その1 冒険者になろう
「では本日の”悪役令嬢対策倶楽部”の活動を始めますわ!」
高らかに宣言するのはこの”悪役令嬢対策倶楽部”の創設者にして代表者、金髪縦ロールの美少女ローゼマリー会長。
ここは学園の貴族学科の敷地内にある部室棟の一室。
今はこの謎集団”悪役令嬢対策倶楽部”の部室となっていた。
ちなみに俺はこの倶楽部が出来てから毎日通っているが、未だにここを利用する貴族学科の生徒を見た事は無い。
「へえ。こうやって始まるんだ。何だかワクワクするね」
目を輝かせてローゼマリー会長を見つめているのは黒髪をパッツン前髪にした小柄な美少女。
最近この倶楽部に入ったエッダだ。
「会長!」
「何でしょうかバルバラ」
「そこで素振りをしていてもいいだろうか?!」
ダメに決まってるだろうが!
困った顔をするローゼマリー会長。
堂々と脳筋なセリフを口にする中性的な美男子。に見えて実はバルバラは女の子だ。
コイツは時間があると剣を振っている。
おかげでバルバラのためだけに「部室の中では素振り禁止」というルールまで作られたほどだ。
これは「メンバー同士は名前で呼ぶ事」と共に、悪役令嬢対策倶楽部の数少ないルールの一つである。
この部屋の少女達に俺、そしてこの場にいないクラリッサを含めた六人がこの倶楽部のメンバーだ。
ちなみにクラリッサは今日は学年主任に呼ばれているらしい。アイツ何かやったのか?
「どうしたんですのアルト?」
俺が空いた席を見ているのに気が付いた会長が不思議そうに尋ねた。
「ああいや別に何でも。そういえばバルバラはいつも剣を振っているが、将来はこの国の騎士団にでも入るつもりなのか?」
「いや。私は卒業後は領地の騎士団に入って兄を支えるつもりだ。いずれはモンスターとも戦う事になるからな。そのために今から鍛えているのだ」
バルバラの言葉に感心するローゼマリー会長。
そう。俺も最近知ったが実はこの世界、町の外にはモンスターと呼ばれる狂暴な生物が生息しているのだ。
ちなみにモンスターを生み出すダンジョンもあるらしい。
まるでロープレの中の世界だよな。
俺は服の袖をツンツンと引っ張られて振り向いた。
俺の隣に座った青色のゆるふわ髪の美少女が眠そうな目でジッと俺を見ていた。
彼女はディアナ。この魔法学園屈指の魔法の才能と、一年生とは思えないわがままボディーの持ち主だ。
「ロープレの中の世界って何?」
おっと、うっかり口を滑らせていたらしい。しまったな。
ちなみに俺の精神はこの世界の人間ではない。元々はこの世界とは異なる世界の、日本という国で生まれ育った高校生だ。
ディアナの言葉に気が付いた会長達も俺達の方を見ている。
さてどう説明すれば良いのやら・・・。
「ええと、ロープレってのはロールプレイングゲームの略で、俺の地元では子供なら大抵誰でもやった事のある遊びです。良くあるパターンとしては、自分が主人公になって世界を滅ぼす魔王軍を倒すために戦う、というゲームです」
「そうなんですの?」
俺の言葉に首をかしげるローゼマリー会長。
ふむ。この説明では誰もピンと来ていないみたいだな。
ここにプ〇ステとド〇クエがあれば説明も楽なんだが、無理な注文だよな。
エッダが顎に細い指をあてて言った。
「う~ん。つまりは”ごっこ遊び”のようなモノかな?」
「まあな。ちなみに大人もやる遊びだがな」
「大人もやるのかい?!」
驚愕するエッダ。
まあ大人だって普通に遊ぶな。
むしろゲームメーカーによっては金を持っている大人の方をターゲットにしているんじゃないか?
「軍隊に個人で戦うなんて無理」
「それを言っちゃあゲームにならないだろう。あ、一応何人かの仲間でパーティーを組んで戦うゲームが多いな」
とは言ってもせいぜい五~六人程だが。
シミュレーション系のゲームだともっと多いか。
「それなら私達でも出来そうですね! では早速やってみましょう!」
興奮して白い頬を桜色に染めるローゼマリー会長。
やってみるって、どうやって? スマホもゲーム機も無いのに?
会長の言葉に何故かディアナとバルバラが妙に乗り気になってしまった。
ディアナって何がフックになるか良く分からないよな。バルバラはあれだ、魔王と戦うという部分に引っかかったんだろう。
エッダ? 最初から乗り気だが何か?
