王城にて
雨が降ってきた。この世界の人間はどんなに幼くとも軽い再生魔法と魔力による体調の調節を行なっている。それ故に自然な病気などではかなり死ににくい、だから雨も、嵐も、表面を攫っていくように、建築物や農作物を多少荒らすが、人に影響が出ることはあまりない。
だから気だるい様に感じられる俺の体も、虚脱感を覚える中身も、それらは全て精神的なダメージによるものであると断定できる。
それは、謁見と言うには些か足りず。しかして国の統治者としては及第点と言える先ほどまでの話の所為なのか、それとも…
真紅絢爛な絨毯と大理石の純白とのコントラスト、中央にある円卓とその最奥に座す女性、黄金の様な虚像に俺は歯噛みする。
それはそうだ。いまこの国は王とその子を自称する者との戦いの最中、そこに大魔女が絡んできたために面倒臭さが増しているだけで、そこにあるのは明確な対立、兵法的に正しいか王の権威かを問うた時、今は兵法的な正しさを取ったのだろう、すなわち…
(影武者、か。)
強靭な聖なる鞘の加護による不死身と常勝無敗を持ち手に与えると言う無敵の聖剣の力、その両方があって漸く最高権力者が前線にて戦うと言うことが出来るのを考えれば、不死の加護がない今、余裕がないのだろう。
聞こえてきたのは鈴の音の様な凛とした声、別にリンゴンリンゴン言っているわけではないが、まるで本人はそこにいるかのような、圧倒的な圧力、俗に王威とでもいうのだろうか、責務ある者に発生する独特の重み、そんな者が彼女の言葉にはあった。
ガウェイン卿も他の円卓もそれを傾聴し、入った所で跪く俺とベオウルフ君もそれを聞いていた。
別に、影武者は悪いことではないし、この国の現状も、惨状もきちんと認識している様だ。飛んだ暗君では無いような事にだけは安心した。
ここで俺とベオウルフ君はガレス師匠に連れられ控えに戻ったが、その後、こっそり仕込んだ釘から、そして強化された感覚は防音や魔法的防備の上から音のみを傍受している。
「つまり…騎士が足りないと、そういうことですね、我が王」
「ええ、私が倒れることがブリテンの終わりであると自惚れるつもりではありませんが、魔法的な意味で衰退が早まることは事実である以上モードレッドに割く兵力を増やさないわけにはいきません、この国が終わり、その後最良の形で存続したいと言うのが彼女の望みですが、モルガンに生み出された彼女を完全に信用しきるのは…無理です」
「しかし、大魔女の…いえ、ペリノア卿や王都の今を思えば…っく、いえ、失言でした。」
それを咎めることをせず。息を吐く王様の声にはわずかながら陰りと、そして疲れがあったことは間違いない。
だからだろうか、それとも過剰な評価故なのだろうか?
「ペリノア卿の弔いには…ガウェイン卿と先ほどの子供達で行ってください」
「…あの子らも、ですか?」
「ええ…どうやら彼はやる気らしいですよ」
そう言った後釘は壊され魔術的防備の内側から魔力放出によって全てを消し飛ばされた。
「…化け物めいているな」
「にゅふふ…ちょっとOHANASHIしようか?ヒミツクーン?」
もちろん、怒られた。
だが、怒られた程度で気分が沈むなら俺はきっと大量殺戮兵器として王都の隅々まで…とはいかないが、理不尽を殺しつくしていただろう。それほどまでに単純に、物語の主人公のように熱くなれたなら…きっと彼女も救い甲斐があったのだろう。
「…ん?彼女って誰だ?」
いや、というか本当にアレは影武者か?こんな魔力放出が出来る人間が早々いるのか?だが、あれは確かに偽装の魔術、魔法より上位の法則によって生み出された実体のある幻想だ。
その中身がどんな者でも、無機物であっても見かけ上問題ない、受け答えや魔力などの点でどうあがいても人間を入れるしか無いのだが…まあ、見かけの話である。
先ほどのポンと生まれた記憶のかけらを一瞬で忘れ去り、今日見た惨状とこの国の王を思う。
些か辛辣かもしれないが、今の王にこの国の人間がかける期待ほどの力はないと見える。少なくとも俺はそう思う…が、今彼女という魔法的に、そして流れ的に中心的な存在がこの国の王をやめればどうなるかも容易に想像がつく。
いや、というかそれ以前に、俺が今まで見てなかっただけでこの国はよくやってきていた。どれほどの歴史があるのかはまだ知らないが、使えている円卓に数千歳だか数百歳だかがいるのだ。しかもたった一人が王のままで、その重責を円卓と分かち合いながらも、やはり孤高に、高嶺に構えてこの国を支え続けていた。
それまで期待に応えていた。と言うのが、この国を守れていたと言う事実が、この国を蝕んでいるのかもしれない…
「が、そこまで考えても意味がない、か。」
「むふ〜!キミィ!ぼかぁ起こっているんだぞ!なにせこの後会議が終わった兄様に折檻されるんだからね!主に君のせいで!?」
でも止めなかったじゃないですか…
「それはそれだよ!バレなきゃ犯罪じゃないし!!」
「それは危険思考ですよ師匠…」
はぁ…さて、めのまえに集中しろ、俺はたった一人の非力な凡人、これから挑む怪物を前に…誰かの心配など無用だ。




