王都
管理という物に、完全なるものは存在しない、理由は多々あるが、やはりそれは人がやるからこその限界であり、光があれば闇があるような自明の理なのだろう。
だが、だからといってシステムや、それこそ機械などに任せては行けない、彼らは簡単な『整理』は出来るかもしれないが、本質的には命令の実行者、つまり管理される側、いかに高度化しようとも、いかに人に近づこうとも、そこに人らしさはなく、思考は存在せず。その管理は足し算ではなく引き算で行われる。
実行可能な魔法とその組み合わせによる襲撃法の絞り込み、無理すればできるではなく。無理せずにできる。
その範囲を広げることが重要なのであり、熱血主人公のような足し算しか思考にないような頭で戦略を練ることはできない、足し引きの両方があって、ようやく掛け算割り算があるように、熱い鉄のような人間的な感情と、冷え固まった鋼のような機械的思考、不規則と規則、不合理と合理、その両方があってこその人間、あってこその思考、あってこその行動…
「…」
血染めの剣を振り払い目の前の惨状を見る。頭に血が上り、奥歯が削れるような音とベオウルフの咆哮が響く。
下手人はチンピラではなく組織化された悪人、目の前には魔力が欠乏し異界の知識がなんの準備もなく注ぎ込まれた結果『発狂』し、異形と成った少年少女だったモノ
そしてそれらに殺された悪人のわずかな生き残りを縛り上げ、異形と成って尚苦しむ彼らを『処分』したのは俺だった。
管理とは、感情と言う不合理を合理的な規則性によって統制し制御することだ。理性によるなにがしかとはこう言うものだ。
そして、なんの前触れもなく生贄にされ、なんの前触れもなく訪れた俺に、俺たちに殺された彼らになんの正当性が、合理性があったのか…俺にはわからない。
美しい都市はその美しさと同等の醜さを秘めている。現代においても、いや、現代においてそれは今目の前のそれよりも酷かったのかもしれない、だが、それが目の前にあるかないかで、隠し通せているかいないかで優劣をつけるのならば、『管理』という物の指数を示すのならば、『機械』のような法と理不尽ながらも市民を守る規則があった。見かけ上きちんと施行されていた前の世界の方が、ましだったのかもしれない。
「…ノスタルジックに成っても仕方ない…がね」
死とは突然である。持論だがね、だから目の前にあるものを順繰りに描写する。それがいくら突然であっても、脈絡がなくても。
「…『王の復活』ね」
俺が悪人と定義した彼らはこの国を愛した人々だった。なんのことやらまだまださっぱりだが、王様とやらは『剣』と『鞘』によって支えられた完璧な統治とやらをしていたらしい、いまのこれをみると眉唾だが、たしかにこの国の至る所から同一人物の魔力の残滓を感じていた。
精神安定用の、というとあれだが瞑想用のリラックス効果がある草を噛む。頭に登ったちは簡単に降りないが、整理することはできる。それが中身が大人である俺の、いまの同年代に確実に優っている部分だ。
そして、目の前の子供だったモノは、不安定な精神状態になった大人たちの、まるで子供のような駄々で死んだ。
信仰的なものを向けられている王様とやらは、力が落ちているいまこれを感知できず。可笑しくなってしまった奴らは更にこれを続ける。
ペリノア卿の件だって王都の門前だというのに片が付いていないのだ。通達があってもう半年だ。それだけこの王都全体が疲弊しているという事なのだろう。
「やるせないね…」
後ろからついてきたガレス師匠はいつもの能天気な笑みを失い、ガウェイン卿は熱ではなくただ物を燃やすためのほむらを聖剣から生み出し彼らを供養した。
「城に、行きましょう。少しばかり私も見通しが甘かったようです。」
ガウェイン卿は言う。どうやらかなり前から治安や住民の精神状態の悪化が著しかったようだが、それでもなんとかなっていたらしい、それが崩れたのは新王のカチコミと大魔女の襲撃が重なった一年前、それでも騎士王に円卓ありとまで言われた超級冒険者に匹敵するような化け物ぞろいの王都がこんな酷いことになるとは思わなかったらしい…
「…恐らく、新王その登場によって『騎士王』の時代が終わろうと…いえ、すいませんね、愚痴ばかりで、貴方方のフォローもできず。」
「いや、いいさ、いくら太陽の騎士様でも自分がいない間に国がこんな風になってたら…余裕もクソもないだろうしね。」
彼は少しうつむき「太陽の騎士…っふ、まるでいつも通りですね…肝心な時に、肝要なところで居ない…」そんな風に呟いた。
伝説やら伝記やら伝承やら、そんな物語の世界なんて役に立つとは思わなかったが、生前死ぬほど乱読して居たので知識だけはある。だからこの国が恐らく『ブリテン』であり、円卓がいるということは『アーサー王』によって統治される土地なのだろうと、そう思っては居た。が、いま目の前にあるのが全盛ではなく。明らかにその終盤、『叛逆の騎士により滅ぼされかけている』国であり、国の惨状とリンクするように王にもなにがしかの呪いめいた悲劇が起きているのだろう。
だが、それが現実に、統治者としての能力まで欠いているのだとしたら、騎士王と、常勝の王と称えられた時を過ぎたのならば…その結果がいまなのならば…
「…」
叛逆の騎士に滅ぼされても、いや、むしろ…
「ねえ、兄様、もう延命は無理じゃないかな?」
「やめろ!愚妹!…いや、わかってはいる。わかってはいるがっ!だが!」
ガレス師匠は可哀想なものを見る目で残骸を燃やし尽くす騎士を、膝をつきその表情を曇らせる騎士を見る。
「…城に、とにかく謁見せねば…ああ、クソっ、君らを見習いとして訓練させてあげられるほどの余裕が、まだあると良いんだが…」
「兄様…」
どうやら、嵐が来るらしい、天候ではなく。俺の予感が言っている。『今日明日中に俺は騒動に巻き込まれる』とね。




