その4 優しい心を持ちたい
放課後。いつもの”悪役令嬢対策倶楽部”の倶楽部活動の部室での事。
「優しい心を持つにはどうすれば良いのでしょうか?」
ローゼマリー会長の突然の発言に、俺は最初何の事を言われているのか分からなかった。
「え~と、どういう意味でしょうか?」
「私が卒業前に破滅してしまうのは、私に優しい心が無いからではないかと考えたのですわ」
なるほど。会長が言わとするところは分かった。
しかし――
「ローゼマリーは優しいのですよ?」
そう。阿呆の子クラリッサの言う通りだ。俺も会長に優しい心が無いとはとても思えない。
「誰が阿呆の子なのですよ! この平民アルト!」
おっと、うっかり考えが口に出てしまったようだ。
それはそうと、他の倶楽部メンバーも俺達と同じ考えのようだ。
みんな納得出来ないような表情をしている。
「でも、実際に私は破滅してしまうのです! それは――」
「あー、分かった分かった。じゃあローゼマリーの気が済むようにみんなで試してみようか」
「試す、ですの?」
黒髪パッツン前髪少女エッダの言葉に、訝しげな表情を浮かべるローゼマリー会長。
それはそうとエッダは妙に楽しそうだが、何か変な事を考えているんじゃないだろうな?
「別に難しい事をしようという訳じゃないよ。そうだね、ローゼマリーは外を歩いている所とする。そこで困っているウチらに会うんだ。その時のローゼマリーの反応で優しい心が無いかどうか、ウチらが審査してみようじゃないか」
なるほど、シミュレーションをしようという訳だな。
中々悪くない考えだ。
「困っている事があるなら相談に乗りますわよ?」
「いや、あくまでもお芝居だから」
問題はローゼマリー会長が理解してなさそうだ、という点だけだが。
「じゃあ始めるよ、先ずはバルバラからね」
「なっ! 私か?!」
銀髪の美男子――実はペタン子系女子バルバラが突然の指名に驚いて声を上げた。
また、タチの悪い事を。
よりにもよってうちのメンバーの中でも、最もアドリブに弱そうなバルバラを最初に指名するとは。
そう、エッダは悪いヤツではないのだが、こういういたずらっ子というか、面白がりな所があるのだ。
「ほら、早く早く!」
「あ、ああ、ええと・・・困った、困ったぞ」
「何か困った事があるんですの?」
とりあえず芝居を始めるバルバラ。
それに乗っかるローゼマリー会長。・・・芝居って分かってますよね?
「うひゃあ! あ、ああ、私は困っているんだ・・・ええと・・・そう! 剣だ! 父上から頂いた大事な剣がどこかにいってしまったんだ!」
「それは困りましたね。お父様から別の剣を頂いて来ないといけませんね」
「そんな解決方法でいいの?!」
会長の大胆な解決方法に思わずつっこむエッダ。
「か・・・形見の剣なんだ!」
「形見って、バルバラのお父さん死んでないよね?!」
「まあ、それは大変。無くした場所に心当たりはありませんの?」
「ええと、あれだ・・・素振りをしていたら手が滑って飛んで行ったんだ、こう、スポーンと!」
「だったら落ちた場所を探せばよろしいんじゃないかしら?」
「え? あ、いや、凄く飛んだんだ。そう、もの凄く! そしたらたまたま歩いていたアルトに刺さったんだ!」
「俺に?!」
突然自分が登場した事に驚く俺。
しかも傷害事件発生。
「驚いたアルトは私の剣が刺さったまま、どこかに走って行ってしまったんだ!」
意外と元気だな俺! 矢鴨もビックリだよ!
そしてお前俺に何してくれてんだよ!
「まあ、でしたらアルトに部室で会ったらバルバラに剣を返すように言っておきますわ」
「よろしく頼む。」
「お前ら少しは俺の体の心配もしろよ!」
俺のツッコミに苦笑いのエッダ。
「バルバラはこれでいいね。じゃあ次はクラリッサ」
「ふえっ?! あ、アタシなのです?!」
のんきに会長達の話を聞いていた阿呆の子が驚いて変な声を上げた。
「変な声とか言うなですよ!」
「・・・もう阿呆の子の部分にはつっこまないんだな」
クラリッサはエッダに促されて慌てて芝居を始めた。
「ああ、困った困ったなのです」
「どうしたんですの?」
「ひゃっ! あ、いや、その、お、お金を落としてしまったのですよ!」
「お金ですの?」
お金と聞いて不思議そうな顔をするローゼマリー会長。
後で聞いた話だが、貴族は普通お金を持ち歩かないらしい。
買い物をする時にも店で買うんじゃなくて、屋敷まで商人を呼びつけて買うんだそうだ。
Am〇zonの通販とかいうレベルじゃねえな。
「落とした場所に心当たりはないんですの?」
「あ・・・ええと、それが分からないのです。そう、アルト! アルトが拾って走って行ってしまったのです!」
「うおい! そこでも俺かよ!」
何やってんの俺?! バルバラの剣が刺さってたんじゃなかったの?!
ていうか俺は何でいっつも走ってるんだ? お前らの中で俺ってどういうキャラなわけ?
「まあ、でしたらアルトに部室で会ったらクラリッサにお金を返すように言っておきますわ」
「よろしくお願いするのです」
「この展開を少しは疑問に思えよ!」
俺のツッコミに再び苦笑いのエッダだった。
「じゃあ次はディアナ」
「ん」
青色のゆるふわ髪の少女が眠そうな目で顔を上げた。
「話が分からない」
「私がみなさんの困っている話を聞いているんですわ」
やはり会長は微妙に状況が分かっていない模様。
「今の所みなさんアルトに困っていましたわ」
何でそうなるし! いや、完全に間違っているとも言えないけど!
ディアナは隣に座る俺の方を見るとクリッと首を傾げた。
「アルトは良い子」
「おおう、ありがとうな」
ディアナに褒められ?て少し照れ臭くなる俺。
いや、お前、同学年の男子相手に良い子って言い方はどうよ?
「でしたらディアナはアルトに困っていませんのね?」
「あの、会長の中で話の趣旨が変わってませんか?」
「別にない」
俺のツッコミはスルーですか。
「分かりましたわ。でしたらエッダはどうでしょうか?」
「ウチ? もちろんアルトに困った事なんてないよ」
会長の質問に苦笑しながら答えるエッダ。
「わ、私も困っていないぞ! この前は筋トレを教えてもらったしな!」
「あ、アタシは毎回馬鹿にされている気もするけど、困ってまではいないのですよ!」
そんなエッダに慌てて乗っかるバルバラとクラリッサ。
会長はみんなの話を聞いて安心したのか、花のほころぶような笑みを浮かべた。
「ではみなさんアルトに困っていた訳ではないんですね。良かったですわ」
どうやら俺がみんなに迷惑をかけているんじゃないかと心配していたみたいだ。
会長の笑顔にみんなもホッとした表情を浮かべた。
こうして本日の部活動では、みんなは俺に迷惑をかけられていない、という事が分かったのだった。・・・って、着地点がおかしくないかこの話。




