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悪役令嬢対策倶楽部~オレが助ける伯爵令嬢は未来の悪役令嬢  作者: 元二
第三章 ディアナ・アスペルマイヤー編
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その1 昔ばなしに学ぼう

「では本日の”悪役令嬢対策倶楽部”の活動を始めますわ!」


 今日もローゼマリー会長の宣言で倶楽部活動が始まった。

 ここはいつもの貴族学科の部室棟。ローゼマリー会長はゴージャスな金髪縦ロールの美少女だ。

 この倶楽部の目的は五年後にやってくる会長の破滅の未来を避ける事である。

 そのために集結した? のが俺達六人なのだ。


 まあ具体的には何をやったらいいのかも分からない手探り状態なんだが。

 いや仕方が無いだろう。だって五年も先の話なんだぜ。


 ローゼマリー会長は俺達を見渡して言った。


「今日は先人の知恵に学ぼうと思っていますの」


 こうして俺達のいつもの活動が始まった。




 会長の言葉に、先ずは黒髪前髪パッツン少女のエッダが乗っかった。


「先人の知恵。冬場に唇が荒れた時にはハチミツを塗ればいい、とか?」

「いや、会長が言いたいのは、そういう”おばあちゃんの知恵袋”的な話じゃないと思うぞ」

「素晴らしいお話ですわ! 私冬場の乾燥には弱くて」


 それでいいのかよ!

 まあでもこういう素直な所が会長の良い所だ。


「そういうお話も素敵ですが、昔から伝えられているお話には現代の私達にも役立つ内容があるのではないか、と思ったのですわ」


 まあ確かに。現代まで廃れずに残っているなら、それ相応の理由があるのかもしれないな。


「昔の話――。 神話のお話の事なのですよ?」


 神話の、というか歴史の成績の悪いクラリッサが眉間に皺を寄せた。

 コイツはそんな顔をしても可愛く見えるんだから反則だよな。


「神話の話か。いや、ここはアルトの話を聞くべきじゃないかな」


 クラリッサの言葉に銀髪の麗人、バルバラが待ったをかけた。

 ていうか何で俺なんだ?

 しかし、そう思ったのは俺だけで、少女達は全員バルバラの意見に賛成の様子だ。


「庶民の知恵というものは馬鹿に出来ないからな。是非アルトの話を聞いてみたい」


 うんうんと頷く少女達。

 しかし弱ったな。庶民も何も、そもそも俺はこの世界の話なんて何も知らないんだが。



 俺の体はこの世界に生まれ育ったアルトの物だが、記憶、というか中身は現代日本で生まれ育った高校生の物なのだ。

 俺はある日突然、この世界のアルトの体に転生していた。

 元のアルトの精神がどうなったのかは分からない。俺と入れ替わったのか、それとも俺の記憶に押しつぶされてしまったのか。

 ともあれ、今の俺はアルトに成り代わった事を誰にも悟られないように、このメッテルニヒ魔法学園で生活しているのだ。


 それはそうと、今の状況をどうするか。

 ・・・まあいいか。いつぞやの学園の七不思議の時もそうだったが、どうせ会長達は平民学科の知り合いなんて俺以外にいないんだし、日本の昔ばなしをしても別に問題無いだろう。


