エピローグ テスト結果
今回の話で第二章が終了します。
ザワザワ・・・
いつもと違い廊下は人で溢れていた。
今ここにトイレに駆け込みたいヤツがいたら絶望に青ざめそうだな。
俺は何となくそんな下らない事を考えていた。
「余裕だねアルト」
「そうか? まあ今回は望み薄だからな」
「お前一科目丸々ブッチしたからな」
廊下に貼られた中間テストの順位表を見ながら、俺はダミアン達とそんな話をしていた。
「あった! 前回より順位が上がってたよ!」
マリオは自分の名前を見付けて、小さくガッツポーズを取った。
「俺前回より下がってんじゃん!」
そしてダミアンはショックを受けてうなだれていた。
馬鹿め。お前はずっと勉強もせずにソリティアで遊んでたからだ。
ちなみにダミアンのソリティアブームはテスト期間終了と共に去って行った。
これはアレだ、テスト勉強をしているとついつい部屋の片づけをしたくなる現象と同じだな。
さてと俺の順位は・・・ おお、丁度ダミアンの一つ上じゃないか。
思ったより悪くなかったな。
「なっ! 何で一科目少ないアルトの方が俺より順位が上なんだよ!」
「他の点が全て上だったからじゃない?」
「意外と点が取れていたんだな俺」
どうやら今回のテストはみんな数学の点が悪かったみたいだ。
以前も言った事があると思うが、元日本人高校生の俺にとってこの学園の数学のレベルは中学生で習うレベルだ。
上手い具合にそこで点差を縮められたんだろう。
・・・いや、いくらなんでも数学だけでこの順位にはならないか。
確かにマリオが言ったように他の教科の点も良かった。
どうやら俺はクラリッサに勉強を教えているうちに、知らない間に自分の勉強もしていたみたいだ。
人に教えるために復習した事で、理解力の全体的な底上げがされたんだろう。
何はともあれ、ダミアンより下でなくてマジで良かったぜ。
思わぬクラリッサ効果サマサマだったな。
「どういう事?!」
突然の女子の怒鳴り声に、俺の周りの生徒達が一斉に振り返った。
みんなの視線の先にいるのはボサボサ頭の小柄な眼鏡の少女。
彼女の名前はエバ・ヤンセン。俺が学年主席を取った最初のテストで、学年二位の成績だった女子生徒だ。
彼女の成績は・・・ おいおい、トップかよ!
随分と俺――というかアルト――をライバル視してたが、念願のトップを取れて良かったじゃないか。
俺は彼女に笑いかけた。
「良かったな学年主「あんた一科目テストを受けなかったってどういう事?!」・・・」
俺の言葉は彼女の怒鳴り声にかき消されてしまった。
剣呑な彼女の雰囲気に周囲の生徒達の間にざわめきが広がった。
こんな形で目立つのは勘弁して欲しいんだがな。
「色々事情があったんだよ」
「だからってテストを受けない理由にはならないわ!」
いや、お前が決めるなよ。
エバの一方的な物言いに流石に俺もムッとした。
「たかがテスト結果だろ? お前大袈裟なんだよ」
「なっ・・・! 何ですって・・・!」
俺の言葉に愕然とするエバ。
彼女の友達だろうか、大人しそうな女子生徒が彼女を押さえて俺から遠ざけた。
エバはまだ何か言っていたが、女子生徒に宥められながら教室に戻って行った。
「ライバルと思っていたのに裏切られた。そんな感じかな?」
「俺が知るかよ」
俺はマリオの言葉にそう吐き捨てると、すっかり不愉快になってしまった気持ちを抱えたまま教室に戻った。
「先週はずっと休んでみんなに迷惑をかけたのです! ごめんなさいなのです!」
いつもの悪役令嬢対策倶楽部。クラリッサは部屋に入った途端にオレンジ色の頭を下げた。
ローゼマリー会長達は驚いた顔をしてクラリッサに詰めかけた。
「いいのですわ。頭を上げて下さいまし」
「そうそう、ウチら何も迷惑なんてかけられてないからさ」
「そうだ。クラリッサが気にする事なんて何もないぞ」
「戻ってくれて嬉しい」
メンバーのみんなに温かい声をかけてもらえてクラリッサの目に大粒の涙が浮かんだ。
