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ただ前に、ただ進め1


半年、半年は六ヶ月、年の初めから六ヶ月も経てば陽射しはそろそろ強くなり、そして少しだけ長い雨が降るようになる。

日本の梅雨とはいかないし、カンボジアや東南アジアなどの雨季や乾季とはまた違うが、どうやら異世界にも季節があるらしい。


「…あー、暇、ていうかヒミツ、俺ら騎士様に連れられて半年前に着いたのになんで半年も門の向こうの王都に行けないんだ?」


身長はすでに170はあるだろうか、少しだけ煤けた金色の髪に獰猛そうな中に理性を湛えた鳶色の瞳、屈強な肉体は俺と鍛錬している期間は変わらないはずなのに俺の倍以上の速度で成長している。

まあ、さすが英雄の肉体、ベオウルフ王の体、血を流すベオウルフ君である。


「暇なら礼儀作法やら魔法やら読むべき本はいっぱいあるだろうに…それに昨日漸くラモラック卿が目覚めたんだ。」


それに半年前にガウェイン卿は無理を押して王都に行っているが、彼がラモラック卿の目覚めを待って出発するといいう風に予定を変えたのだ。『ナニカ』が有ったのだろう。


「はぁー、俺はお前みたいに本を触るだけで読んだりできないし、どうにも動いてる方が性に合うんだよ…っ、あ、はぁ、最近身体に引っ張られすぎかなぁ…」

「僕はワイルドで好きだぜ?ベオウルフ君の王様モード。」


俺は、いや、喋るときは僕だが、どうせそのうち俺になるのだ。気をつけていても仕方がない…いや、そうではなくて、御察しの通り、俺たちはまだリンドンの街にいる。治療院からは出たが、結局王都には行けてない、今はガウェイン卿が用意してくれた貴族用の館に宿泊しているが…半年ともなるともはや拠点である。仮宿どころか馴染みまくりである。


「まあ、庭が広くて鍛錬する場所には事欠かないし。」

「僕は本がたくさんあって嬉しいね。」


まあ、半年間もの時間は解析使いである俺の読書ペースを考えるといささか長過ぎるが…読んだことの実践や身につけると言う意味での修得する時間という意味ではちょっと短かった。


「はぁ…ヒミツ、お茶出して。」

「はいはい。」


俺は影に手を突っ込むとカップを取り出し、指を鳴らして影を操作するとそこからティーカップにお茶を注ぐ。

これが『収納魔法』俺が半年の内のほとんどをかけて自らの影を触媒に作り上げた上級魔法、正確には術式のアレンジだが、影という手放しようのないものに収納という概念を付与できたのは解析先生と幽霊君さまさまである。

原理など説明しようものならベオウルフ君は直ちに逃げ出すだろうが、やっていることは単純である。

マジックバックと呼ばれる時間停止や空間拡張能力の付与された魔道具の術式を盗み見て、前に読んだ中級魔法書の中の特殊魔法、空間魔法の欄を脳内展開、削れる部分と削れない部分を選定しいつも通り循環によって純度の上がった魔力で起動しているだけだ。


「本当は魔力の何にでもなれるという万能性の振り分けとか、エーテルと言う名の第六元素による架空空間の生成とか、色々あるんだけど…ま、要は使えればいいんだよ。」


いつのまにかベオウルフ君はお茶を飲みきって晴れた外で元気よく型の練習をしていたが、それも些細なことである。

…ちなみに、これはまだ不完全である。魔法の基本要素として悪名高い『四元素』、火、水、土、風と言う低級なレベルでしか属性魔法が使えない関係上、俺にはそれらを分解し再構成した非物質元素である『闇』が使えない…ま。ここで愚痴っていても幽霊君しか聞いていないので仕方がないが、科学がそうであったように、この世界の魔法というのはとりあえず目に見える現象や物体を魔力によって再現すること、それが本当に最初の始まりであった。そして多くのそういう単純な魔法はイメージがしやすく。単純ゆえに殺傷力も高い、おそらく賢者マーリンが現れたり、魔法を魔術と言う神の力、『神術』と呼ばれる人間が持つ魔力と魔法の原型ともなった神の力の再現を目指したりしなければ、今でもそういうレベルの魔法が世界を席巻し、転生者諸君が『俺Tueeeee』出来たのかもしれないが、人間の技術とは発展するものであり、人間とは欲深いものだ。

