その11 趣味で人生を豊かにしよう
「では本日の”悪役令嬢対策倶楽部”の活動を始めますわ」
金髪縦ロールの美少女、ローゼマリー会長の宣言でいつものように倶楽部活動が始まった。
「私は趣味を持った方が良いと思うのですわ」
「また、いきなりですね」
会長は本で趣味は人生を豊かにすると読んで、自分が趣味を持たない事に気が付いたそうだ。
「趣味を持てば人生が豊かになって、未来の破滅も防げるかもしれませんわ」
どこがどうしてそういう結論に繋がったのかは分からないが、会長の中では何故かそう結論付いたらしい。
まあ、趣味を持つ事自体は悪い事じゃない。
じゃあ今日の活動は会長の趣味を見付けるって事で。
「みなさんはどんな趣味を持っているんですの?」
ローゼマリー会長は、先ずはメンバー達の趣味を聞いて参考にする事にしたようだ。
会長はオレンジ色の髪のアイドル系美少女クラリッサに尋ねた。
「私の趣味は絵を描く事ですよ」
ほう。意外だな。
でも言われてみれば何となくクラリッサには似合う気もする。
「そうなのですよ? ならちょっと恥ずかしいけど描いた絵を見せてあげるのですよ」
クラリッサは少しはにかみながら鞄から紙の束――ノートを取り出した。
コイツもいつもこうしてしおらしくしていればいいのに。美少女なのに勿体ない。
俺はそんな事を考えながらも彼女からノートを借りてめくると・・・
「え~と、何だこれは?」
そこにはグネグネとした何かが描かれていた。
下手なら下手でツッコミようもあるが、これは何と言えばいいのかコメントに困る絵だ。
俺は黙って次のページをめくった。
そこにも違う形のグネグネが描かれていた。
パラパラとめくってみたが、どのページにも描かれているのは謎のグネグネだけだった。
「空を見上げて面白い形の雲を見付けたらスケッチしているのです」
「そんなの分かってたまるか!」
本人としては楽しいのかもしれないが、俺が見て分かるモノを描いた絵を見せてくれ!
「アタシは雲しか描かないのですよ」
「どんだけピンポイントな趣味なんだよ!」
ローゼマリー会長は熱心にクラリッサのノートを見ているが、これを参考にするのはどうだろうか。
これだったらまだバルバラの趣味の方が参考になるんじゃないか?
「私の趣味か?」
「ああ、お前の趣味は剣術だろ? 毎日あれだけ熱心に素振りしているんだから」
俺の言葉に呆れ顔をする銀髪の麗人――バルバラ。
「あれは将来のために鍛えているだけだ。誰だって仕事と趣味は別だろう」
「――確かにそうだな」
思わぬバルバラの正論に俺は言葉を失くしてしまった。
バルバラは鞄からノートを取り出すとテーブルの上に置いた。
「私の趣味は絵を描くことだ」
「お前もかよ。つーか上手いな!」
「すごく上手ですわ!」
「これはシジュウカラだね。へえ。上手く描けているよ」
バルバラの描いた絵は、お世辞抜きに素人が描いたとは思えないほど上手い絵だった。
写実的と言えば良いのか、俺の目にはまるでプロのイラストレーターが描いた絵のように見えた。
こいつ馬鹿みたいな身体能力を持ってるくせに、こんな特技まであったんだな。天は二物を与えずと言うが、バルバラに関しては美人だし絵が上手いしで、三物も与えられた事になる訳だ。
「まあまあ上手いのです」
「お前だけはそれ言っちゃダメなセリフだからな」
阿呆の子はほっといて「誰が阿呆の子なのですよ!」、これだけリアルな絵が描けるのなら、俺が前から思っていた事を聞いてみるのもいいかもしれない。
「なあ、バルバラ。良ければお前の兄貴の顔を描いてみてくれないか?」
そう。俺はコイツと話す度に話題に上る兄貴の顔を、一度見てみたいと思っていたのだ。
「もちろん構わないさ。」
バルバラは二つ返事で引き受けるとペンを手にノートに向かった。
・・・それはいいんだが、何でそんなに俺の顔をジッと見ているんだ?