「それでお前、休んでいる間は放課後はどうしていたんだ?」
「それは・・・その・・・」
俺の質問に答え辛そうにするクラリッサ。
俺は彼女の返事をジッと待った。
「――呆れたな。ずっと同じ建物の中にいたなんて」
「・・・顔を出し辛かったのですよ」
クラリッサは毎日部室棟には来ていたものの、部室に入る踏ん切りが付かずにずっと廊下にいたんだそうだ。
「気にせず入ってくればよろしかったのに」
「そうは言うけど、流石に気まずかったんだよね」
エッダの言葉に頬を染めてコクリと頷くクラリッサ。
「それでテストの結果はどうだったんだ?」
貴族学科では俺達平民学科と違ってテスト結果で順位を付けないらしい。
とはいえ普通に解答用紙は返してくれるので、点数自体はその時分かるのだ。
「それは・・・全然ダメだったのです。前のテストとほとんど変わらなかったのです」
クラリッサの言葉に沈み込む会長達。
・・・やっぱりダメだったか。しかしある意味これは予想通りの結果だ。
でも次の学期末テストに向けて――
「でも次の学期末テストに向けて頑張ればいいだけの事なのですよ。次はアルトが絶対に良い点を取らせてくれるのです。約束したのですよ」
そう言うとクラリッサは俺の方に振り返った。
お、おう。そこまで言われちゃ責任重大だな。
俺は少しだけ腰が引けたが、ここで日和ればクラリッサの心に不安が芽生えちまう。
俺は自分を鼓舞すると、あえてふてぶてしく頷いてやった。
そんな俺の態度にクスリと笑うクラリッサ。
ちょっとわざとらしすぎたか? やせ我慢を見透かされちまったかもしれないな。
クラリッサに浮かんだ笑顔を見て会長達の表情がパッと明るくなった。
「アルトから話は聞いているよ。倶楽部活動の後に二人で一緒に勉強をしていたんだろう? 私達にも協力させてくれないかな?」
「水臭い。僕にも相談して欲しかった」
「バルバラの言う通りですわ。これからは毎日みんなで勉強会をいたしましょう」
「もちろんいいよね? クラリッサ」
俺が部活の後でクラリッサに勉強を教えていた事は、すでに会長達に話してある。
会長達は自分達がクラリッサの悩みに気が付かなかったことに心を痛めていた。
なんだかんだでみんな優しいヤツらだからな。
彼女達は相談して全員で勉強会をする事にしたのだ。
俺の心は彼女達の温かい思いで満たされた。
そしてクラリッサは何故か不思議そうな顔をした。
「いや、アルトが教えてくれるから、みんなは別にいいですよ?」
「「「「えっ?」」」」
クラリッサにバッサリ切られて驚く少女達。
いやいやクラリッサ、お前何言ってんの?!
「アタシはみんなより遅れているんですよ? みんなと一緒の勉強をしても意味が無いのです」
お・・・おう、確かにお前の言う通りだ。言ってる事は間違ってないな。
でもこの場面は違うだろ。お前には会長達の温かい思いが伝わらなかったわけ?
「周りの連中に振り回されるな、と言ったのはアルトなのですよ?」
確かに言ってた! 言ってたけど、それは今ここで使う言葉じゃないから!
会長達は振り返ると「裏切られた」とでも言いたげな目で俺を見た。
いや、違うんですよ、確かに俺はクラリッサに言ったけど、あれはそういう意味じゃないんですよ。
「約束は守るのですよアルト」
あたふたとうろたえる俺に向かってドヤ顔を決めるクラリッサ。その顔は相変わらず小憎たらしいが――
やっぱり可愛かった。
ここで第二章が終了します。
ちょっと真面目な要素が多かった気もしますがどうでしょうか?
主人公たちは真面目に対策せずに毎日遊び呆けているなあ。というご意見があったので、少しだけ真面目な話に寄せてみました。
そしてみなさんは、読んでいてヒロインズの誰が誰かちゃんと把握してくれているでしょうか?
会話劇の小説って大変ですね。
ここまで読んで頂きありがとうございます。第三章もよろしくお願いします。
楽しんで頂けた方はどうか評価の方をよろしくお願いします。




