その6 学園魔法バトルみたいに
「だから私その子に言ってやったの、『箒で掃くのよ!』って。だってそうでしょう? あの場にいたら誰だってそう言うに決まっているわ。そしたらあの子何て言ったと思う?」
「さあ? 何て言ったんですか?」
俺は部室棟の前で見た目中学生くらいのリボンなおでこちゃんの相談を受けていた。
ディアナのはとこのブリちゃん先輩である。
ブリちゃん先輩はこう見えてもこの学園の最上級生なんだそうだ。
何故か昔からディアナを魔法使いとしてライバル視しているらしく、今日もディアナに勝負を挑むためにこうして彼女の行きそうな場所に張り込んでいたらしい。
先日俺はひょんなことから、このちっちゃい先輩に目を付けられ、それからは毎日のようにこうして絡まれるようになっているのだった。
「それが何も言わずに帰っちゃったのよ。本当に何がしたかったのかしらね?」
「いや、知らんがな」
今日の俺はブリちゃん先輩が昨夜見た夢の話を聞かされていた。
心底どうでもいい話だ。この人は余程ヒマなんだろうか?
ブリちゃん先輩は最後まで話し終えると満足そうに頷いた。
「誰かに聞いてもらった事で少しだけスッキリしたわ。あんたって不思議と気兼ねせずに話せるから便利よね」
面と向かって他人を便利呼ばわりって大概だな。
まあ貴族のご令嬢にとっては平民の俺なんかはそんな扱いなんだろうけど。
けど話が終わったのなら丁度いい。
俺は前々から気になっていた事を聞いてみる事にした。
「ブリキュア先輩は「誰よそれ?! 私はブリギッテだから!」ブリギッテ先輩は実際どの程度の魔法が使えるんですか?」
ちっちゃい先輩はそのちっちゃい胸を張って偉そうに言った。
「自慢じゃないけどクラスじゃ五本の指に入るわ!」
凄いドヤ顔だけど、クラスで5番なら良くはあるが自慢するほどじゃないよな。
「なんでよ! 30人中の5位以内なのよ! これって凄い事でしょ?!」
「あ、ちなみに俺は入学して最初のテストで学年主席でした」
「凄いわ!」
まあ学年主席を取ったのは俺じゃなくて、この体の前の持ち主なんだが。
「ブリギッテ先輩がまあまあ魔法が得意なのは分かりました。で、それってどのくらいの事が出来るんですかね?」
「まあまあ得意って・・・まあいいわ。そうね。本当は授業以外で魔法を使っちゃダメなんだけど、あんたには特別に見せてあげてもいいわ!」
授業中以外は魔法を使っちゃダメなのか。確かに危ないからな。漫画やゲームの魔法学園物では学生同士が平気で魔法を使ってバトルしているけど、普通に考えたらあれってヤバいよな。
「お手柔らかにお願いします」
「何言ってんの! 本気でやるわ!」
なっ! 本気でやるのか?!
どうやらブリちゃん先輩の魔法は手加減というものがきかないらしい。
・・・仕方が無い。ならば俺も覚悟を決めるか。
俺は近くの掃除道具入れからデッキブラシを引っ張り出すと正眼に構えた。
「分かりました。なら俺も本気で行きます!」
「ええっ?! あんた何する気なの?!」
あれ? 俺と戦うんじゃないのか? 学園魔法バトルみたいに。
「いやいや、私みたいな学生の使う魔法で戦えるわけないじゃない! そんなのちょっと考えたら分かるでしょ?!」
「いや、分からないから本気で行くと言ったんですが」
「とにかく無理! 無理だから! それ戻して!」
俺は釈然としない思いを抱えながらデッキブラシを片付けた。
ブリちゃん先輩はブリブリ怒りながら鞄から小さな杖を取り出した。
あれだ。映画で魔法使いハリー君が持っているようなヤツだ。
ゲームだと魔法攻撃力を上げたり、MP消費を抑える効果があったりするよな。
「? そんなの無いわよ? これで精霊に指示を出すのよ」
「ただの指示棒だった!」
そういえば人間には魔法が使えないって言ってたな。
精霊に指示して魔法を使ってもらうとか何とか。
どうやら魔法使いはこの指示棒を使って『はい、あそこに攻撃して』みたいな形で精霊に指示を出すらしい。
それってもはや魔法使いと言ってもいいのか?
「確かにそうね。厳密に言えば魔法を使っているのは精霊なんだから、私達は言わば”精霊使い”になるのかしら? あんたって面白い所に気が付くわね」
そうか? 誰でもそう思うと思うけどな。まあいいや。それでその指示棒に精霊が従って魔法を使ってくれる訳なんだろうか?
