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エピローグ 妹

今回で第五章が終了します。

 新学期が始まって今朝でもう三日目。

 俺達三人は教室へ向かって歩いていた。


「僕もダミアンと一緒の馬車で戻っていれば良かったよ」


 冬休みに実家のある北の町に帰っていたマリオは、王都と繋がる峠道が雪で閉鎖されてしまったためにずっと立ち往生していたんだそうだ。

 丁度ダミアンの乗った馬車が峠を越えた直後に封鎖されたらしい。

 全く無駄に悪運の強いヤツだなダミアンは。


「・・・はあ」

「あのさ、ダミアンに何があったわけ?」


 マリオが迷惑そうな顔で俺に尋ねた。

 ちなみにダミアンはあの日からずっと、こうして魂が抜けたみたいになっている。

 正直一緒の部屋で過ごしていて、うっとおしいったらない。マリオの不満も最もだった。




 あの日、俺達は騎士団に連れて行かれた部屋で個別に事情聴取を受けた。

 個別に分けて同時に聞くのは、俺達が示し合わせてウソをつくのを防ぐためだろう。多分。

 別にそんな事をしなくても、俺は聞かれた事は全て正直に話すつもりだったんだがな。


 ロクに事情を知らないダミアンはともかく、用務員の大男は騎士団相手に何を話したんだろうか?

 俺とダミアンは割と直ぐに解放されたが、アイツはいつまでも部屋から出て来なかった。

 とはいっても、血も涙もない非情の殺し屋といった感じでもなかったし、案外心配はいらなかったのかもしれない。

 ひょっとしたら騎士団を上手く言いくるめた可能性すらある。

 妙に雰囲気を持っているというか、変に説得力のあるヤツだったからな。


 あの後、ダミアンは大人しく寮の部屋に戻って来た。

 頼れる兄貴分がいなくなった以上、いつまでも用務員室に仮住まいする訳にはいかなかったのだろう。

 こうしてダミアンのプチ家出? は足かけ二日で終わりを迎えたのだった。

 翌日から新学期だったし丁度良かったんじゃないか?

 てか心底どうでもいい話だな。



 俺はあの後直ぐにローゼマリー会長から説明を受けた。

 もうエッダは国外に逃げる必要がなくなった、と聞かされて、俺は安堵のあまりへたり込みそうになった。

 流石はメッテルニヒ伯爵家。持つべきものは頼れる会長、といったところか。

 結局俺のやった事って何だったんだろうな、と頭の片隅をかすめないでもなかったが、俺一人ではエッダの身を守れなかったんだから文句を言うようなことでもないだろう。

 結果が良ければ全て良し。

 めでたしめでたしで良かったじゃないか。


 心から喜ぶ俺と違って、会長達はどことなく元気がない気がした。

 あれは俺の思い違いだったんだろうか?



「兄貴! ちょっと兄貴!」


 どこかの少女が大声で叫んでいる。

 兄貴狂いはダミアンだけでもう十分だ。当分兄貴枠は勘弁で。


「コラ! 妹を無視するな!」


 俺は背後から乱暴に腕を引かれた。


「なっ?! 兄貴ってまさか俺の事か?」

「ちょっと・・・それってもしかして冗談のつもり? 全然面白くないんだけど」


 俺の後ろに立っているのは茶色い髪をおさげにしたそばかすの女の子。

 学園の制服ではなく、町で良く見る感じのコートを羽織っている。


 俺を兄貴と呼ぶということは・・・コイツまさかアルトの妹(・・・・・)なのか?!


 俺は突然の身内らしき少女との遭遇に、頭の中が真っ白になってしまった。




 俺の目の前には初めて見るおさげの少女。

 ダミアンとマリオが興味深そうに俺達を見比べている。


「妹って、アルトの妹さんなのかい?」

「へえ。可愛いじゃん。歳いくつ?」


 二人の声が俺の耳を素通りしていく。

 ヤバい。この遭遇は予想だにしていなかった。

 というよりコイツ本当にアルトの家族なのか?


