その5 商売を考えよう
「ウチも色々と考えてみたんだけど、商売を始めるのはどうだろう?」
いつもの”悪役令嬢対策倶楽部”の活動時間中。
突然のエッダの提案に俺達は思わず顔を見合わせた。
「もし、将来ローゼマリーが破綻しても、お金さえあれば何とかなると思わない?」
なるほど。エッダの言う事にも一理ある。
確かに十分なお金さえあれば、ローゼマリー会長一人が慎ましく生活していく事くらいは出来るだろう。
「爵位を買うんですの?」
「発想のスケールが違ってた?!」
流石生粋の貴族令嬢。俺のようなド平民とは考えが違うぜ。
しかし、伯爵家を買うのってどれくらいの財力が必要なんだろうな。
「商売って何をするんですよ?」
「う~ん。手っ取り早く儲けるなら犯罪ギリギリを攻めるしかないかも」
「そんなのはダメですわ!」
エッダの発言に反発する会長。
「まあまあ、会長。エッダも冗談で言っただけですから」
「・・・ぐすん。ゴメン」
「本気で言ってたのかよ! しかも涙を流すほどショックだったとか?!」
「父上も以前『犯罪は止せ。”先っちょだけだから”とか言われても絶対に心を許すなよ。』と言っておられたしな」
「父上後半何か別の事を言ってないか?!」
俺のツッコミにキョトンとするバルバラ。
何だろう、そんな顔をされたらまるで俺だけエロいヤツみたいじゃないか。
あ、クラリッサも顔を赤くしているな。
「な、何が言いたいのですよ」
「この耳年増め。」
「! こ・・・この平民アルト!」
だから平民アルトは罵倒語じゃないっての。
「商売、何するの?」
ディアナの言葉で動きを止める俺達。商売か。会長に似合う商売といったら何があるんだろうな?
「アルトは私は何の商売をすれば良いと思いますか?」
「・・・そうですね。大して儲からないとは思いますがパン屋とかどうでしょうか?」
金髪縦ロール少女のパン屋というのもどうかと思うが、俺の中では何となく会長のイメージに合うと思ったのだ。
「私パンを焼いた事はありませんが、ケーキでしたら焼いた事がありますわ。パンが無いならケーキを食べればいいじゃない!」
「マリー・アントワネットかよ!」
つーかそっちの方がビジュアル的にも似合ってるわ!
「アタシはお花屋さんが良いと思うのです!」
元気良く提案するクラリッサ。
ふむ、花屋か。それも悪くないな。ちょっと少女趣味っぽい気がするし、どっちかというとむしろクラリッサの方に似合いそうな気もするが。
「あ、アタシ? ・・・そうなのですよ?」
まんざらでもなさそうなクラリッサ。やはり自分の趣味丸出しだったか。
「花は投機対象として悪くないからね。海千山千の投資家達のひしめき合う魑魅魍魎の世界だけど、一発大儲けを狙うにはいいんじゃないかな?」
あれ? この世界の花屋ってそうなんだ。
あー、そういえば昔地球でも、チューリップの球根にバカみたいな値段が付いた”チューリップ・バブル”があったって聞いた事があるな。
俺はチラリと横目でクラリッサの様子を伺った。
――クラリッサはジト目で俺を睨み付けていた。
お前にはドロドロとした金にまみれた世界が良く似合う、と俺に言われたと思っているんだろう。
どうしてこうなったし。
「剣術の道場を開くというのはどうだろうか?」
「ディアナは何かないか?」
「剣術の道場を開くというのはどうだろうか?」
「・・・ディアナ」
「剣術の道場を開くというのはどうだろうか?」
「聞こえて無かった訳じゃねえよ! つーかそれはお前がやりたい事だろうが!」
バルバラの押しの強さについ反応してしまった俺。
「大体会長を見てから物を言えよ。どう見たって鍛えている体には見えないだろうが。」
「二の腕とかぷよぷよだもんね」
「ぷ・・・ぷよ?! そんな事ありませんわ!」
二の腕を抱きしめるローゼマリー会長。
「多分お腹もぷよぷよなのです」
「お腹?!」
お腹を隠すローゼマリー会長。
「足も太そうだしな」
「太?!」
半べそになるローゼマリー会長。
「止めてやれよ! お前ら会長に何か恨みでもあるのか?!」
「「「最初に言いだしたのはアルトだし・ですよ」」」
涙目で俺を睨むローゼマリー会長。
いやいや、俺は鍛えてないって言っただけだから。コイツらが悪乗りしただけだから。
慌てる俺の前に立ちはだかる一人の少女。
その目はジッと俺を見つめている。
「ディアナ・・・」
「女の子にぷよぷよなんて言っちゃダメ」
俺言ってないし!
明らかにローゼマリー会長よりも色々と育っているディアナは、横で聞いていて身につまされた模様。ってそんな事知らんがな。
「ここは発想を変えようか。逆にウチらが会長にやってほしい商売は何かな」
会長にやって欲しい商売ねえ・・・
「剣術の道場の用心棒かな」
「お前それだと自分が道場やるつもりだろう!」
もうバルバラの意見は無視だ無視。
「そうだな・・・ 料理屋とかどうだろうか?」
あれっ? 俺の意見にメンバー一同は何だか微妙な表情になった。
「パン屋や料理屋とかさっきからアルトはローゼマリーに奥さんにでもなって欲しいのかい?」
「んなっ?!」
「何だか動機が不純な気がするのですよ」
「煩悩退散」
「用心棒でダメなら師範代でどうだろうか?」
次々とメンバーに詰め寄られ(一人例外がいるが)、焦る俺。
「わ・・・分かった! そんなに言うなら俺が最高のアイデアを出してやるよ!」
「おっと! 大きく出たね! ウチ嫌いじゃないよ、そういうあえて自分を追い込んでいくスタイル。」
「どうせ平民アルトには無理なのですよ」
「大風呂敷を広げただけ」
「師範代でダメなら道場長代理で」
ええい、くそっ。墓穴を掘るとは正にこの事だ。後、バルバラはしつこい。
こうなりゃ意地でも何か考えてやる。
何か無いか何か、会長にやって欲しい商売、やって欲しい仕事、やって欲しい・・・
「ほら、早く言うのですよ」
「ふぁっ」
「「「「「ふぁっ?」」」」」
クラリッサにつつかれて思わず変な声が洩れちまったぜ。
ええと、ふあっ、ふあっ、ふぁっ・・・
「ふあっ・・・フアッションデザイナーだ! 俺は会長はファッションデザイナーになれば良いと思う!」
俺の言葉に一斉に会長の方へと振り返るメンバー達。
彼女達の頭の中には――
自分の髪が縦ロールになった姿が浮かんだ。
「「「「それは無い」」」」
「皆さん酷いですわ!!」
こうして今日の倶楽部活動も無事終了した。




