平穏とはかように脆い物なのか(悲嘆)2
最初に断っておくと、別に騎士が盗賊団やらなんやらを始末することはそう少なくない、どちらかといえば冒険者と呼ばれるほぼ自由業の戦士や狩人の集まりより組織的な動きができる彼らによる山狩りや掃討作戦はかなり多い方だ。
だが、そこに足手まといを連れたまま突っ込む様な物好きはいないわけで、ほぼ扱いがゴリラか核爆弾であるガウェイン卿、ペリノア卿、この時はまだ名乗っていなかったがラモラック卿三人とも俺たちを置いて今回は山ごと吹っ飛ばしに行くのだと…俺はそう思っていたのだ。
「ふぅむ…見習いどころか子供…っは!そうです!旅の貴族を偽装すれば良いのでは?ガウェイン卿のご実家は実際貿易で稼いでらっしゃいますし。」
「確か子供たちの背丈はこんなもんだった様な…というか、私たちも執事なりメイドなりに変装すれば…」
ガウェイン卿のメイド姿とかやめて下さい、想像だけで死にそうです。ガウェイン卿の恐ろしい提案に戦慄していると何処からか殺意が、明確な害意が飛んで来た。それを知覚した瞬間薄っすらとこちらに向かってくる魔力の道筋が見え、同時にそれが殺意の飛んでくる向きであり攻撃の前兆であると本能で察した俺はいつも通り循環させていた魔力の上澄みをすくい取り、取り込んだ新しい魔法を行使しつつ湧き出る知識に脳を灼く。
高速で詠唱するには時間が足りないが、昨日のうちに防御魔法のいくつかは最小単位の高速術式に組み替えて置いた。俺はこっそりと教会の備品からちょろまかして置いた釘に魔力を封じて置いたものを七箇所に刺し、一瞬でも基点として使用できる様に加工して置いたそれらに一筆で七芒星を描く様に魔力の道筋を作る。
最小単位の構成にした為に詠唱はほぼ無意味だが、少しでもイメージを補強し威力を加算して置いて損はない、身体強化を重ねる。
「聖なる加護をここに、神聖防御魔法『七芒結界』!」
全員を包み込む半透明の膜が発生し次の瞬間黒い稲妻の様なものが突き刺さる。…ま、ガウェイン卿ら円卓なら大丈夫だろうが、俺は回避しないとやばいし、ベオウルフ君の肉体的な英雄遺伝もどこまで化け物めいた回復をするかは不明なので安全策を取らせて貰った。
程なくして攻撃は終わり一足先に結界内から消えていたペリノア卿が黒衣の魔法使いらしき者を捕らえたが、フードを外すとチリとなった。
「ふむ、不味いですな、我々に気がつかれてない訳が無いとは思っていましたが直接攻撃してくるほどに影響力があるとは…」
「…ラモラック卿、やはりついていかせてはもらえないだろうか、今見たとおり幼児といえど侮れませんよ?」
「相応驕りが前の!…ッチ、なんでもねえよ、わかった。わかったから聖剣抜こうとすんなゴリラ、さっさと馬車を手配しやがれ。」
そしてラモラック 卿の敬語と態度もチリとなった…ちなみにこの後メイド服を着せられるあたりで一悶着あったがガウェイン卿の「ならば私が」でラモラック卿も観念した。
さて、少し長い過去の話も終わったところで、今の話に戻ろうか。
「ふぅむ…少しは魔力の探知に長けたものを呼んでくるべきでしたなぁ。」
「さっきからオーガやらゴブリンやら魔獣やら…盗賊団どころか人ですらないぜ?」
「ラモラック卿、子供の前です少しは繕って下さい。」
全くである。そんな見た目なのだおっとり系なフリぐらいしてほしい…あれ、なんだか震えが、いや、なんだ?さっきか何かかな?