「そうよ。ちょっと待ってなさい。精霊さーん、精霊さーん、お願い聞いて下さいなー、私のお願い聞いて下さいなーって何よその顔は」
「・・・いや、急におかしくなったのかと思って」
「んなっ! あんた本当に失礼ね! 言ったでしょ、魔法を使うのは精霊だって! だから魔法使いは先ずはこうやって精霊をこの場に呼び集める事から始めるのよ!」
ええ~、何だそれ。ディアナはそんな事をしなくてもいきなり魔法を使ってたぞ。
けどブリちゃん先輩が授業でそう習ったのなら、そっちの方が正式なやり方なんだろう。
俺は何とも言えない気持ちで、クルクル回りながら精霊に呼びかけるブリちゃん先輩を眺めていた。
「そろそろいいかしらね」
「お遊戯会のお稽古は終わりましたか?」
「ぶっ殺すわよ! 火の精霊よ、あいつに火をお見舞いなさい!」
俺の軽口に怒ったブリちゃん先輩は指揮棒で俺を指し示した。
ちょ、マジで?! 洒落にならないって!
「あちっ! あちちっ! 何だよコレ!」
「あははははっ! いい気味よ!」
手持ち花火のような小さな火花を食らって俺は悲鳴を上げた。
ビックリして飛び跳ねる俺を見てゲラゲラと笑うブリちゃん先輩。
俺は無言で掃除道具入れからデッキブラシを取り出した。
「ちょ、待って! 今のは冗談だから! そんなもの持たないで! それと顔が怖いわ!」
再び正眼に構える俺を見てビビりまくるブリちゃん先輩。
そんなにビビるくらいなら不意打ちなんてしなけりゃいいのに。
「火の精霊の攻撃は分かりました。他の精霊はどうなんです?」
とりあえず火の精霊は、嫌がらせくらいにしか使えない事が分かった。
他の精霊の攻撃はどうなんだろうか?
「嫌がらせって何よ。確かに一見与えるダメージは少ないかもしれないけど、何時間もかければ相手を殺す事だって出来るわよ? きっと」
「・・・そんな死に方だけはしたくないですね」
どんな拷問だそれ。前世でどれだけ悪行を積んだヤツが今生でそんな死に方をするはめになるんだ?
「そうは言うけど、私はまだ光と闇の精霊は使えないのよね。火の他の精霊となると、水と風と土の精霊になるけど、どれも戦闘向きじゃないわ」
「風の精霊は――あ、いや、何でもないです」
風の精霊ならドラ〇エのバギに代表される、風圧で切断する魔法・・・と言おうと思ったが、火の魔法があれだったんだから風の方もお察しだろう。
せいぜいUSB扇風機の半分も風力が出れば御の字、といったところじゃないだろうか。
「土魔法で相手の呼吸を止める、というのはどうでしょうか?」
「! その発想は無かったわ! いいわねそれ! 土の精霊よ、お願い!」
「痛たたた! だからいきなり俺で試すなよ! フン!」
「きゃっ!」
ブリちゃん先輩の指示でパチンコ玉くらいの土の玉が飛んでくると、いきなり俺の鼻の穴にすっぽりと入った。
どうやらブリちゃん先輩の使役できる精霊ではこのサイズが限界らしい。
それはそうと鼻の穴を片方塞がれたくらいでやられるヤツはいないだろう。実際俺もちょっと痛かっただけでさほどダメージも受けていない。
俺は反対の鼻を押さえると「フン!」と力んだ。
俺の鼻から勢いよく飛び出した土の玉はブリちゃん先輩の足元に命中した。
「汚いわね! 鼻クソをこっちに飛ばさないでよ!」
「そっちが悪いんだろうが! てかそれは土の玉で俺の鼻クソじゃねえよ!」
そんなデカイ鼻クソあってたまるか。
ちなみに土の玉は地面にぶつかった衝撃で粉々に砕けていた。
ディアナの土の魔法に拘束された時には全力で暴れてもビクともしなかったんだがな。
「私の魔法はこんな感じなんだけど、残りの魔法はどうする?」
「そうですね。一応水と風の魔法も見せて下さい」
まあ残りもお察しだったよ。
俺はブリちゃん先輩にお礼を言った。
「まあまあ楽しかったです」
「何その反応! なんだかムカつくんだけど!」
とりあえずブリちゃん先輩の魔法はディアナの足元にも及ばないのは分かった。
ディアナは凄いヤツだったんだな。なんで”悪役令嬢対策倶楽部”なんかに入ったんだろう?