こうして今日の倶楽部活動はロープレを遊んでみる事になった。
「貴方達は冒険者です。貴方達は旅を続けてこの小さな村にたどり着きました」
少し悩んだ俺は自分がゲーム機の代わりをする事にした。
クラスのゲームに詳しいヤツが言っていたが、ロープレは元々はコンピューターを使わずに遊んでいたんだそうだ。
確かテーブルトークRPGだったかな?
俺はそのゲームをやった事はないので、なんちゃってテーブルトークRPGになってしまうが、仕方が無いだろう。
しかし、魔法もあってモンスターもいる世界でロープレを遊ぶってどうなんだろうな?
「アルト?」
「あ、すみません。え~、貴方達は村に一軒しかない宿屋に泊まりました。貴方達の勇名を聞きつけ、宿屋に村長が訪ねて来ました。何か頼み事があるようです。・・・そういえば会長達のパーティーってどういう編成なんでしょうか?」
「私は魔法使いですわ」
「当然魔法使い」
「ウチも魔法しか使えないかな。魔法使いで」
「ふむ。だったら私も魔法使いだな」
「酷い編成のパーティーだな!」
魔法学園の生徒だから当然っちゃあ当然だけど、全員後衛っていいのかそれで? せめてバルバラは前衛を担当しろよ。
「か弱い女性が前衛を担当するのはどうだろうね」
「バルバラだけ仲間外れなのは可哀想ですわ」
「あ~、じゃあバルバラはお前の兄さんという事にしようか。だったら良いだろう?」
「私が兄上を演じるのか? ふむ。それは良いな。兄上の役なら私に任せてくれ」
ブラコンのバルバラが乗り気になった所で話を続けよう。
「待った! 村長は女性だろうか? 年齢は? 知り合いに例えるなら誰に似ている? 身長体重は? 家族構成は?」
「お前の兄貴面倒くさいな!」
バルバラから待ったがかかった。
「じゃあ、よぼよぼの爺さんで」
「そうか。兄上ならきっと何の興味も示さないな」
「清々しい程のクズだな、お前の兄貴!」
まあ良い、うるさいのも引っ込んだ所で話を先に進めるか。
「村長は貴方達に訴えました。『この先の洞窟に狂暴な亜人のモンスターが住み着いて困っているのです。退治して頂けないでしょうか?』。貴方達はどうしますか?」
「村の人達は困っているのでしょう? もちろん引き受けますわ」
「待った! ここでアルトがそう聞いてくるという事は報酬を交渉しろという事だね。ウチらは安くないよ、ビタ一文まけないからね!」
いや、俺としてはゲームに良くあるように、Yes/Noで答えてもらいたかっただけなんだが。
「! そうですわね。では報酬にこの村の全てを頂きますわ!」
「ぼったくり過ぎだ! どんだけ村は消滅の危機なんだよ!」
お前の全てをよこせってか? お前らどんなダークヒーローだよ。
「村長は言いました『この話は無かった事にして下さい』。村長は去って行きました」
「残念。村を手に入れ損ねた」
「惜しい事をしましたわ」
「お前らごうつくばり過ぎだ!」
「酒場で食事をとる貴方達に身なりの良い商人が話しかけて来ました」
「待った! その商人はーー」「太って脂ぎったオッサンだ」
「そうか・・・。 また兄上の出番は無いようだ」
お前は自分の兄貴をどんなヤツだと思っているんだ?
「商人は言いました『貴方達も隣町まで行く所みたいですね。腕も立ちそうですし、どうでしょうか? 我々の商隊の護衛を引き受けてくれませんか?』。貴方達はどうしますか?」
「では報酬にその商隊の全てをーー」「今回はそれは無しでお願いします」
いい加減話が先に進みませんから。
「実は方向が逆。」
「そんな設定作らなくて良いから。」
「大変良いお話だとは思いますが、そういうお話はお互いの事をもっと知ってからにして頂ければと思いますの。」
「何だか告白を断るみたいになってません?! え~と、貴方達はこの村に来るまでに旅費を使い果たしていました。早急に何か仕事を探す必要があります。ぶっちゃけ宿代にも事欠く有様です。」
「村長の依頼を受けて村を手に入れれば――」
「あの話はもう流れたから! というか何でそんなにこの商人をイヤがるわけ?!」
太って脂ぎったオッサンってのがダメだったらしい。何だか下心がありそうでイヤとの事。そーすか。
「ええと、じゃあ商人は女性という事にします」
「女性?! 兄上のーー」「兄上の出番は無いから。既婚者の中年女性だから」
「兄上なら・・・いける!」
力強く拳を握りしめるバルバラ。何なのお前の兄貴に対する妙な思い込み。
「じゃあもうそれでいいや。貴方達は商隊の馬車に揺られて村を後にしました」
1st Stage Clear ここまでの冒険をセーブしますか? Yes/No