現在、馬は無事だが馬車は最初のオーガの襲撃に耐えられず吹っ飛んでいる。というかより正確にいえばガウェイン卿が無理くり飛び出て来たので側面に大穴が開いてしまっていてどうにもならないので車輪と床と椅子だけの愉快な乗り物になってしまっている。
ついでに言えば士気も最悪だ。五人のうち三人は騎士なので問題ないがベオウルフ君の肉体はともかく中身がこのさっき溢れる珍道中についてこれず、ペリノア卿もガウェイン卿も焦りを感じており、ラモラック卿は目に見えて不機嫌だ。
あ〜働きたくない、目をつけられたくない…が、用事が終わらないと先に進める気配でもない、しょうがない、まだまだ未熟な体に鞭打ちますかね。
「えんたくのみなさん、あとすうふんもすればまたまものものむれにあたります。」
「おっと、ヒミツ…でしたかな、その歳でもう魔力感知ができるのですか?」
俺は頷きつつ身体能力に魔力を割きつつ循環を早める。
「ついでにいえば、解析が少しばかり得意でしてね、さっきからぶつかって来ている魔物もの今からのも同じ魔力が付着しています。」
「あ?流暢に喋るじゃねえか…って、身体強化か、びっくりしたぜマーリンみてえな見た目だけ詐欺かと…」
「そんなことはどうでも良いです。ヒミツ君、今結構重要なことを言いましたよね?」
魔力操作やそれによる肉体強化が高度なレベルで戦闘と連動しているガウェイン卿とペリノア卿は多分あと何戦かすれば気づいただろうが、一応これでも見習い魔法使いモドキである。ハル先生のスパルタ訓練は伊達じゃないぜ。
「はい、多分すでに盗賊団は近くにいます。こちらに魔物をぶつけてくる術者がいるはずですから。」
「ラモラック卿!」
俺の言葉とほぼ同時にペリノア卿の目が何かを捉えラモラック卿はすでに槍を投げる構えをとっている。
「わーってる!貫け!」
魔力が槍に注がれ奇妙な装飾だったブースターに術式の光りが灯る。どうやらあれは魔導武器と呼ばれる類の物らしい、人造の武具でありながらその完成度によっては神器と呼ばれる神に造られし兵器にも匹敵するというデメリット無しで人間が作れる限界点、もちろんピンキリあるがアレは…
「アンサラー・ドゥランダル!」
神にも等しい匠の鍛えた神器に最も近い魔導武器、『アンサラー』とは神に頼らずその技と狂気のような執念によって鍛え上げられた武器のみが冠することができる最高位の称号、人間の意地の象徴である。
それは弧を描き流星のように飛んでいくと森の中に着弾、魔力による実体はないが物理的な衝撃はある爆発が巻き起こり、槍のみが彼女の手元に戻ってくる。
「手ごたえ的には無機系の使い魔、ゴーレムだな、周りに二、三人術者が居たはずだ。」
「やはりここは私が森ごと!」
「おやめ下さいガウェイン卿、ラモラック卿、勿論マークは…」
「ああ着けたぜ、次は必中だ。」
それを聞いたペリノア卿は馬車を止め目の前に迫って来て居た群れを一振りで微塵にした。
「ならば後は狩るのみです。無論、魔女とのつながりも重要ですが、これ以上幅を聞かせるわけには行きませぬ。」
彼はそういうとサーベルを振って血を落とすと鞘にしまい、俺とベオウルフの方に向き直った。
「ヒミツ君、まだ幼子である申し訳ないが、手伝ってもらえますかな?」
「ええ、勿論です。」
さぁ、作戦会議である。
「とりあえずガウェイン卿はベオウルフ君と僕のお守りですね、攻撃が派手すぎますし、何より威力が高すぎます。正直言って多分邪魔です。」
「そんなっ!」
とりあえず当たり前のことを並べていく。俺が参謀役なのは非常におかしいが、自体を客観視できる人材が俺とペリノア卿くらいしか居ないという脳筋パーティーである故に、仕方がない。ペリノア卿も静かに頷いている。
