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非安定、不安定、安定


目を覚ますと激痛が走り、とっても刺激的に俺を叩き起こしてくれちゃったりする。全身余すところなく筋肉痛、左足が折れたのはわかって居たが右足もいつの間にやら疲労骨折、知らないうちにあばらも何本か逝った様で、左肩の傷も自己主張が激しい、だが、一番最初に言うべきは…


「はぁ〜生きてるなぁ〜」


生憎全身余すところなく動かないし、目は奥から熱が溢れて来る様な感覚があって開けられないし、口の中も血液の生臭く、何処か金属質な味が広がっているが、確かに今、この瞬間、心臓が鼓動し呼吸をしている俺は…俺は生きている。


「そうですね、流石、とでも言っておきましょうかヒミツ君。」


あまりの安堵に気が緩んで居たのか、それとも強大すぎる魔力が部屋を包んで居たからか、俺は右隣からイケメンボイス、もといゴリラ的な優しさの篭った声が聞こえたことで、漸くガウェイン卿がそこにいるのだという事に気がついた。


「…生きてたんですね、流石です。」

「…申し訳なかった。冷静ではなかったとか言い訳する必要もないほどに完璧に敵の策略に嵌った。ペリノア卿が死んだのも、君がそんなボロボロになったのも…私の責任だ。」


…うーん、どう返そうか、会話中にいきなり罵倒するのもな…と思って居た矢先、俺の口は思ったことをそのまま言って居た。


「そうですね。」

「…意外とはっきり言いますね…いえ、まあ、言い訳の余地が無いほどにその通りですが。」

「一体どんな因縁があったのかなんて俺には関係ないけれど、同じ円卓であるペリノア卿は貴方の暴走の所為で命を落としたんですよ、それくらい言います。」

「……そう、ですね、幼児である貴方に言われると非常に奇妙な気分ですが、確かにそうです。相手の精神干渉を跳ね除けられるほどの力があるのにも関わらず、頭に登った血をそのままに突っ込んで言った私の責任であり、貴方や、ラモラック、ベオウルフ君にはなんの責任もありませ「なんの責任もないわけじゃないでしょ、バカですか卿は。」〜っ!」


俺が放ったのは無理くり体を動かした為に威力もクソもない打撃、だが、魔力による強化もせず、ただ粛々と罰を待つ彼にはいい気味だろう。


「で、とりあえず八つ当たりみたいなことをして見ましたけど、これからどうするんですか?」

「…暫く。いえ、ラモラック卿の受けた精神汚染と貴方の身体が治り次第、此処を出るつもりです。転移門も騎士章があれば予約無しで割り込めますしね。」


殴られた事をさも当然とばかりに鼻から血が出るのにも構わず事務的に話す姿は、やはり人間をやめていると言うだけはある…のか?俺には非常に不安定で、自罰的で、自虐的な人でなしがいる様にしか見えないが…神の寵愛とはここまで人から人らしさを奪うものなのだろうか?そしてもし、神の寵愛と言うのがそう言う性質のものならば、神から特典を授けられると言う転生者の多くは一体どうなってしまうのか…考えたくは無いが、人間的に壊れてしまっているのかもしれない、いや、いっぺん死んでいるのである。壊れて居ない方がおかしいか。


…というか、その理論で話を展開しようとすると、俺が既にネジが何本もぶっ飛んだヤバいやつってことになるのでは…いや、うん、こういうのは考えない方がいいな!うん!