バルバラは迷いなくペンを動かすと、あっと言う間に俺の顔を描き上げた。
「アルトにそっくりですわ!」
「いや、明らかに俺を見ながら描いてたから! 俺は兄貴の顔を描いてくれって言わなかったか?!」
「私は見たものしか描けないんだ!」
「だったら最初にそう言えよ!」
だからって何で俺の顔を描くかな。
どうやら天は三物を与えたが、その分取り上げる所はキッチリと取り上げていたらしい。
「そう言うアルトの趣味は何なんですよ?」
「俺か? 俺の趣味は――」
サッカー・・・は何となく趣味って気がしないな。昔は時間が空いた時にはスマホで動画を見たり、アプリでゲームをやっていたが。
動画って言っても通じないだろうし、ここは無難にゲームかな。
俺はチラリと黒髪パッツン前髪少女エッダの方を見て言った。
「エッダと同じ趣味かな」
「エッダの趣味は何なんですの?」
「う~ん、ウチの趣味はやっぱりお化粧かな」
エッダの言葉を聞いて驚愕の表情で俺を見る会長達。
「ウソ付け! お前そんなのしてるの見た事ないぞ!」
慌てる俺を見てケラケラと笑うエッダ。
「冗談冗談。アルトは僕の趣味がゲームだって言いたいんだろ?」
「ええっ! お化粧じゃないんですよ?!」
「常識的に考えれば分かるだろ!」
どこの男子が趣味を聞かれて「お化粧する事」なんて答えるか。
仮に本当にそれが趣味だったとしても秘密にするわ。
「でもお化粧が趣味っていうのも全くのウソってわけじゃないよ。少し前の事になるけど、ガラの悪い恰好をした二人組の男子が暇を持て余しているのを見付けてさ。髪の毛をツンツンに立てていた方の人には顔に傷があった方が絶対に似合うと思ったから、特別に両頬に傷のメイクをしてあげたんだよ。」
「ダミアンの傷を付けたのお前だったのかよ!」
忘れもしない”白馬の王子様作戦”の時、チンピラの恰好をしたダミアンは両頬に良く目立つ傷を付けていた。その時も妙にリアルな傷だとは思ったのだが、まさかこんなところでその秘密を知る事になるとは思わなかったわ。
エッダの言葉に感心するローゼマリー会長。
「お化粧でそんな事まで出来るのですのね」
「・・・それって化粧って言っていいんですかね?」
化粧と言うより特殊メイクなのでは?
俺は我関せずと寝ている青色ゆるふわヘアーの少女の袖をツンツンと引っ張った。
俺の起こした振動が少女の腕を伝い、彼女の豊かな母性の膨らみをプルリと揺らした。
ごっつぁんです。
「ディアナの趣味って何だ?」
「ん・・・寝る事」
端的に答えるディアナ。
ですよねー。知ってた。
「みなさん色々な趣味を持っていらっしゃるのね。私は何を趣味にしたら良いのかしら・・・」
顎に細い指をあてて考え込むローゼマリー会長。
というか――
「というか、会長は読書が趣味なんじゃないんですか?」
そもそも今日の話の発端も本で読んだ事がきっかけみたいだし、会長は図書館から借りた色々なジャンルの本を毎日読んでいると、以前何かの会話の流れで聞いた事がある。
俺の指摘に会長は驚いたような表情を浮かべた。
「そうかしら? 私の趣味って読書なのかしら」
いや、知らないし。でもそれだけ読んでいるのなら少なくとも嫌いって事はないんじゃないかな?
会長は少し考えていたみたいだが、やがて頷くとパッと興奮に頬を桜色に染めた。
「私の趣味は読書! これから人に聞かれたらそう答える事にしますわ!」
こうして会長にも趣味が出来た事で今日の活動はめでたく終了した。
オチは無いのかって? 毎日倶楽部活動をやっていれば普通にこういう日だってあるだろう?




