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ただ前に、ただ進め2


打ち合うのは愚の骨頂、だが、打ち合うことすらまずできないだろう。武器の性能差もあるが、彼女の得物は槍、それも突撃槍とも見紛う長大な長槍だ。いや、剣槍、だろうか?今更ながらまじまじとそれを見ると突撃槍のような尖っただけの構造ではなくきちんと刃物としての性能も有しており、しかも…投げる時以外の変形機構もあるようだ。読みが甘かった…


「アンサラー!」

「っく!」


刀身が魔力によって起動された機構によって変形、大剣と突撃槍の合いの子の様な見た目が一瞬にして突撃そうだった時よりも長大な剣へと圧縮され、伸びる!


俺はそれを空中で体をよじる様にして回避し、着地と同時に剣を収納、右拳を前に右足を前にして再度突貫する。


「甘ぇ!」


彼女は俺が長大な剣の引き戻しで生じる時間を狙った物と断定した様で左腕で剣を引き戻しつつも右腕で迎撃すると言う二つの動作を行う。つまり、彼女の右拳は俺に向かって突きされるわけで、俺はそれを…剣で止める。


「ッハ!?」

「右腕貰いますよ。」


剣自体は浅く刺さった程度、やはり頑丈だが…短剣の方を目の前に投げつけられているのならどうだろう。やはり超人でも硬直するだろうか、答えは…


「悪くねえが…ッチ、地力の差ってやつか?」

「…はぁ、辛いね。」


no、ついでに言えば掌にできた影から剣を飛び出させ、体の後ろの影から短剣を飛ばしたのは、勿論最近できる様になった収納魔法の応用だ。

一瞬すぎて認識が遅れたが、俺は…左足で彼女の体を蹴って後ろに下がる。彼女が一瞬力むだけで発生した魔力と単純な身体能力に由来する衝撃波に右腕と右足を砕かれた。戦力は大幅に低下、普通に考えれば戦闘不能だが…


ベキッ、ゴキッ!


「…へぇ、その程度のケガなら、足を止める必要すらねえ…と」

「いやいや、滞空時間っていう静止時間があったじゃないですかーヤダー」


俺はなんの問題もなく着地し剣を取り出す。やはり超人、地力が違いすぎる。例えるなら…と言うまでもなく。彼女は身じろぎひとつで俺を殺せて、俺は全力でやっても傷が出来るかどうか、と言う感じだ。現に彼女の手に刺さっていたと思った剣は彼女の指と指の間に挟み込まれていただけだ。


「あはぁ…じゃ、ちぃと大人気なく行くかなぁ!」

「ッ!」


彼女に殺意は、無い。少なくともこのあいだの様な情緒の不安定さも無い、やはり模擬戦、だが俺にとってはその一挙手一投足は…剥き出しの刃物と同じである。

彼女が踏み込むと同時に前面に物理障壁を五重展開、衝撃波で一枚、吹っ飛んできた砂利のショットガンめいた運動エネルギーに四枚、俺は迫り来る嵐の様な、ペリノア卿とは違う…どこかガウェイン卿の様な無形にして最強の剣技を生身で凌がねばならない…が、


「…ッハ…ッハ…」

「…」


まあ、無理である。無理ゲー極まっている。現状、俺が彼女に勝つことは不可能…とまではいかないが、あの魔力の防御と身体能力差を埋める何があって一割、このまま以上の鍛練を続けるかつ相手が成長しないなら五年の時間があって二割…といった所か、俺は剣技の範囲から自爆めいた懐の釘の同時爆発によって後ろにカッ飛び、屋敷の壁にめり込みながら思う。


「成る程、ね、お前の強さはそれか。」

「…フッ、ハハハハハ!弱者どころか子供を捕まえて言うのは強さ、ですか。」


笑ってしまう。笑っちまうよ、なにせ彼女は俺にペリノア卿を見ている。内面が読めなくても、表情が和やかに笑っていても、彼女の目には『ペリノア卿が残した』と言うフィルタが掛かって俺が見えている。


「ああ、確かにお前は強く無い、強くは無いが生きている。…悔しいけど、俺と違ってお前は冷静で、俺と違ってペリノアに、ジジイに似てるよクソッタレ」

「そうか、そいつは光栄だな。」


…馬鹿らしい、彼女は身じろぎひとつで俺を殺せるのがわかっててフル装備で来て、試すと言う建前で、俺が本当に価値あるものか知りたいと本心からの言葉では無い事を言って、やりたい事は前と同じ八つ当たりか、…ッチ、いや、そうだろう。そうもなるだろう。なにせ、なにせ彼女は…


「手加減してくれてありがとよ。」

「…」

「確かにお前は俺より弱いし、勝負には勝てないが、少なくとも私を追い詰めるくらいできたはずだ。なにせ今の私は全然弱いからな。」


息が切れている。手が、足が震え、汗もかいている。半年前なら起こらなかった。万全ならば起こらなかった異常が、明らかな身体機能の低下が彼女を襲っていた。

金属部は最小限で、動きを邪魔しない様に出来た竜の皮と希少金属の複合鎧は、まるで半年前の彼女の様な肉体を見せかけているが、それは違う。彼女の籠手、そこに確かに剣が当たった時、聞こえた音は響く様な、まるで中身が詰まっていないかの様な音、半年前の彼女が歩けばガチャガチャと腰や肩についた板金の跳ねる音が聞こえたものだが、今ではそれにかき消される様に少しだけ、しかし確実に全体が浮いて、落下する様な、体格に不相応なものを着込んだ様な音がする。


「戻すのに五年、最低でも2年はかかるってよ。」

「…強く叩きすぎでしたかね。」

「ああ、そうかもな。」


ガウェイン卿は彼女に告げたそうだ。


『ペリノア卿と思しき亡霊討伐に、君を連れてはいけない。』


「ハッ…力の落ちた騎士は、いらねえってよ。」


彼女は武器を軽く振り、少し重そうに顔を歪める。


「な、全力でこいよ、私もそれで諦めがつく。」

「…わかりました。」


自力で負けている。魔力操作で負けている。かけてきた時間も、体格も負けている。

…だが、それ以上に彼女は失った。戻し難い、戻せない、永遠に続くかに思われた寒さで、凝った水でできた道が熱で解ける様に、積み重ねてきた技術は、肉体は、意識を失っている間に彼女の体から逃げ出してしまった。

俺は肉体が損壊するレベルの強化を自らに施し、再生しながら剣を振るう。一分も持たないと自覚しているが、彼女の剣戟は30秒を境に急激に、明確に余裕を失い、顔には玉の様な汗を、呼気は乱れ、そして…


ガイン!


剣とともに混じって入れた拳が、アンサラー・ドゥランダルを横合いから叩き。


「あっ」


吹き飛ばした。

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