平穏とはかように脆いものなのか(悲嘆)
ゴリラの襲撃(嘘)の後、意識を失ったり先生とガウェイン卿の話を盗み聞きしたりしていたらいつのまにか馬車に乗せられていた。
うん、所謂ハイエース的な、誘拐的なサムシングでは無い、れっきとした家紋持ちであるガウェイン卿の持ち物であり、現在王都にむかうべく貿易都市である『リンドン』に向かっている。
「リンドンは戦略上とても重要な過去の遺物、『転移門』が未だにいきている数少ない辺境衛星都市です。他にも転移門がある都市はいくつかありますが…北の魔法学院に近い此処が最も手入れがされていて、尚且つ安定しています。あれをくぐればほぼ一方通行ではありますが馬車で一ヶ月の道を一時間ほどで済ませられます。」
「こだいのちからってスゲー!」
「…ヒミツ君、似合いませんね。」
言っとけ脳筋、こう言うのはノリが大事なんだよ!
パッカパッカとひずめを鳴らして進む馬車には俺とベオウルフ君そして二席分使ってなお縮こまるように乗っているガウェイン卿、御者として執事っぽい人とメイドっぽい人が外に乗っていた。
…因みにどっちにも勝てるビジョンが見えなかったところを見るとガウェイン卿と同じような、ハル先生と同じようにある意味極致にいる達人なのだろうと推察するが…残念ながら歩く姿も動きも全て偽装されているために測れない、いや、計らせてくれない。
(…単純な肉体操作術はこの世界の方が発展してるように見えるなぁ…)
不思議なことに俺の頭にはこの間戦った時から枷を外されたように武術の知識が湧き出ていた。それは俺が道場に行っていたと言う断片的な記憶と合致する物だけでなくなんの覚えもないほぼありとあらゆる近現代の武術の記憶も多い…今更だが、ヒミツと言う名以外の記憶が、経験があまりにも雑多かつ膨大すぎる。どんな死に方をすればこうなるのかとか見当もつかないが…ただ言えるのは俺が俺であるために記憶は役に立たないと言うことくらいだ。実際、記憶の大半は未だに靄がかかったように見えないからなぁ…
自分の定義を考える1歳児は虚空を見つめて…少し前から周りの空気に殺気が混じっているのに気が付いた。
横を見るとベオウルフ君は獰猛に笑っており、前を見るとガウェイン卿はどこ吹く風と言わんばかりに笑顔だった。…いや、よく見ると魔力が吹き出している。
少し遅れて外から壮年の男性らしいバリトンボイスが聞こえ、ついでにメイドさんの声も聞こえてくる。
「坊ちゃん、此処で聖剣を抜かれますと私達が燃え尽きますぞ?」
「そうですよ、どうせゴブリンや盗賊や強くてもオーガってところです。大丈夫ですよ。」
因みに執事の方は黒髪と白髪が混じったイケオジになりかけのイケメンという風体で、メイドさんの方は…うーん、ロリ巨乳的な幻想生物である。髪は赤、燃えるような赤である。きっと火属性の燃えもんだろう(錯乱)
「そうですね…では任せ…」
ガウェイン卿がそう口を開いた瞬間、俺は馬車の外に飛び出しベオウルフ君も遅れて飛び出しガウェイン卿は馬車に向かって飛ばされてきた巨大な岩石ごと吹っ飛んで行った。
外で受け身を取りつつ起き上がると馬車から切り離された馬4頭をなだめるメイドさんと切断のために使ったのであろうサーベルを鞘に戻そうとする執事の姿があった。
「おや?坊ちゃんだけ吹き飛ばされてしまいましたか?」
「あははは!きっと狭くて動けなかったんですよ!」
うん、訂正しよう、彼女らは執事でもメイドでもない、円卓の騎士である。
「さて、オーガの群れ、ですか…周辺の冒険者ギルドは…いえ、そうでしたな、此処はキャメロットからもリンドンからもそもそも人家のないエルフの領域の道、彼らにとって魔物など物の数では無いですからな…」
そう言って細身で豪奢ながらも明らかに業物かそれ以上と思える剣を構える執事服の男性は『ペリノア』勿論、彼が治めていた国はもうない(この世界にあったのかすら不明だが今はないというのは確かである)し、そもそも彼は本物のペリノア王ではない、円卓の騎士の中で入れ替わらない三人、精霊の加護を受けた二人と聖なる鞘の不死性を付与されたとされる騎士王以外は次々と代替わりするものだ。
確か、今の円卓は『ペリノア』『アグラヴェイン』『ラモラック』『ガレス』と騎士王そしてランスロット卿とガウェイン卿のたった七人だったはずであり、そのうち目の前にペリノアとラモラックがいる…といううことはほぼ半数の円卓が此処にいることになるのだが…そんなので王都の守りは大丈夫なのだろうか?
