魔法修行!3
さて、日が沈んだらまた昇るように、修行にも始まりがあって終わりがある。少なくとも俺の最初の修行、杖作りは順調に最終段階に入った。
「最後は宝玉とかをつけるんだけども…ある?」
「無いですね、というかまだ一年と半分ほどしか生きてない俺の何を期待しているんです?」
だよねー、とぼやきながら彼女は石ころのような、しかしそれのしては丸いナニカを手渡してきた。
「じゃあ、今からこいつにできうる限り完璧に練り上げた魔力を一息に叩き込んでくれるかな?」
「…わかりました。」
…恐らく。俺が叩き込めた魔力の量と質で宝玉という名の魔法制御部の力が決まるのだろうが…俺はその時できうる限りの最善を尽くしたいタイプだって言うのをこの人はまだ知らないのだろう。俺は目を瞑って深く自らの内に潜り込む様にイメージする。
「…おっと、これはこれは…」
魔力と言うのは世界中に存在する小さな粒子であり、可能性の塊、エネルギーである。それらはイメージと観測と術式によって固定され、形を持つ。それ故に、魔力の操作というのは意識すればするほどに難しくなる傾向にある。
何故なら、意識する。と言うことは可能性の形を歪めてしまうからだ。
ならば、その可能性の形を最初から切り捨てて、ある一定の形のして仕舞えば良い、そう考えたのが賢者であり、今世界で最も一般的であろう術式による魔法制御技術、いわゆる『魔法』である。この時の魔力と言うのは『体内と世界を循環する巨大なエネルギー』であると仮定され、その過程の中で『魔力』と言う認識が発生する。
俺の場合はいわゆる異世界と言う奴で最も一般的に描写される魔力と言うのを想像だけでもって動かし始めたが、今でこそ無謀な賭けに出たものだと一年前の自分を笑える。仕事柄移動時間だけはあったので本をよく読んだが、最終的に質量が辛くなり電子書籍、ついでに無料というのに惹かれて投稿サイトやなんだと乱読してきた。
…いや、そうじゃなくて、だ。どうにも内側を意識するとどうでも良いことが湧き出てくるが、そうではなくて、実際に魔力と言うのは人間が想像したものであり、その実態は全くの謎、神秘である。と言うのが重要なのだ。
つまり、この世の理から外れた性質や賢者が想像したのとは全く違う形を持っているのかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない、『可能性の塊』と言うのが最も適切でぴったりである。と言うのが今の定説だ。
「フゥ…」
瞑想というのは自らの内でこの世を知ろうと思考する。その末に無心に、そして全てを知ると言う精神的な鍛錬だ。
魔力とは、魔法とはなんなのか、そんなことを考えて、そこから世界を切り取ろうとする。それは魔法使いの思考世界であり、その末に何が見えるかがその魔法使いの限界だ。ならば、ならば俺は…
「っ!行きます。」
「はいよー」
制御ギリギリ上、限界の少し先、今できる限界以上に循環させられその円が二重になりブレた魔力が俺の体の端々から少しずつ漏れ、それが肉体を損壊するが、それに構わず膨大なエネルギーの流れを強引に一本に束ねる。
ビリビリと震える体と悲鳴をあげる肉体、目が余剰な魔力の流れによって暴走しているのがわかる。だがそれでいい、やはり俺は凡才らしく魔法使いとしての才能も無い、魔力の操作はまだ完璧では無いし、魔法だってヘナチョコだ。このあいだの戦いだって、あの肉体と魂がいがみ合っていなければ勝てなかった。少なくともカタログスペックで負けているのに勝てたのは、相手が根幹的なところで脆かったからだ。
死にたく無いし、辛い思いをしたく無いし、痛いのも得意じゃ無い、だが、何よりも行きたい、生き抜きたい、やはり俺の体はどうにも生きることにこそ価値を見出しているらしく。そこには俺の意識を超えた何かが介在しているような気がしてならないが、俺も死にたく無いのだから、死ぬ以外の嫌なことは全部同じである。
俺は球に全身の魔力を余さず一息にブチ込んで膝から崩れ落ちた。
…最終段階、恐らく俺の完成した枝的何かにこれを取り付ければ一先ず杖を作るという修行は完成だろうが…どうやら今日は球を作るので限界らしい、遅遅として進まない修行だが、果たしてこのピンクヘッドな師匠が何処かに行くまでに俺はそれなりの魔法使いとしての基礎を手に入れられるのだろうか…些か不安になるな。