 さて、そうと決まれば何の昔ばなしをするか。今日の活動内容に沿うなら、何か訓話的な要素のある話がいいだろうな。

 ・・・そうだな、あれにするか。お宿に泊まって大きなつづらと小さなつづらを選ばされる話。


「”舌切りスズメ”なんてどうでしょうか?」

「聞いた事の無いお話ですわ」


 小首をかしげるローゼマリー会長。でしょうね。日本の昔ばなしですから。


「興味ある」


 さっきまで寝ていたディアナがムクリと起き上がった。

 コイツはいつも寝ているくせに、何故か俺の話にはよくこうやって食い付いてくるんだよな。


「みなさん良ろしいですか? ・・・はい。ではアルト、お願いしますわ」

「分かりました。むかーし昔の事じゃった。ある所にお爺さんとお婆さんがおったとさ」

「普通に話すのですよ」


 ぐっ、確かに。ついノリで喋っていた俺は阿呆の子に指摘されて「阿呆の子じゃないのですよ!」、羞恥で耳まで火照ってしまった。


「え~、ゴホン。ある日お婆さんがノリを作っていた所、スズメがやって来てそのノリをつついて食べてしまったのです」

「スズメって何なんだい?」


 エッダが不思議そうに俺に聞いて来た。

 あれ? この世界にはスズメはいないのか? いや、この国にいないだけかもしれないな。


「あ~、このくらいの小鳥だ。俺の所じゃ割とメジャーな鳥なんだけどな」

「スズメ。凄く愛らしい響きですわ。きっと見た目も愛らしいのでしょうね」


 ローゼマリー会長は興奮に頬を染めている。会長は色白だから興奮すると直ぐに顔に出るのだ。

 みんなもそれぞれスズメの姿を想像しているみたいだ。

 まあ確かにスズメは小さくて可愛らしい生き物だよな。・・・さて、話を続けるか。


「怒ったお婆さんはノリを食べたスズメを捕まえると、その舌をハサミでちょん切ってしまいました」

「「「「「きゃあああああっ!!」」」」」


 小さくて可愛らしい小鳥に対する残酷な仕打ちに少女達は一斉に悲鳴を上げた。


「何でそんな酷い事をするんですの!」

「あ、いや俺に言われても。そういう話ですし」

「アルトは残酷」

「だから俺がやった訳じゃないんだって」


 少女達は一斉に「そんな人だとは思わなかった」と言わんばかりの非難の目を俺に向けて来た。

 いや、何でこうなったし。


「分かりました、止めましょう! この話は止めで! 何か別の話にしましょう!」


 俺は慌てて別の昔ばなしをする事にした。




「ポチが鳴いた場所を、正直爺さんが掘ってみた所、何とそこには大判小判――ええと、財宝が埋まっていたのです」

「ポチ凄いですわ!」

「正に忠犬だね」

「ポチは出来るヤツなのです」

「財宝か~、夢があるねえ」

「犬飼いたい」


 結局俺は「花咲か爺さん」の話をする事にした。いくつか思い付いたタイトルを言った所、会長が「お花を咲かせるお話なんて素敵ですわ」と食い付いたからだ。


「ポチはなんて利口なんでしょう。きっと見た目も利発で愛くるしい姿をしているのでしょうね」


 興奮に頬を染めるローゼマリー会長。そしてそれぞれにポチの姿を想像する少女達。

 あれ? 何だろう、さっきもよく似た光景を見た気がするぞ。

 何だかイヤな予感しかしないんだが。


「――ポチに騙されたと知って、怒った意地悪爺さんはポチを殺してしまいました」

「「「「「きゃあああああっ!!」」」」」


 賢くてお爺さん思いの忠犬に対する残酷な仕打ちに少女達は一斉に悲鳴を上げた。


「何でそんな酷い事をするんですの!」

「いや、だから俺に言われても。そういう話ですし」

「君本当に残酷だね」

「俺じゃないって。やったのは意地悪爺さんだから」

「犬飼いたい」


 口々に俺を非難する少女達。

 ディアナはポチの忠犬度合いが刺さったようだ。犬飼いたい病にかかってしまっていた。




 俺は少女達をどうにかなだめすかして別の話をする事にした。ていうかいい加減に最後まで話をして終わらせたい。


「”桃太郎”ですか。不思議な名前の人ですね」

「アルトの所では良くある名前なのです!」

「勝手に決めるな! 知り合いにそんな名前のヤツは一人もいなかったわ!」


 知り合いどころか学校中捜してもいないんじゃないか?


「――お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がドンブラコドンブラコと流れて来ました。お婆さんはその桃を拾うと家に持って帰りました」

「今度は桃に酷い仕打ちをするんじゃないだろうね?」


 バルバラが疑いの眼で俺を見た。

 どうやら立て続けに起こった悲劇にすっかり警戒しているらしい。

 ていうか、桃にする酷い仕打ちって何だよ。相手は桃だぞ? 指で押して悪くするとかか?


「――こうして桃太郎はお爺さんとお婆さんに見送られて鬼退治に向かいました。ええと、鬼というのは俺達の所のモンスターみたいなヤツです。亜人と思ってもらえばいいです」


 この世界にはモンスターが存在している。亜人というのは猿と人を足して割ったようなモンスターらしい。

 色々な種類がいるが、総じて狂暴で人間を見付けると見境無く襲い掛かって来るそうだ。


「桃太郎が鬼ヶ島を目指して歩いていると一匹の犬が話しかけて来ました」

「ホラ来たよ! 今度は犬をどんな酷い目に合わせるつもりなんだい?!」

「どんだけ疑ってんだよ! 何にもしねえよ!」

「きっと皮を剥いで逆さづりにして棒で殴り殺すのですよ!」


 クラリッサの残酷な発言に怯える会長達。そして怯えるクラリッサ。

 いや、お前自分で言った言葉に自分でビビってんじゃねえよ。


「そんな事しねえよ。犬は桃太郎からきびだんごを餌にもらってお供をする事になるんだよ」

「何で桃太郎はお婆さんから犬の餌を渡されているんですよ?」

「・・・犬の餌は言い過ぎだ。お婆さんの愛情弁当だ」


 ええと、次に仲間になるのは猿だったかキジだったか。


「桃太郎が犬をお供に歩いていると一羽のキジが話しかけて来ました」

「今度はキジの舌を引き抜くつもりかい?!」

「んな事するかよ! てか”舌切りスズメ”も別に舌を引き抜いてはいないからな!」


 桃太郎のお爺さんとお婆さんは、”花咲か爺さん”の意地悪爺さんと”舌切りスズメ”の強欲婆さんじゃないからな。

 別の世界観を混ぜてんじゃねえぞ。


「今度は鳥を手下にしたのです。きびだんごは万能なのですよ」

「きびだんご・・・ どんな食べ物なのでしょうか」


 会長が何を想像しているのか知りませんが、お爺さんと二人暮らしのお婆さんが持たせてくれた食べ物ですよ。

 貴族の会長が口にするような物ではないんじゃないですかね。


「読めた! 次はサメだ!」


 バルバラが突然叫んだ。てか急に何言ってんのお前?


「お供だよお供! 陸の犬、空のキジ、と来れば次は海のサメで間違いない!」

「おおっ! 確かになのです!」

「桃太郎が犬とキジをお供に歩いていると一匹の猿が話しかけて来ました」

「どうして猿なんだい?!」


 知らんがな。

 桃太郎的には別に陸海空を制するつもりは無かったんじゃないか?



「――こうして桃太郎は鬼を退治すると、鬼のため込んだお宝を持ってお爺さんとお婆さんの待つ家に帰ったのでした」

「きっとお宝を積んだ荷車は犬に引かせたのですよ」

「「「「ああ、なるほど」」」」

「桃太郎はそんな事しねえよ!」


 結局今日の活動で分かった事は「昔の人は残酷だ」という事だったんだそうだ。

 まあ確かに間違いじゃないよな。

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