…で、何故俺が闇を使えないのかといえば、初級、中級『魔法書』なのである。

そう、今俺が使えるのは『魔法』であって。高度に体系化された『魔術』でもなければ『賢者式』と呼ばれる魔法言語の組み合わせですらない、ヒトが、人類が一様に持つ魔力とイメージによってそれが生み出す紋様によって生まれた『原始魔法』なのである。

ま、今風に言えば『生活魔法』『基礎魔法』、魔術と名乗ることもできない劣等技術である。


「…はぁ…」


それでどうして今までなんとかなってきたのかといえば、それは一重にこの解析のお陰だろう。これが無ければまずオレはただの一歳児であり、二足歩行や会話ももっとおくれていただろう。

ちなみに魔法使いと言うのは基本的に魔術を使う人達だ。まあ、戦士や一般人には魔術も魔法もあまり興味がないんだろう。なにせ起こる規模が違くても根本的には同じ魔力で動く超自然現象の再現だからね!仕方ないね!


オレが普通に活字を眺めながらそんなことを考えていると扉がノックされた。はて、窓の外にはベオウルフ君は…まだ居るな、感知は…一応もう釘無しで使えるが…


「オレだ。ヒミツ、開けろ。」

「ああ、アリシ「ラモラックだクソガキ。」…わぁお…」


うん、大人をからかうものではないな、いや、オレも大人なんだがまさか扉を粉砕してしまうほど起こるとは思わなかったんじゃ…


「…おはようございます。騎士様、いったいどうし「ちょっとツラ貸せや。」アッハイ。」


うん、目が昨日ほどじゃなかったが逝ってましたね、これは…死んだか?




「構えろヒミツ、オレの八つ当たりだってのはわかってるが、やっぱりてめえは気に食わねえよ。」


ここは中庭、ベオウルフ君がさっきまで鍛錬をしていたところだが、今ここで立って居るのは万全な装備をしたラモラック卿と闇の中から長剣と短剣を出してジャグリングするオレだけだった。

ベオウルフ君は近くの地面に腰掛けている。


「…多分、僕が負けますよ?」

「そりゃあそうだ。オレだって半年寝てはいたが円卓だ。そう簡単に負けちゃいられねえ…それに女、子供、老人に手をあげるほど狂犬ってわけじゃねえが…親父が…ペリノアが助けたお前がどれほどの物なのか、オレは知らないと気が気じゃねえんだよ。」


俺はジャグリングを止める。今のは準備運動、この小さな体で魔力放出と言うブーストをかけてかっとぶ女騎士と闘うには奇策を、そして何より慣れた動きでないとダメだ。リーチはあのメカメカした槍の方が圧倒的だし、彼女の胸部装甲は男である以上俺に非常に毒である。…っく、障害が多すぎやしないか!?


「…いま、ちょっとふざけたこと考えてたろ。」

「めっそうもない、ちょっと戦乙女めいた騎士様に見とれていただけですよ。」

「抜かせ、ガキ、ていうかそういうのはどこで覚えてくんだ?」

「独学にございます。」


勝負開始の合図はない、なぜなら…


「おや、動かないんですか?」

「…ック、クハハハ!やってやるぜ小賢しい!俺にお前の価値を証明してみせろ!」


もう始まっているからだ。


彼女が踏み出した地面が爆発、ジャグリングの時釘をいくつかばら撒かせてもらった。彼女は途中で気がついたようだが、しかし…


「意味ねえな?」

「ま、そりゃあそうだ。」


彼女もまた円卓、魔力による強化は周囲の空間を陽炎のように歪ませるほどに…分厚い、まるで装甲車である。俺は彼女に向かって駆け出した。

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