その5 本質を見極めろ
「物事の本質を見極める能力が大切だと思いますわ」
ここはいつもの貴族学科の部室棟。今日の悪役令嬢対策倶楽部の部活動は、ローゼマリー会長のそんな言葉から始まった。
ふむ。物事の本質か。確かにそれを見極める事が出来ればスゴイ事だろうけど、具体的には何をどうすれば良いのかサッパリだ。
「それをみんなで考えるのですわ」
胸を張ってキッパリと答えるローゼマリー会長。
相変わらず他力本願ですね。まあいいんですけど。
「本質・・・そいつの正体という意味なのですよ?」
最初に発言したのはオレンジ色のロングヘアーのアイドル系美少女、クラリッサだ。
「正体と本質というのはまた別なんじゃないか?」
「どういう事なんですよ?」
仮面の男の正体は?! みたいな話はあっても、仮面の男の本質は?! とはならないだろう。
「仮面の男の本性は?! ならありそうだけどね」
そう言ったのは黒髪前髪パッツン少女のエッダだ。
なるほど。そういう表現もありか。
「私はアルトは人の本性を言い表すのが上手いと思うぞ」
銀髪の麗人、バルバラが言った。
ていうか俺? 自分ではそんなつもりはないんだけどな。
「以前私の事を”脳筋”だと言ったじゃないか」
まあ確かに言ったな。
「私はなるほどと感心したんだぞ」
「いや、自分で感心するなよ!」
あの時も言った気がするが、”脳筋”は決して褒め言葉じゃないからな!
バルバラの言葉に少女達は、ああなるほど、と相槌を打った。
クラリッサが勢いよく手を上げた。
「アタシはどうなんですよ?」
「阿呆の子だな」
「「「「おお~っ」」」」
「阿呆の子じゃないのですよ!」
お前はいつもそう言うが、みんなは認めてるみたいだぞ。
「ウチの事はどうだい?」
エッダか? お前はそうだな・・・
「いたずらっ子だな。けど基本はいいヤツだ」
「なっ! 最後のは余計だよ!」
耳まで真っ赤になって否定するエッダ。
そういやコイツは少しこういう偽悪的な所があるよな。
そういう所はちょっと中二入っている、と言って通じるかな? ・・・通じないだろうな。この世界には中学校はないみたいだからな。
「アタシもいい子なのですよ?」
「いや、お前は阿呆の子だろう。やっぱり」
「こ、この平民アルト!」
バルバラが俺の隣を指差して言った。
「ディアナはどうだい?」
「ディアナか・・・」
俺達は、ぼんやりとイスに座っているディアナを見つめた。
何となくディアナの方から妙な緊張感が伝わって来る。
どうやらディアナはいつものように半分寝ているようなフリをしながら、耳をそばだてて俺達の言葉を聞き逃さないようにしている様子だ。
「ディアナは”ムチムチ”なのですよ!」
「「「ああ~っ」」」
「違う。ムチムチ違う」
クラリッサの容赦ない一言にディアナは涙目になるのだった。
いや、悪いが俺もディアナはムチムチだと思うぞ。
ディアナの心に深い傷を負わせた俺達はいよいよローゼマリー会長の方へと向き直った。
会長はゴクリと喉を鳴らすと自分から切り出した。
「わ・・・私はどうなんでしょうか」
「その前にアルトはどうなんですよ?」
「俺か?!」
「あ、あの私は・・・」
突然振られて驚く俺と、覚悟を決めて踏み込んだのにすかされてショックを受ける会長。
俺と言われても・・・自分で自分の事は分からないぞ。
「アルトは”頼りになる”のですよ」
「うん。”みんなの人気者”だよね」
「知識も豊富なのに偉ぶらない。”立派な男”だ」
「俺知っているよ! それって”ほめ殺し”ってヤツだ!」
真っ赤になって叫ぶ俺を見てケラケラと笑うクラリッサ達。
チクショー。からかわれていると分かっていても顔が火照って仕方が無いぜ。
「いやいや、分かっているのです。アルトは”照れ屋”なんですよ」
「ああそれは言えてるね」
「褒められるといつも居心地が悪そうにしているものな」
ぐっ・・・ 何も言い返せない。
それについてはまあまあ自覚があるからな。
だが仕方が無いだろう? 男に褒められたならそいつの肩でもどついときゃいいが、こんな美少女達に褒められたら一体どんな反応をすりゃあいいんだよ。
俺は仏頂面を作って咳払いをする事で誤魔化した。
そんな俺を見てクスクスと忍び笑いをする少女達。
くそう。やり辛いったらないぜ。
「ああもう、俺の事はどうだっていいだろう!」
「ほらやっぱり照れているのですよ」
「誤魔化してるね」
「顔が赤いぞアルト」
ダメだ俺が何を言っても火に油を注ぐ結果にしかならない。
俺は助けを求めて隣に座るディアナに振り返った。
ディアナはいつもは眠たそうな目をしているが・・・今日の彼女は一緒に地獄に落ちる仲間を求める目をしていた。
マズイ。
俺は咄嗟の判断で瞬時に視線を切ったが、ディアナは俺を逃がさなかった。
「アルトは”優しい”」
「おおっ! ディアナも言うねぇ! そうそうアルトって言葉は乱暴だけど意外と”紳士”だよね」
「それに”頼りになる”のですよ」
「いや、クラリッサ。それはさっき君が言ったよ」
なんてこった! 三人がかりの褒め殺しが四人がかりの褒め殺しになってしまった!
ますます逃げ場を失くした俺はローゼマリー会長に助けを求めた。
会長は俺の視線を受けてニッコリと微笑んだ。
あれっ? これってマズった?
俺は悪い予感に背筋が凍り付いた。
「みなさん待って頂戴。そんなに言われてはアルトが困ってしまいますわ」
会長の言葉にみんなはピタリと静かになった。
かいちょおぉぉ。
俺はあなたを信じていましたよ。
さっきは”悪い予感”なんて言ってスミマセンでした。
あれ、どうしてだろう。涙で曇って会長の顔が良く見えねえや。
「順番に言っていかないと整理がつきませんわ」
「あ、じゃあアタシがメモを取るのですよ」
「各自ノートに書いて見せっこするのもいいかもね」
「私もアルトの事なら兄上の次に沢山語れるぞ」
「負けない」
「ギャアアアアア!」
こうして俺はこの日少女達に散々オモチャにされたのだった。
悪質な褒め殺しからようやく解放された時、俺の精神は新たな悟りを開く一歩手前だった。
もう誰か俺を殺してくれ。




