その3 ひ孫な先輩
今年も残すところ後わずかになりました。
今年最後の更新になります。
その日の放課後、俺はいつものように貴族学科の部室棟に向かって歩いていた。
「そこのあなた。ちょっといいかしら」
「あ、そういうの間に合ってますので」
俺は少女の誘いを断ると部室に「ちょっと待ちなさいよ!」・・・向かおうとしたけど向かえなかった。
そこにいたのは頭に大きなリボンを結んだ小柄な女子生徒だった。
中学生か? いや、この学園にそんなのないか。
どうやらこの子が俺に声を掛けて来たみたいだ。
「いえ、本当に間に会っていますから」
俺は再び女子生徒の誘いを断ると部室に「だから何で断るのよ!」
・・・ええ~。こういうのって絶対にいつも面倒になるヤツじゃん。そういうパターンじゃん。
俺は渋々少女に向き直った。
「俺に何か用事でもあるんですか? あ、ひょっとして迷子とか? すみませんが俺平民学科の生徒なんでこの辺良く分からないんですよね」
「私が何年この学園にいると思ってるの! 今更道に迷う訳ないじゃないの!」
「何年って・・・ ここの先生のお子さんですか?」
「違うわよ、学生よ! 私はブリギッテ・アスペルマイヤー。この学園の最上級生なんだから!」
ええっ?! 最上級生ということは五年生?
てことはブリちゃんは「ブリちゃん言うな!」ブリギッテ先輩は18歳か19歳になるわけか?
いやいや、どう見ても中学生、下手すりゃ小学生くらいにしか見えないんだが。
本当なのか?
ブリちゃんことブリギッテ先輩はエッダよりも小柄な女子生徒だ。頭に大きなリボンをしている。
多分本人としてはリボンの分だけ身長をかさ増ししているつもりなんだろうが、いかんせん逆に彼女の容姿を幼く見せている気がする。
ちなみにアッシュブラウンの髪を後ろに纏めたおでこちゃんでもある。
「まあいいわ。あなたこの辺で青い髪の胸の大きな女子生徒を見なかった?」
ブリちゃん先輩(仮)の言葉に俺は眉をひそめた。
その特徴を持つ女子生徒に心当たりがあったからだ。
てかモロにディアナの事じゃねえか。
「参考までにお伺いしますが、その女子生徒とのご関係は?」
ブリちゃん先輩はぺったんこな胸を大きく張って答えた。
「あの子は私のライバルよ!」
なるほどそういう事か。
俺はブリちゃん先輩に教えてあげた。
「絶対にかなわないよ」
「テメエ今どこを見て言ったゴルァ! だから同情の目で見るんじゃねえよ! ざけんなテメエ!」
俺の言葉に激昂するブリちゃん先輩。
「あんただって”アスペルマイヤーの大魔女”の名前くらいは聞いた事があるでしょ。それって私の大お婆様の事なのよ」
もちろん俺は聞いた事はないが、つまりこれはあれか? ブリちゃん先輩のひいお婆ちゃんは有名な魔法使いだったという事でいいのか?
