武芸百般
剣を振る、鉈を薙ぐ、槍を突き、弓を引き、打撃を放つ。
「いやあ、驚いた。驚きに驚いたぜちびっ子、どの武器を使わせても二流止まりなのはアレだがそりゃあ体躯がこれじゃあ仕方ない、動き自体は一流のそれだ…だが、それだけに驚いてる。お前さんはまるで才能がないな!」
「改めて言われると辛いな、ソレ」
俺が振り回した武器はすべて試し打ちだと言われていたが、どれもこれも凄まじいほどの完成度、切れ味、使い易さである。これがすべて試し打ちだと言うのだから驚きだぜ。
「うーん、使い手としてある程度完成されている…動きに妙なクセもない、変則二刀流だろうが二刀流だろうが、なんでも、それこそなんでも使いこなせる…うむむ…」
まず俺が武器を振るえると言うところからいろいろ思い悩んでいた。そこからさらに俺がこんな有様であるがためにさらに思い悩んでいる。…多分心情としては晩御飯は何がいいかと聞かれたお母さんがなんでもいいと答えられた時と同じくらいである。多分。
…というか体を動かせば動かすほど、闘いの最中、無我夢中で動いている自分の体が不思議でならない、いや、たしかに経験として、積み上げてきたものとして俺の記憶と体に様々な術が染み込んでいるのは、ちょっと特殊らしい前世がある以上そう不自然な事ではないのだが…いや、やはりどう考えてもその記憶が前後していたりまるでその部分だけを焼きました様に膨大なのだ。
ひどい記憶だと白髪の老人になるまで剣を振っていた記憶や木を掌底で粉砕するなんていう荒唐無稽な記憶まである。だが、実際にそれらを使える。…気味が悪い気味が悪いと思ってはいたが少し参る。これがチートという奴なのならば話は早かったが、しかし、どれも達人級ではなく良くて熟練者程度、理論理合を知りつつもそのように動けない、それを体現できないままで終わっている。
自らの手を見れない凄まじいほどのタコと幼児とは思えない硬度…あらゆる物を知識としてすでに持っており、過去の記憶と比べて全くと言っていいほどに別次元の運動性能を誇る今の肉体、それらがチートなのだと一時期は思ったが、隣で修行するベオウルフ君をみてこれはこの世界での一般レベルの肉体であるという事は確定している。知識、それの元がわからない、それだけが不気味だった。
だが、感謝しているし不思議には思えどこれが付け足されたものでないという確信はある。そもそも無意識下で動くレベルまで刻まれた業と言うのが、異世界から流れ着いてきた時の外界からの汚染、いわゆる『狂気』、魔法書風に言えば歪みの産物であったとしても、これがなければ俺の生き抜きたいという意思は…いや、待てよ、もしかしなくても無い方が平穏だったのでは?
「…やばいな、頭悪すぎて頭がいたい…」
「どうした突然」
単純な事実というのは人の心に多大なるダメージを負わせるものだ。計算問題で最後の足し算を間違うとか、それ以前に問題文を読み間違えるとか…今、俺が感じている自己嫌悪はそれに近い。
「ふ…なんでもないですよ。」
「ふむ…まあ、うむ、とりあえず方針は決まった。対人戦と魔物戦、お前さんのひとかけらもないような才能でどっちもこなせるような武器は無い、だからお前さんにはたくさん武器を持ってもらう。」
次の瞬間俺はまた首根っこをつかまれ輸送された。ちなみにベオウルフ君は籠手と具足、武闘家用の軽鎧、というかポイントガードのような装備と身長と同程度の直剣、長剣といった方がいいだろうか?
まあ、そんな感じの装備をつけてもう帰った。というかオーソドックスで取り回しやすい短剣とそれの5倍くらいの長さの片手剣が欲しいと言ったんだが、ガーランドはよほど自分の武器とそれを作る自分に自信と誇りがあるらしく。俺に似合う装備を見繕うといってこれだけ時間をかけていたのだ。
俺を地面に着地させ、工房長はごそごそと工房の正面口、入ったところすぐに並べられている武具を漁る。
ちなみにさっきまでいた場所は工房の横、試験場と呼ばれる場所らしく。試作兵器や試し切りなどに使われているらしい。
「聞けば先代が作ったデゥランダルの内の一個をラモラック の嬢ちゃんから譲り受けたそうだな…ありゃ一応巨人サイズの投槍、短槍なんだが…お前さんからしたらもう大剣みたいなもんか…っち、生意気にも自分のことは自分でわかってるようだな」
「それはほめられてるんですよね?」
なんかちょっと拗ねてるんだが…というか、あれか?相手に合わせた物を渡すのが生甲斐みたいなところがありそうな感じがするこの鍛冶屋は、もしかしなくても悩んでいたのではなく。どう考えても凡才な俺にロングソードと短剣を渡すしかないという事に関して文句があったのか?
「俺がお前さんくらいの時分はもっとガキらしく使いようのねえ武器を高望みしたもんだが…なんともまあ、渋い…と言うか浪漫がないぜ?」
「…いい歳してる工房長さんに渋いとか言われるほど夢がないわけでも、成熟してるわけでも無いんですけどね…ありがとうございます。」
「へっ、死んでくれるなよ?…まあ精々太陽の騎士殿から離れないようにな」
渋々、では無いものの端切れが悪そうに…とはまた違うがなんだかテンション低めで渡されたのは、鋼鉄…に何かよくわからない物が混ぜ込まれた剣、何故そうわかるかと言えば比重だ。試し打ちのは鋼鉄製だと言われて渡された。その剣とは規格は多少違うもののこの体格だ。大きさはほぼ同一、それなのにこちらの方が重い…
「これは何でできてるんですか?」
「おっ、まさかそんなこと聞かれるとはな…なんでだ?」
「重さが違ったので」
「…ふぅむ、どうやら特別製なのは中身と目だけは無いようだな!ま、言ってもわからんだろうが金剛鉱、神鉄やらドラゴンやらよりはだいぶ落ちるが、古き良きアダマンタイトの系譜、神鉄の周りに死ぬほど出てくる劣化神鉄って奴だな、鋼鉄やらとの親和性が良い使いやすい金属だ。…ま、日用品には重すぎて使えんけどな!」
…とりあえず、身の丈に合わないもの、というわけじゃ無いらしい。