「辺境都市ごと周りの地形が全部畑になってもいいならガウェイン卿だけでも良いのですがねぇ…」
「あの人は大雑把な攻撃が多いし、力を抑えても結局破壊範囲が変わらないとかいうね…」
メイドさんの演技があまりうまかったとはいえないラモラック卿はなんだかメカメカしい槍のような…一応槍であるしカテゴライズすれば長槍なのだろうが、いかんせんよくわからない機構が多く見ようによっては突撃槍のようにも見えるそれをバトンのように回してから構える。
というか今不吉なことを言ってなかっただろうか、なに?ここら辺が地図ごと焼畑農業?
「全くひどいですね…少しは心配してくれてもいいじゃないですか。」
「うるさいゴリラ。」
「ほっほっほ、ランスロット卿に次いで最強に近いと歌われる騎士を心配するなど…烏滸がましいではないですかな?」
ラモラック卿とペリノア卿が加速し剣と槍が振るわれる。軽口を叩きながらも精妙な技の数々はあっけなく巨人のような魔物の首を跳ね飛ばし心臓をつき穿つ…
「しかしまぁ…ハズレですな。」
「うーん、ソウダネー」
「ラモラック卿、年頃の女子の言葉遣いではありませんよ?」
そういえばなぜこんなことになったのか、そもそもなぜガウェイン卿に二人も円卓の付き添いがつくという過剰戦力がこんな北の端に近い辺境都市にきたのか…これには勿論理由がある。
そう、それは先生との暫しの別れ、ベオウルフ君の鼻声と俺の淡々とした態度というかなり対照的で変わった別れを済ませ、教会を出た時だった。
「ガウェイン卿!」
「むっ…おや?なんでこんなところに?」
少し草や枝が刺さっているくたびれた外套、まあお世辞にも高貴な人間の装備品とは思えないそれを纏った老紳士が彼の名を呼んだ。そしてそれに反応するガウェイン卿の次の一言でひとまずの衝撃、
「ペリノア卿ではありませんか!」
「お久しゅうございます。キチンと時間をかけて移動するの風情があって良いですが、今回は少々緊急の用がありまして…」
そう言って彼は書簡を取り出した。そこには討伐対象、それも人相や装備品の特徴などいわゆる手配書という類いのものだった。
「盗賊団、ですか。」
「ええ、正確にいうならもっとタチが悪いようですが、少なくともここら辺の隊商を町の衛兵が巡回できないギリギリのラインやエルフの森なんかの治外法権すれすれを移動して襲ってる集団がいるのです。」
ペリノア卿はそう続ける。ちなみにこの時すでにフードを外していたのでその威厳のある達人とでもいうべきか、そんな顔立ちが見えていたので怪しさは多少薄れたが、それ以上になぜ円卓がここにという混乱に襲われていた。
「ですが何故卿がこの書簡を?街ごとの冒険者ギルドや、それこそエルフにも協力を…」
「…あまり大きな声ではいえないのですが、どうやら裏にモルゴースの影があるようです。宮廷魔導師殿の予見でみえたそうで…アーサー王は過去の因縁、それも魔女モルゴースが関わるとなれば、生半可な戦力は数にもならないと判断したようで…」
大きな声ではいえないのに俺たちには丸聞こえなんですが?それだったらぼくらはここで待ってたいんですが?
しかしどうにもガウェイン卿の様子がおかしい、少し魔力の制御が緩んでいる。そのためか周囲の気温がじりじりと上がり始めていた。
「モルゴース…モルゴースですか…わかりました。今すぐに早急に征伐に行きましょう。それが良い筈です。」
「が、がうぇいんきょう?」
しかしその声は届かず、老紳士は外套を纏ったまま少しうつむき気味で怒声のような荒ぶる魔力は収束する事なく周囲を焼き尽くしそうになり…
飛来して来た女性の飛び蹴りによってガウェイン卿が吹き飛ばされ、辺境都市キャメロットの焼失は免れた。
「ゴリラ卿、頭に血が上りすぎです。普通に考えて貴方にはやるべきことがあるでしょう?」
輝くような白い歯の犬歯は鋭く。童顔と低身長、巨大な胸とあまりに外見にそぐわない出て来方とキャラに色々と突っ込みたいが…まあ、とりあえず始まりはこんな風だった。少なくとも俺が見えている範囲では…ね。




