プロローグ 忠告
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メッテルニヒ魔法学園。
ここは主に貴族の子女が魔法と一般教養を学ぶ学舎である。
とはいえほとんどの学生は女子で、男子は少数だけにとどまっている。
また、より完全な魔法教育を目指すため、実験的に学園の教育機関を一部平民にも開放している。
学園は五年制。十五歳になる歳に入学して、卒業時には十九歳になるのが普通だが、中には家や本人の都合で入学が一~二歳ずれる者もいる。
有名な話ではこの国の第三王子、アーサー王子だ。王子は体が弱いために入学を一年遅らせて来年16歳で入学する事になっている。
基本的なカリキュラムとして最初の一年間の授業は、一般教養のみが教えられる。
二年生になると魔法に関する座学の授業が始まる。
三年生も半ばを過ぎると実技の授業が始まり、四年生になると実技だけでなく実戦を想定した授業も始まる。
とはいえこの時点ではあくまでも想定であって、実際に実戦を伴う魔法の授業は五年生になってからである。
基本的に出席日数さえ足りれば留年は無く、貴族学科に至っては生徒に対してテスト結果の通知すらされない。
それらしい理由が付けられているが、要は家の格に対する配慮である。
例えば、先程のアーサー王子がもし学年最下位であったとする。その責任は学園の誰が取る事になるのだろうか?
逆にアーサー王子が優秀で学年二位だったとする。その場合一位の生徒の実家は王家にどう顔向け出来るだろうか?
そのような理由で、貴族学科ではテストはするが基本、結果は生徒に伝えない。
しかし、物事には例外というものもある。
その生徒の成績が度を越して悪い場合である。
「シェーラー嬢。現在の貴方の成績では二年生に上がっても授業に付いて行けないと思われますわ」
ふくよかな中年女性――一年生の学年主任にそう告げられたのは、オレンジ色のストレートの髪を腰まで伸ばした、まるでアイドルのような華やかな美少女。
クラリッサ・シェーラー男爵令嬢である。
確かにこの学園には留年は無い。しかし、あまりに本人の成績が悪い場合のみ、こうやって注意を促す事があるのだ。
入学して最初のテストでクラリッサは学年最低点を叩き出していた。
「それは・・・ でも今の授業にはちゃんと付いていけているのですよ!」
「貴方の実家の事情は調べさせて貰いました」
実家の事情という言葉にクラリッサはビクリと反応した。
学年主任は手元の資料をめくった。
「大分苦労されているようですね。貴方がこの歳までちゃんとした教育を受けていなかったのもこれでは仕方が無いでしょう」
「い・・・家の事は関係ないのですよ! アタシはちゃんとやれているのです!」
学年主任は資料から目を上げるとクラリッサを見つめた。
眼鏡の奥の鋭い視線に、クラリッサは射すくめられてしまった。
「貴方は基礎学力が足りません。私の考えではこのまま学年が進めば苦労するのは貴方自身でしょう。今年一年は基礎学力の見直しに努めて、来年もう一度一年生の勉強をやり直した方が賢明だと思いますよ」
クラリッサは何も言い返せずに俯いてしまった。
学年主任は彼女を慰めるように少し優しく話しかけた。
「16歳で一年生の授業を学ぶ生徒がいない訳ではありません。来年入学して来るアーサー王子殿下も16歳で一年生になります。何も恥ずかしい事や悔しがる事は無いんですよ」
しかし学年主任の声はもうクラリッサに届いていなかった。
クラリッサの頭の中には同じ言葉がグルグルと繰り返されていた。
(ダメなのです・・・。アタシは五年で卒業しないと)
しかし彼女はその言葉を口にする事ができなかった。




