その13 破滅への第一歩
護衛の騎士を従えて現れたのはゴージャスな金髪縦ロールの美少女。
悪役令嬢対策倶楽部のローゼマリー会長だった。
「エッダが無事で良かったですわ」
「ローゼマ――メッテルニヒ様、これは一体・・・」
エッダはいつものようにローゼマリー会長を名前で呼びそうになった所で、周囲の目がある事を思い出したのか、慌てて家名に言い直した。
「彼らはメッテルニヒの騎士団ですわ。お父様に事情を説明してお借りして来ましたの」
なるほど。昼間会長が倶楽部を休んで実家に戻っていたのは、この戦力を調達するためだったんだな。
背中にかかる圧力が消えたので俺は立ち上がると――あれ? あれあれ?
「あ、ちょっ待って。誤解は解けたんじゃ・・・」
「黙れ。向こうで事情を聞かせてもらう。三人別々の部屋に運び込んで事情を聴取しろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
騎士団の男達は俺達を取り囲むと部室棟へと連れ込むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
エッダは騎士団に連れ去られるアルト達を見て慌てて叫んだ。
「待って! アルトをどこに連れて行くの?!」
ローゼマリーのかたわらに控える隊長格の騎士団員が、申し訳なさそうに彼女に答えた。
「事情が判明するまで彼らを自由にするわけにはいきません」
「そんな! だってアルトは!」
「エッダ、ごめんなさい。彼らには彼らの役目があるんですの」
騎士団員はローゼマリーの要求に応えてこの場にいる。
とはいえ、命令系統としては当主である彼女の父の直属となる。
ローゼマリーは彼らに要請は出来ても命令は出来ないのだ。
現在彼らはローゼマリーの安全を何よりも第一に考えて行動している。
完全に安全が保障されない限り、彼らの行動をローゼマリーが遮る事は出来なかった。
「我々は無抵抗な相手には決して乱暴には致しません」
「・・・そう。分かった」
どこか釈然としない様子ながら、エッダは渋々納得した。
ローゼマリーは隊長に振り返った。
「エッダと話があります。周囲の警戒をお願いします」
「はっ! 総員第二警戒!」
「「「はっ!」」」
騎士団員が彼女達を中心に距離を取ると、ようやくローゼマリーは小さく一息ついた。
「間に合って良かったですわ。エッダ、お父様と話をして来ました。これでもう大丈夫ですわ」
「・・・それはどういう事でしょうか?」
周囲の耳を気にしてエッダの言葉は敬語になっている。
ローゼマリーはその事を少しだけ寂しく思いながらも、事情を説明した。
エッダにとってローゼマリーの話は信じられないものだった。
「だからもう夫人に悩まされる事はないと思いますわ」
「えっ・・・ウソ。そんな事って・・・」
昼間、実家に戻ったローゼマリーは、父親に面会し、エッダの家の事情を打ち明けたのだ。
助力を求める娘に対し、父親はとある条件を出した。
娘がその条件を受けると、彼は家令を呼び出して手はずを整えたのだった。
「エッダのお姉様の所には近日中に縁談話がいくことになっていますわ。あちらにとって良縁となる話のはずですから、もうエッダに手を出す必要は無くなるでしょう」
そもそも今回の一件は、エッダの姉が婚約を破棄された事に端を発している。
メッテルニヒ伯爵家が斡旋する縁談は、その時よりもバカンス男爵家にとっては好条件になる事が約束されている。
そもそもこれはメッテルニヒ伯爵家が斡旋する縁組なのだ。
つまりは伯爵家とのつながりを持つ大チャンスという事になる。
きっとバカンス男爵家では上を下への大騒ぎになるに違いない。
マールグリタ夫人も娘の婚約が決まればエッダにかまけている理由が無い。
夫人にとってみれば娘の幸せが第一で、極論すれば娘の方がエッダより周囲に認められさえすればそれで満足なのだ。
「もしお姉様に子供が産まれれば、なおの事エッダに興味が無くなるでしょう。学園を卒業するまであと五年。それだけ時間があればお姉様が懐妊されてもおかしくないですわ」
「そんな・・・でも・・・」
今までずっと自分を悩ませ続けて来た問題が解決した? 本当に?
エッダは急な展開にどうしても信じられずにいた。
「ま、待って! ローゼマリーがお父様から出された条件って何?! まだそれを聞いていないんだけど!」
動揺したエッダは、周囲の目があるにもかかわらず、うっかりローゼマリーを名前で呼んでしまった事にも気が付かなかった。
エッダの問いかけにローゼマリーは悲しそうな微笑みを浮かべた。
「アーサー王子との婚約。それを受ける事ですわ」
ローゼマリーの答えにエッダは雷に撃たれたようなショックを受けた。
アーサー王子との婚約。
それはローゼマリーにとって、五年後の破滅の未来を確定させる行為だ。
今までなんとか理由を付けて先延ばしにしていたそれを、ローゼマリーはエッダを救うために受け入れたというのだ。
彼女は正に破滅への第一歩を踏み出したと言っても良かった。
「なんでウチなんかのために・・・」
「なんかじゃないですわ。エッダは私にとって大切なお友達ですもの」
エッダは何をどう言って良いか分からなかった。
ただ黙って、このひたすらにお人好しな友人を見つめていた。
ローゼマリーはチラリと部室棟の方を見た。
そこでは今、騎士団によってアルト達が事情聴取を受けているはずである。
「でもこの事はアルト――みなさんにはまだ黙っていていただけませんか」
この時のローゼマリーの表情にエッダはハッと胸を突かれた。
みなさん、と言い直したものの、ローゼマリーが特定の誰かに自分の婚約を知られたくないと思っている事は明確だったからである。
ローゼマリーはアルトの事を・・・
その想像は、エッダの心にチクリとした痛みをともなった。
なぜローゼマリーとアルトの事を考えると心に痛みが走るのか。
聡明なエッダは自分の気持ちにも気が付いてしまった。
ひょっとしてウチもアルトの事を・・・
エッダは自分の気持ちに動揺すると共に、昨夜縋り付いたアルトの背中を思い出して、耳が火照るのを感じた。
騎士団員が周囲を警戒する中、少女二人は無言で立ち尽くすのだった
次回で第五章が終了します。
次回「エピローグ 妹」




