解析、蓄積、強化
またまた言うことになるし、おそらく再度言うことであろうセリフを吐かせてもらう。
どうやら俺の瞳に宿っているらしい『解析』という初級も初級の魔法はその上位版である『鑑定』と違い未知のものを魔力を対価に上位の知識世界に接続し解き明かすと言う物では無く。自らが知る物事を引き出し見たものを文字通り解析すると言う物だ。つまり知識量がそのまま効果に反映され、やりようによっては鑑定よりも簡単に見た物の真価を知ることが出来る。
この時、知識量というのは書物や口伝によって見聞きしたものであり誰しもが無意識に蓄積していく物や意識的に学習してきたものも含む『経験』の全てだ。
そう、故に、俺は見るもの聞くものすべてをその身の糧に出来る訳だ。
「…だからといっていっさいじにけいこをつけるとかいうむちゃはいかがなものだろうか?」
「…ソレを受け流している貴方に私は驚きですよ、彼らや私の動きを見ることで経験のみを積ませようと思いましたのに…まさか肉体の強度と身体能力を強化する魔法を発動させたまま魔力を循環させて稽古に参加するなど思いませんよ。」
え、そうなの、じゃあ俺見学に…
俺が身を翻すと肩をがっしりと掴まれる。ソレはハル先生では無く。俺に投げ飛ばされ土まみれになった小学生くらいの少年だった。
「ニゲラレルトオモウナヨ…」
「アッハイ。」
「あら、お友達が出来たのですね、私嬉しいです。」
まあ、戦闘の模擬練習はしといて損はない、勿論子供のうちから骨格が歪むほどの訓練をするつもりはないが…っと、待てよ、今まで色々理由をつけてきたが、そもそも前世の知識はこの異世界人ボディに当てはまるのか?ちょっと調べてみようゼェ…
…色々やばかった。なんというかやっぱ異世界なんだなって思った(小並感)、骨の組成やタンパク質関係までは見れなかったが確実に前世よりも頑強かつ環境適応力の高い肉体であるというのは確かな様で、ほとんど全ての人が体質的にスポーツ選手やらなんやらもびっくりな超人である。有り体に言えば魔力無しで垂直に10メートルカッ飛んだり100メートルを3秒で走ったり…いや、やっぱ人間じゃないじゃないか(畏怖)
というか月が二つあったり、魔力があったりする関係で重力的なサムシングとかがかなり高いのか?
いや、というかそれだけでこんな超人が生まれるのかとか、そもそもなんで人形なのかとか…
「蒼月流魔拳闘術『弓張月』っ!?」
「よっ、ほっ、と。」
まだまだ習いたてというのもあってか少年の技は完成には程遠く。重心も崩れているしそもそも体が出来ていない、魔法の詠唱と同じ様に技名を詠唱することで魔力を消費しながら『魔技』と呼ばれる技を放つ彼だが、そのブーストがあってもいささか微妙である。
技名の通り絞られ張り詰めた弓の様に捻られた体の回転力を下半身の踏み込みも合わせて拳撃に乗せるのだが、俺は踏み込まれる足が着く前にそれを横に払い、大きく後ろに崩れてしまっている体制をさらに崩すべく後ろに押し込む。最後にもう一方の足を払いながら顔に掌を当てて投げる。
ドン!
「ゴハッ!」
受身によって後頭部は打たなかった様だが衝撃を逃しきれず背中を強打、はいから息を絞り出され咳ごんでいる。
ハル先生はソレを険しそう(無表情)に見つめ試合の終了を告げようとし…
「ま…だ…終わりじゃねええ!」
「おっと。」
ゴォっという大気を魔力が押しつぶす様な音とともに飛び起き様の蹴りが炸裂、勿論こちらは一歳ボディ、まともに受ければ大怪我間違い無しである。
というか型にはまった時のものよりも幾分か脅威が上がっている様な…
「ああ、ヒミツ、言い忘れていましたがその子は『ベオウルフ』貴方とは違う意味での生まれ直し、産まれながらの『英雄』です。死なない程度に頑張ってください。」
「ソレはがんばるとかそういうれべるじゃない!」
「ぐおおおおらあああ!」
野生である。アニマルである。野獣そのものである。放たれる拳から発生する風切り音は力の全てを伝え切れず理合を投げ捨てているのを示してはいるが、単純な膂力があまりに違う。
…いや、彼は理合を投げ捨てているわけでは無い、彼のソレはある意味完璧な戦闘法であり、大人になった武闘家全てが欲しがる物だ。
「はああ!」
「おっと、っと。」
全身の筋肉、力を、文字通り全てを動員しての全力行動、赤子の頃は体の全てを使ってもがいていた人類がいつの間にか忘れるソレを彼はいまだに持っているし、きっとこれからも持ち続ける。
とりあえず視覚的な騙しを入れることで回避はできるが…目で追って魔力で肉体を高速駆動させている俺と純粋な筋力と身体強化のみで獣の様に動いている彼とでは反応性も早さも何もかもが違いすぎる。
逐次彼の動きを解析し続けることで徐々に魔力を肉体の強化に向けているが解析できるというだけでその動きや速力をそのまま手に入れられるわけではない、何処ぞの剣製主人公ならともかく俺が出来るのは見切り、その理合の理を掴み取ることだけ、まあなんともソレらしい能力を神様もくれたものである。
…いや、ハル先生曰く前世での経験が魂に変容を生むとかなんとか言っていたし元々『目だけは』いい、と言われていたのだからある意外と俺の魂とやらが産んだ能力なのかもしれんなぁ…そうなると神様とやらのあれは何処に?
「よそ見してんじゃねええええ!!」
大振り、しかもフック、戻すのには時間がかかる。俺はソレに突っ込んでいく。怪訝な顔をする彼には悪いが…
「ヒミツ!」
「すみません、おります。」
ハル先生の慌てた様な声が聞こえるが、ソレが静止なのか俺を心配しての声なのかはわからない、だが技もう始まってしまっているしここで動きを止めればやられるのは俺だ。伸びきった肘を腕と背中で洗濯バサミの様にサンドし腕を前に背中を押しつける様に押す!
ボギっ
鈍い破砕音の様な音が聞こえ少年の叫び声が遅れて聞こえる。殴る蹴るの耐性はあっても関節をおられる様な脳にガンガンと響く痛みはあまり経験がなかった様だ。
ついでに俺も解析と肉体の強化、加速に魔力を割きすぎたために魔力の循環が乱れ意識が飛んだ。
まあ、折角鍛えられる体なのだ存分に鍛えてやろう。




