残酷な時の流れと嫌な予感
勝負は決した。俺は残り十秒に注がれるはずだった魔力で再生を完了し、汗はかきつつも息を切らさずに立っている。
「はっ…ハッ…フッ…クククハハハッゴッホゴッホ!?」
「ちょっ!ラモラック卿!?」
半年ぶりの運動だ。無理もない、これはもはや勝負ではなく。決するべき勝敗もない、あるのは…事実の確認と、決意だ。
「お前に、こいつを貸す。」
「え…」
そう言って彼女は俺にアンサラー・ドゥランダルを押し付ける。俺は咄嗟に受け取ったが…こんな複雑な機構を含んだ武装をまだ未熟どころかそもそも今回ペリノア卿の件に絡めるかも怪しい俺に渡す?
「敵討ちにしても非合理です。ガレス卿や他の円卓の方が…」
「お前なんだよ…ジジイが死んだ理由は、お前なんだ。別に、それを胸に戦え、とは言わねえ、だが、俺の気がすまねえんだよ」
彼女は鎧の重さを感じさせる。少しゆったりとした動きで立ち上がる。
「お前は凡人だろう。ジジイにもカケラくらいは剣の才能って奴が有ったらしいが、お前にはそのカケラもない、言っちゃあなんだが、病み上がりどころか半年間もまともに動いてなくても戦える俺や、ガウェイン卿の様な輝く才能は無い、一切ない」
「だから…」
俺はアレらを倒すために、打ち砕き自らの手に一時でも、一瞬でも安寧を手に入れるために、生存本能のままに鍛え、練り上げ、生きているのだ。
「そう、その目だ。そのまるで死ぬ気がねえっていう目、俺は正直気に入らなかったんだ。戦士っつうのは死ぬもんだ。少なくとも私はそう信じてここまで進んできた。」
彼女はそう言いながら魔力をほとばしらせる。その魔力には、怒り、狂気、闘争という物を凝固させたらそんな風になるのだろうか思わせる。激しい感情があった。
「女のくせにという奴らを叩き潰し、王の統治に不当な異議を立てる輩に怒り、なによりも闘いを、血の匂いを、戦場の鉄と黴の匂いを、闘争を己のいるべき場所と定めた。」
肉体が衰えたとしても、技量を失っても、彼女の目は爛々と輝き俺を射抜く。
「死が自らの騎士道であると、死を運び、撒き散らし、進んで、進んで、前のめりになって、死ぬ。それが騎士で、それが戦士で、それが…俺だった。」
その瞳を何処かで見たことがある。いや、そうか、流石だ。俺はこの瞳と同じ物をペリノア卿の最後の笑みに見たのだった。
「いつの日か、俺にも終わりが来る。それまで前しか向かないと決めていた俺が…このザマだ。聞けば糞ミテェな魔女の呪いにも犯されて寝てるお前を殺そうとしてたりもしたらしい…が、見ろよ今を、死んでも悔いはないと生きていた俺は、生き抜こうとするお前に負け、それより前に肉親が死ぬだけで俺の信念はこうも揺らぐ。…最悪だろ?」
「人とは、そういうものなのでは無いんですか?」
彼女は一瞬キョトンとしたが、それは俺も同じだ。何一歳児が人間語ってんだこの馬鹿、この少女に俺の精神が揺さぶられてんのか…?
「お前は…最初会った時から思ってたが、爺臭えな、そんな餓鬼の形して中身は何が入ってんだかわかったもんじゃねえ、戦い方も洗練されてる。動きもキメェ、俺は自慢じゃねえけど転生者の相手だってしたことがあるが…お前見たいのはいなかったよ」
「へ、へぇー」
別段バレて問題はないが、いささか不気味だろう。生きにくいのはごめんだからな。
「ック…まあいい、そいつは一旦お前に預ける。…ぶっ壊したら承知しねえからな?」
「いや、じゃあやっぱり。」
「返事は?」
頭を掴まれ息が互いにかかるくらい寄せられる。その瞳には俺の苦手なシリアスな光があって、真っ直ぐに俺を直視して来る。
「はい。」
「良い子だ。次、五年後、俺はお前の前に何があっても現れてやる。今から死ぬほど鍛えて2年で戻して三年間強くなってきてやる。それまでお前が、お前こそが俺とジジイの認める『ペリノア』で、『ラモラック 』だ。」
そう言って彼女は俺の額にキスをした。
「色々、ありがとよ。」
そう言って立ち上がった彼女は颯爽と去り…
ドサッ
去り…
「…すまん、格好つけたは良いが限界だ。ベオウルフとお前で運んでくれ。」
「…ラモラック卿、非常に格好悪いですよ。」
「ああ、ダサいな。」
「うっせ!あともう俺は円卓じゃねえ、アリシアだ。誇り高き円卓の称号『ペリノア』を戴く騎士、オスロー・リッターが娘アリシア・リッターだ。覚えとけ」
ちなみにオチを付けるとするならこれでも十分だが、追い討ちをかけるならば、ガウェイン卿に出した円卓脱退の書類も却下されていたと言っておこう。
「ドゥランダル、ギリシア神話におけるトロイアの英雄、ヘクトールの持つ槍を起源とする切断の魔剣、実際に存在する物を見た上で、アレをそう名付けた職人はさぞかしその作品に自信があったらしい。」
さて、嫌な予感だ。アリシアさんがこの街から出て自らの領地に帰ったその夜に、俺は彼女からもらったアンサラーの調子を確かめていた。いや、この判断自体は間違ってなかったはずだ。敷いて間違っているところを挙げるなら…彼がここにいることだろう。
「先に名乗っておく。俺は『シャルルマーニュ』反乱軍だ。円卓の騎士ラモラックが剣、アンサラー・ドゥランダルを簒奪しに参った。…さて、君はどう殺されてくれるんだ?」
「できれば死なない方向で…よろしくしてえな。」
ああ、大変だ。大変だ。腹がよじれて死にそうだ。俺は目の前にいる青年に笑みを浮かべる。彼は不気味に笑う俺を見て首をかしげるが、俺は今、非常に気分がいいんだ。そう、それは例えば…大嫌いな戦いをちょっとだけやってみようと思ってしまう位には…
「こんなに素晴らしい夜なんだ。月でも見て楽しもうぜ?」
俺は敢えて詠う。まるで死亡フラグだが、それはあっている、俺はここで間違えれば死ぬだろう。確信がある。なぜって?それは…俺の死が見えるからだ。