あれ? そういえばさっきも気になっていたけど、アスペルマイヤーってディアナの家の名前じゃなかったっけ・・・
「そしてあの子と私は親戚関係ってこと。同じ曾祖母を持つはとこなのよ」
ブリちゃん先輩ことブリタニカ先輩「ブリギッテよ!」ブリギッテ先輩の説明によると、彼女とディアナは歳の近いはとこなんだそうだ。
そして二人の共通するひいお婆ちゃんに”アスペルマイヤーの大魔女”と呼ばれるスゴイ魔法使いがいたと。
「”いた”じゃない”いる”よ。勝手に大お婆様を殺さないで頂戴」
サーセン。
で、ブリちゃん先輩が言うには彼女達のひいお婆ちゃんは妖精を見る目を持っていたんだそうだ。
「妖精じゃないわ、精霊よ。あなたって本当に何も知らないのね」
俺の言葉に不思議そうな顔になるブリちゃん先輩。
ヤバいな。あまりこの会話を続けていると俺の事を疑われそうだ。
俺の体はこの世界の学生アルトのものだが、記憶の方は現代日本の高校生のものだ。
今まで誰にも知られていないこの秘密が、こんな事でばれてはどうしようもない。
内心ヒヤリとした俺だったが、ブリちゃん先輩はさほど気にした様子はないみたいだ。
大方俺が平民だからものを知らないとでも思ったのだろう。
あまり物事を深く考えない性格みたいで助かったぜ。
「私達人間は魔法を使えない。魔法を使うためには精霊を使役する必要があるの」
そうだったのか。知らなかった。
以前ディアナが俺に魔法を掛けた時に「〇〇の精霊」とか言ってたけど、あれってそういう意味だったんだな。
「じゃあ俺も精霊に頼めば魔法が使えるんですか?」
俺の言葉にブリちゃん先輩は呆れ顔になった。
「あなた男じゃない。それに平民なんでしょ。男や平民には魔法が使えない。そんな事すら知らないの? それが出来るのが私達貴族なのよ」
そう言えば以前誰かにそんな事を言われたような・・・
しかし、俺には魔法が使えないのか。有名なあのセリフが言ってみたかったのに残念だ。
「・・・今のはメラゾーマでは無い・・・メラだ」
「あなた何言ってんの?」
おっといけない、うっかり声に出ていた。
「とにかく私とディアナは、あ、ディアナはあの子の名前ね、私とディアナは”アスペルマイヤーの大魔女”と呼ばれた大お婆様を持つ魔法使いとしてのライバルなのよ。でもあの子はずっと幼い頃から大お婆様から魔法を教わって来た。だから今まではあの子の方がリードしていたの。悔しいけどこれは認めるわ。」
ふむふむ。ディアナは子供の頃から大魔法使いのひいお婆ちゃんに魔法を教わっていたんだな。
そしてブリちゃん先輩的にはそれが面白くなかったと。
「でも私は学園で本格的に魔法を学んだわ。今ならきっとあの子にだって勝てるはず。そう思って何度も挑戦しようとしたんだけど、その度にあの子はのらりくらりと避けているのよ!」
なるほど事情は大体分かった。
ブリちゃん先輩には悪いけど、面倒臭がりなディアナがそんな挑戦を受けるとは俺には思えない。
きっと全力で魔法を駆使してけむに巻いて来たんだろう。
というか、そうやってディアナにしてやられている時点で、二人の魔法使いとしての力量の差はお察しなんじゃないだろうか?
「分かりました。ディアナ・アスペルマイヤー様に会う事があればそのように伝えます」
「頼んだわ!」
俺の約束に満足そうに頷くブリちゃん先輩だった。
「――という事があったんだけど、ディアナどうする?」
「面倒」
だよねー。
ここはいつもの悪役令嬢対策倶楽部の部室。俺はディアナにさっきの出来事を話していた。
そして瞬時に切り捨てられるブリちゃん先輩。俺の予想通りのバッサリ感だ。
まあ、伝えておくとは言ったが、ディアナを説得するとは言ってないし。
これで約束を果たした事になるだろう。
どうせもう会う事は無いだろうし。
俺はそう考えて、今日の事は綺麗さっぱり忘れる事にしたのであった。
「ちょっとあんた! あれからもずっとあの子に避けられているんだけど! あんたあの子に伝えてくれたんでしょうね?!」
「あ、そういうの間に合ってますので」
「だから何なのよその断り方! あ! ちょっと待ちなさいよ!」
よもやあれからブリちゃん先輩に毎日のように部室棟の前で待ち伏せされることになるとは思いもしなかったよ。
ディアナのヤツ、一度でいいからはとこの相手をしてやってくれないかなあ。
一年の計は元旦にあり。という事で、次の更新は元日を予定しています。
読み飛ばしにご注意下さい。
今年は44話更新して総合評価276ptとなりました。
・・・小説ってどうすれば読んでもらえるんでしょうね?
それでは皆様どうぞよいお年をお迎えください。




