてくるのを感じた。
ひょっとして叫び過ぎて酸欠になっていたのかもしれない。
『アスペルマイヤーの大魔女』と呼ばれたディアナの曾祖母は、ディアナがまだ幼い頃に「もし幸せな人生を歩みたければ、自分が見える事を絶対に人には言っちゃダメ」と言い含めていたという。
現在の曾祖母の境遇を知ったディアナは、それ以来固く彼女の教えを守って来たのだ。
「でもそれも今日まで。みんなにばらしてしまった」
しゅんとするディアナに一斉にメンバー達が詰め寄った。
「私達はディアナの秘密を誰にも話したり致しませんわ!」
「そうなのです! 大お婆様の言葉もきっと友達は例外なのですよ!」
「父上なら女の秘密は例え口が裂けても絶対に母上には漏らさない! だから父上の娘の私も同じくらい口は堅いぞ!」
「・・・それって違う意味なんじゃ。ええと、ウチも勝手に話していい話かどうかくらいはわきまえているつもりだよ」
ディアナは胸に温かい物が込み上げて来るのを感じた。
自分は曾祖母の教えに背いてしまった。しかし今この瞬間こそが自分の幸せな人生なのではないだろうか?
彼女にはそう思えてならなかった。
ディアナは湧き上がる感傷を抑えると仲間に向き直った。
「今までのは前置き。ここからが本番。あの日僕が見た物をみんなに話す」
ディアナは精霊を見る事が出来る。
精霊は四つの属性に分けられるが、その姿は千差万別、多種多様な形に分かれている。
しかし基本的にはほとんど例外なく既存の生物の形を模しているのだ。
「だったら虫みたいなヤツもいるんですよ?」
「いっぱいいる。台所のアイツと同じ姿の精霊もいる」
ディアナの話に「うげっ」と顔をしかめる少女達。
どうやらこちらの世界でも増殖するGは女性の嫌われ者のようだ。
「人間にそっくりな精霊もいるんですよ?」
「いる。最近見たのは少年の姿と老婆の姿だった」
「そうなんですの? でしたら――」
「いや、この辺でそろそろ脱線は止めにしないか?」
エッダが苦笑しながら口を挟んだ。
少し赤くなって引っ込むローゼマリー。
珍しい話に浮かれた自分を反省しているようだ。
「騎士の姿をした精霊はいないのだろうか? ん? なんでみんな私を見るんだ?」
そして相変わらず空気の読めないバルバラだった。
「精霊はあちこち放浪している。一ヶ所に定着しているのは例外」
例えばディアナ達が野外実習で遭遇した古くて巨大な精霊。あれも例外にあたる。
森という広い範囲といえ、本来精霊は土地に縛られるような存在ではないのだ。
「魔法使いの中には精霊と契約している人もいると聞きますわよ?」
「それも例外。契約によって人間に縛り付けられているのは精霊にとってスゴく不自然な事」
魔法使いの中には特定の精霊と契約する者もいる。
医療関係の魔法使いなどに多い。
治療のために魔法を使おうとしても、その時たまたま周囲にその力を持つ精霊がいなければ困るからだ。
ケガや病気は待ってくれない。
患者の命を救うためには一分一秒の遅れが許されない時だってあるのだ。
「・・・そうか。ディアナはあの時編入生の背後に彼女の契約した精霊を見たんだね?」
エッダの指摘にハッとディアナに振り返るローゼマリー達。
ディアナは少し考えて慎重に答えた。
「契約かどうかまでは分からない。極まれに一方的に精霊が取り付く事もある」
冬休みにバルバラの実家で出会った彼女の兄、ディルハルトがそうだった。
彼は複数の妖精に取り付かれた事で体が耐えられずに衰弱していた。
妖精と精霊とは本質的には同種の存在なので、精霊が取り付いていたと言ってもあながち間違いではないだろう。
「その精霊を見て、ディアナは化け物と言ったんですわね?」
「化け物――どんな精霊を見たんですよ?」
あの時、ディアナは編入生のテレサに対してこう言った。「その化け物をアルトに近付けたらダメ! 誰かアルトから引き離して! 早く!」と。
ディアナはフルフルとかぶりを振った。
「分からない」
「?」
「分からないのに化け物なのかい?」
ディアナは自分の見たものをどう表現すればいいか迷っているようだ。
「さっきも言ったけど精霊は生き物の姿を模している。けどこの世にあんな生き物はいない」
「ま、まさか幽霊なんですよ?」
「クラリッサ、黙って」
ディアナの見た精霊。それは――
「十の、いや、それ以上の数の生き物が混じり合った、生き物のモザイクのような精霊だった。いや、あれは精霊かどうかすら分からない。それくらい僕の理解を超えたあり得ない存在だった」
誰かがゴクリと喉を鳴らした。
ディアナが見たというその精霊は、十を超える生き物の混ざりあった奇怪なオブジェのような姿だったという。
あの時彼女が「化け物」と呼んだのはそのためだったのだ。
精霊であるかすら不明なその存在を彼女は化け物と呼ぶしか無かったのである。
「ウチらに見えずにディアナにだけ見えたって事は、精霊と考えるのが自然なんだろうけど――」
「あんな精霊はあり得ない」
ディアナはきっぱりと否定した。
「その・・・精霊達にお尋ねする事は出来ませんの?」
ローゼマリーの提案も最もだ。精霊に聞けば何か分かるかもしれない。
「それは無理。精霊は人間を対話の相手とみなしていない」
ディアナは古くて巨大な精霊と断片的に意思の疎通を果たしたが、あれは例外にあたる。
そもそも精霊は言葉を発しない。一方的に人間と繋がるだけである。
あの時は相手が理解を求めていて、こちらにそれに応える能力があったからこそ、辛うじて意思が通じたのだ。
もう一度同じことが出来るかと聞かれればディアナにだってその自信はない。
「その謎の化け物が編入生に取り付いていたのは間違いないんだね?」
「それは間違いない」
「その化け物がアルトに何かしたんですのね」
「!」
ローゼマリーの言葉にハッとする一同。
しかしディアナはこれにも首を振った。
「アルトを傷付けたのは別の精霊」
「? 一体どういう事なんだい?」
みんなは懸命にディアナの話に付いていこうとしている。
しかしディアナの言葉は彼女達の理解を振り切るほど意外なものだった。
「アルトにも謎の精霊が取り付いている。きっとアルト本人もその事を知らない。アルトを傷付けたのはその精霊」
現場を見ていたディアナにも、その精霊がアルトに何をどうしたのかまでは分からない。
ただ謎の精霊が彼に対して何かをしたのだけはハッキリと見えたのだ。
呆然とする少女達に向かってディアナは言った。
「これはもう僕の手には負えない。あの後すぐに事情を書いた手紙を大お婆様に送った。大お婆様ならきっと助けに来てくれる――と思う」
次回「お見舞い」




