到着、修練、内心
さて、さてさて、そういえばと声を上げる事もあるだろう。でも別に、と力をつけるという目的は達しているので気にしないという体をとってもいいだろう。が、しかし、世界とは広く。異世界とは夢と希望はないかもしれないが美しいものにあふれている。
「ほえー」
「ほあー」
「珍しく二人の年齢通りな反応を見れた気がしますね。」
「にゃはは!それはそうさ!これまでの大体は彼らにとって既知であるからね!」
王都、白亜の壁に護られた巨大な円形の都市、なんのために此処まで巨大なのかわからない正面の門がシンボリックなこの国の中心にして中枢である。
町は活気にあふれ、子供は笑顔で、大人も笑顔で、表通りはそれはそれは華やかだ。しかし、俺の解析は、そしてこの一年の間に使い込んだ魔法と魔術の同時使用による探査は、こんな素敵な所にも、いやこんな所だからこそ闇があるのを告げていた。
観測できる範囲が俺の目の前であると仮定するなら、俺は今すぐこの嫌にテンプレートな惨劇を止めるべきなんだろうが…どうにもこうにもならない、誰かを助けるのに理由はいるのだ。少なくとも今、目の前に、直近にいない悲劇に関してまで首を突っ込んでいれば俺の命まで危うくなる。
俺の薄っぺらな道徳心などそんなものなのだ。
「…ふむ、少し用事があるので私は此処で別れます。ガレス、我が愚妹、頼みますよ?」
「もっちろん!正義の味方として存分に頑張ってくると良いさ!」
だが、騎士という生き物はそうでも無いらしく。この国が変わろうと、物理的にも、事情的にも危うい時にでも秩序と正義と自ら信じるもののために戦える男というのは、いつでも尊敬に値する。
おれは走り去っていく彼の背を見ながらふと、隣にいるベオウルフ君の様子が気になり横を見ると…
「あれ?」
「おっと…これは折檻コースだね☆」
俺が感知した能登はまた別の方向で起こった騒動に飛んでいったのか、ひしゃげた石畳だけがそこに残っているばかりであった。
…どうして、こうも自分勝手で自信満々なのか、それとも何も考えてないのか…
「理解できるが…死に急ぎすぎだろ」
「きみぃ、そんな物語の主人公的なモノローグ語ってないでさっさと彼を連れ戻すよ、あっ、大丈夫、相手はチンピラだから殺す気でやっても問題ないよ?」
…そしてこの師匠はどうして対人戦の良い訓練だとか、鈍った戦いの勘を取り戻すんだとか目的地数メートル前で言うんだろうか…、俺は遠ざかっていく王都の中心、王城の威容を見ながら世の理不尽を呪った。
この世界の人間は総じて恵まれている。と俺は考える。
「なんだこのガキ!」
「ああ?おチビちゃんはさっさと家に帰ってミルクでも飲んでなぁ?」
魔力、そしてそれを宿す肉体は努力にきちんと答えてくれるし、前世のように強靭な肉体の持ち主は総じて高身長で、その骨格の全てに筋肉を搭載したような、生まれからして理不尽な差が生まれると言うのもあまり無い、才能や、加護、聖剣や運命など、翻弄されがちなところも否定できないが、それでもこの世界は人の努力を許容する。
故に、小さな子供でしか無い、俺のような二歳児でも、成人男性に対して優位に立てる。
「魔法展開、残念だが此処で君らには臭い飯を食ってもらおうか…」
ベオウルフ君のところに到達する前に絡んできたチンピラ2名、ガレス師匠は光を屈折させ透明化している。故に彼らには小動物のような俺が吠えているだけのように見えているかもしれない。
「ああ?何言ってるんですかね、このガキは?」
「…色々、すまない。」
チンピラ達は、きっとチンピラ達なりの秩序で持ってこの王都の薄暗いところを生きているんだろうが、いざ目の前にそれがあると許せないと言うのは、都合のいい話だ。
「とりあえず、今、掴んでいる彼女を離してもらおう。」
引き裂かれた衣服、未熟な体躯、そして血と痣、虚ろな目に光はなく。ただ惰性で呼吸をしているように見える。
…まあ、最悪だ。彼らの所業は最悪だが、それ以上に目の前に来るまでこれを放置しようと俺が、目の前でそれを見ると血が沸騰したように熱くなるのが我慢ならない、なんて都合がいいんだ俺は。
勝負にすらならない一方的蹂躙は、相手に何もさせずに終わった。
左足ではねとぶように低空を飛んだ俺が着地しながら擦っていた右足で大きく踏み込み、それに連動して放った掌底によって下品な笑みを浮かべたチンピラ1をボウリングのピンのように跳ね飛ばし、続いてそこから回転し、裏拳で持ってチンピラ2が死なない程度の力で顎を打ち抜き、脳震盪によって全身の力が抜け落ちたところで少女をキャッチ、崩れゆく彼の体をチンピラ1と同じくゴミ捨て場の方に蹴り飛ばす。
「お見事!いやー、そんな体術が平和らしい君らの世界で残ってるなんて驚きだね!」
「…まあ、言われてみれば可笑しいですね。」
少女の傷を見る。再生魔法は自分専用、回復魔法は上手く無い、それに彼女の心の傷までは癒せない、
「ガレスさん」
「うん、いいよ?」
俺は彼女をガレス師匠に任せ、ベオウルフ君の元へ向かう。
もう強制では無い。だが、今の惨状を見て、その後にそれよりも沢山の命が蠢く場所で、これ以上の惨劇がないなんて誰が言えるだろうか?
「…やっぱり、男の子だね…自虐的で、大人びていても、見込んだ通りに男の子だ。そうでしょ?兄様」
「…ええ、そうですね……それはそうと、二人を城に連れて行けていないので後で折檻ですね。」