「まあ、ゴリラだしなぁ…」
「な、なぜだぁ…」
とりあえず戦闘面は俺が何かいうよりも彼ら円卓が動く方が早いだろう。ちなみに今もガウェイン卿の肩に乗せられて森の中を全力疾走中である。
「追跡はラモラック卿がいるので問題無いのですが…やはりヒミツ君に純粋な魔法と魔力での探査を行ってもらう必要があります。魔力は大丈夫ですか?」
「はい、問題ないです。」
問題ないが不安はある。強化と解析以外未だマトモに使えないのだ。昨日の防御も釘を打たず詠唱や術式発生のみで発動出来るはずの物なのに小道具がいるのはまだ使い慣れて居ない上に理解が、解析が足りて居ないからだ。いずれは初見の魔法でも一目で読み取れるようになるだろうと先生には言われているが、しれは今ではなく未来の話、今の俺の解析は飽くまでも物質やその表面に刻まれた情報を自らの知る情報で理解し、整理する能力、魔法書だって基礎編から順繰りに解析する必要があるし、前提知識はキチンと必要なのだ。天才やチート持ちのように一足飛びには行けない…もし、真面目に探査をするならば音か空気を媒介して魔力を散布してからになるだろう。
「おいおい、ペリノア爺、こんな子供に任せて大丈夫かよ。」
ラモラック卿の心配はもっともだが…俺は瞳に魔力を回して彼女を見る。
「大丈夫ですよラモラック卿、それよりも槍と貴方の右腕の方が大変なのでは?」
今の俺の解析は見える物に対して一定の理解と法則性を教えてくれる。そこに加えて俺の知識が加算されていく。例えばそれはこの森の木の生え方がどう考えても人の手が入ったものであるという事だったり、例えばそれは地表に鎧を着た人やローブを擦ったような跡がある事であったり、例えばそれは…槍を放ってからラモラック卿の動きが腕と槍をかばうような動きに変わっている事であったりである。
「ラモラック卿!」
「大丈夫だよ!毎回毎回こうなってるわけじゃねえ、今回は偶然…」
「ダウト、槍の方は補修の跡は無いものの使い込まれた柄の部分と対照的に傷ひとつない刃が付いて居ます。ついでに腕の骨折と肩の脱臼もなんどもやった跡が見えます。…これで満足ですか?」
ラモラック卿は左腕で俺の首元を掴みあげると可愛らしい顔を歪めて吠える。
「テメェ!」
俺は単純にして最強の膂力の暴力であるそれを飽くまで技で受け流す。襟首を掴む手の痛点に親指を当て、押し付ける力はダボついた服の中で体をひねって躱す。
「じゃ、行きましょうか、山狩りのお時間ですよ。」
俺は自らの中にある不安を、再び何かを殺さなければ自らを生き永らえさせれないという自分の弱さを握りつぶし…そしてなぜそんな後悔があるのか、一体自分の記憶のどこから出てきたのか、首を傾げた。
ラモラック卿は非常に不機嫌そうながら槍を担ぎ直し回復魔法を使用して腕を治す。彼女のうちから感じられる魔力を鑑みるに恐らくあの一撃はそう何度も打てないのだろう。
ペリノア卿は彼女をちらりと見てから俺を少し厳しい目で見た。きっと彼は俺が信じられないのではなく。俺の言動が何故突然刺々しくなったのかに疑問があるのだろう。
そしてガウェイン卿は…卿は?
というかいつのまにか置いていかれてる?いつのまに!?
「あれ、ガウェイン卿は何処に?」
再度解析を放つと焼け跡が足跡を押しつぶしている。
「…不味いですね、あれはキレてますよ。」
何かとてつもなく面倒臭い事が俺たちに降りかかって居たのは確実だが、それ以上に、俺は周囲に漂うこの場のだれのものでも無い、そして強大な魔力の奔流を感じて己の生存本能のままに逃げ出したい欲求に駆られて居た。