 実は少しだけ、ほんの少しだけだが、家族に会えばアルトとしての記憶が戻るんじゃないか、と期待した事はあるのだ。

 だが穴が開くほど見ても目の前の少女に全く心当たりは無かった。

 俺はその事実にショックを受けていた。


「兄貴、この二人は?」

「あ、ああ、寮での俺の同室のダミアンとマリオだ。二人共、コイツは俺の妹のメリダだ」

「よろしく、メリダちゃん」

「メリダちゃん可愛いね。恋人いる?」


 以前会長からもらった資料でアルトの家族の名前は覚えている。というか、必死に頭に叩き込んだ。

 まさかその努力がこんな形で役に立つ日が来るとは思わなかった。

 とんだ抜き打ちテストだな。後ダミアンはウザい。


 俺はアルトの妹――メリダの後ろに立つ、大人しそうな中年男性に気が付いた。

 コイツが妹ならあの男がオヤジなんだろう。やはり全く見覚えが無いが。


「――え~と、父さんも久しぶり」

「何言ってるの? 彼はウチの商会の番頭のトーマスじゃない。この学園まで私に付き添ってくれたのよ」


 オヤジじゃないのかよ! つーかトーマス紛らわしいな! 保護者面して立ってんじゃねえよ!


 俺は赤面しながら心の中で罪なきトーマスに八つ当たりした。


「ま、まあ冗談なんだがな。はははっ」

「いや、全然面白くないんだけど。というか兄貴が冗談言う所なんて初めて見たわ」


 マジでか。番頭もウンウンと頷いているし、マジなんだろうな。

 てかアルトって家ではどんなヤツだったんだ?


 とにかくボロが出る前になんとかしないと。

 というかダミアンとマリオが何か余計な事を言い出さないか気が気でない。

 俺は二人の視線を遮るようにメリダの前に立った。


「そ、それより俺になんの用だ? あっ、ひょっとして冬休み実家に戻らなかった事か? でもあれはバルバラの――」

「ああ、そういうんじゃないから。兄貴に会ったのは偶然。今日はたまたまパパが王都に仕事に来る用事があったから、それについて来たの。私も来年はこの学園に入るつもりだからその下見をしに来たってわけ」


 メリダもこの学園に? 確かメリダはアルトの二つ年下だったか。言われてみればその可能性もあるのか。

 しかしマズいな。アルトを知っている人間が同じ学園にいるというのはヤバい。

 俺の中身がアルトではないと気付かれるかもしれない。


「なんだよ隠すなよアルト」

「ウザいんだよお前。さっきまでのようにしょぼくれてろよ」

「いや、それはそれでどうなんだろうね」


 俺は真剣に悩んでいるのにダミアンの馬鹿が鬱陶しくて考えが纏まらない。

 本当、コイツは元気でもへこんでいてもはた迷惑なヤツだな。


 この騒ぎを聞きつけて、いつの間にか周囲に人だかりが出来ている。

 メリダは少しばかり戸惑っている様子だったが、野次馬の中に誰かの姿を見付けてパッと嬉しそうな表情になった。


「エバさん! 久しぶりです!」

「なにっ?!」


 メリダが駆け寄った先にいたのはボサボサ頭の眼鏡少女。

 入学以来ずっと俺を目の敵にしている少女、エバ・ヤンセンだった。

 エバは突然声を掛けられて驚いている。


「メリダ! なんで学園に?」

「来年から通う事になるから見ておけってパパに言われて――」


 エバの方もメリダの事を知っているのか、二人は親し気に会話を交わし始めた。

 確かアルトの実家も商会だったな。エバの実家の商会と何かつながりがあるんだろうか?

 会長の資料にはそんなに詳しいことまでは書かれてなかったからな。

 そういう事情があっても別に不思議じゃないのかもしれないが・・・


「じゃあ、授業があるから」

「ハイ。また今度お茶でもご一緒に」


 エバは会話を切り上げるとこの場を去って行った。

 なんでアイツは妹には愛想良く出来て、俺にはいつもケンカ腰なんだ。

 まあアイツが俺に対して理不尽なのは今に始まった事じゃないが。


 俺の不満が顔に出ていたのだろう。メリダは俺の前に戻って来ると不思議そうに尋ねた。


「なに兄貴?」

「・・・別に。お前アイツと随分仲が良いんだな」


 不機嫌そのものな俺に対して、メリダは心底呆れたといった顔になった。


「エバさんは兄貴の婚約者なんだから、仲良くするのは当たり前じゃない」


 ・・・何?


 おい、お前今、なんて言った?

ここまで読んで頂きありがとうございます。

今後は別の作品との執筆のローテーションに組み込むつもりなので、今までと違って間が空くことになります。

そちらをキリの良い所まで書き終えれば次章に取り掛かりますので、しばらくの間お待ち下さい。

楽しんで頂けた方は、どうかどうかブックマークと評価の方をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公はもう誤魔化すのは限界では。このままでは致命的な失敗をしてしまいそう。 アルトの家族にだけでも、記憶喪失になったとでも話すべきでないかな。
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