暫くするとガウェイン卿は魔法使いらしい格好をした医者っぽいのに呼ばれて寝台の横にあった椅子から立ち上がった。


「何か怪我でもしたんですか?」

「怪我は、貴方のパンチで鼻血が出たくらいですが…」


そう言って誤魔化そうとした彼を解析すると、明らかに魔力が乱れている、乱れているというか…


「淀んでいる?」

「…はぁ、見事です。が、心配いりません、あの忌々しい魔女の精神操作を魔力で強引に食い破ったので、魔力が暴走しただけですよ。」


…その結果があの大爆発ならもうちょっと思いっきりぶん殴っても俺に罪はないと思う。そう思って魔力を動かすが…手応えがない、


「むっ…」

「無理に魔力を動かさない方がいいですよ?今の貴方は最低限の魔力循環以外の操作はほぼ出来ないほど魔力を失って居ます。いわゆる、魔力欠乏という奴ですね…まぁ、普通そこまで魔力を失えば死に至る筈ですが…」

「さぁね、体質なんじゃないか?」

「いえ、それは転生者に良くある特徴ですね、外界からの知識流入の代わりに自らの欠けた部分が歪んで戻って来るとか、なんとか…」

「騎士様!早くこっちに来てください!」


なんか非常に気になる事を言って居たが、回復魔法の使い手っぽい魔法使いの後ろから出て来た肝っ玉母ちゃんみたいな人に引き摺られていった。


大男がいなくなり、俺の他にはラモラック卿の静かな呼吸が聴こえてくるのみ、静かな物である。



そして、静かになるとついつい考え事をしてしまうのは、年がいっているからなのか、それともただ単に俺が思索するのを好むからか、俺の思考は先ほどのガウェイン卿が言って居た転生者の欠けた部分と言う文言に集中していく。


「欠けた部分…ねぇ。」


心当たりはある。多分にある。記憶とか、時々流れ込んで来ては妙な方向に思考を誘導する経験とか、時折見せる本能、自らも驚くほどに生存に執着するその性質…いや、もっと根本的に言えばどうして俺は最初から特に不自由なく魔力を動かせたりしたのか、魔法の前提知識がないのにもかかわらず解析で術式を見るだけで魔法が使えるのか、不思議な事に今の今まで疑問にも思わなかったが、一度疑問符をつけると奇妙な感覚である。


「…俺が俺であることは俺以外に証明できないし、俺にも証明できない、もし仮に俺が計算機上のデータの集積によって出来た疑似的な人格であったとしても俺は俺だ…と、そこまで言い切れれば楽なんだがね…」


本当に俺は現代日本に生きる商社マンだったのだろうか?いや、そういう記憶はあるが、それに相応しくない記憶があまりに多い、思えば道場と言う場所に行ったという記憶はあるが、それがどこにあって、どんな練習に打ち込んで居たのか、と具体的な記憶を呼び起そうとしても曖昧模糊な断片しか出てこない。


「うーん、わからんな、どれもこれも断片的で明らかに俺がなぞって来て居ない足跡もあるのに、不思議とそれら全てを含めて俺なんだという確信がある。」


それがたとえ覚えのない戦闘法であっても、それがたとえ使ったことも無いような刀剣術の術理であっても、例え、それが幾千幾万と観てきた自らの死に様で有ったとしても、それら全てが、剣を振った記憶も、魔法を放ち超自然的な現象を起こした記憶も、力及ばず事切れ薄れゆく記憶であっても、それらは全て俺のものであり、どれが欠けても俺で無いという確信がある。


それをはっきりと自覚すると何か俺の中で欠落していた何かがかっちりとはまったような、そんな感覚が、奇妙だが、安堵感のある何かが、内側の方から湧き出て俺の体を駆け巡った。


気がつけば高く上がっていた陽が西の空を茜色に染め上げ、反対からはこの世界で一番馴染みのある天体、月が、双子の月が空にあった。




「むむむ…なんだかハイペースだね、この調子なら12歳位にはこっちに着いちゃうかな?」

『さぁね、問題はこっちが接触できないってこと…わかったらサボってないで働きなさい!この駄女神!』

「えー、君は僕の写し身なんだよ?僕が駄目なら君もだ『さっさとしなさい色ボケ女神!あんたに理性がなくても手が物理的に足りないんだから頼らざる得ないのよ!』…はぁ…わかったよ、わかったわかった。」


さぁ、頑張ってくれよ愛しい愛しいだれかさん、世界はもう終わり始めてるんだから。

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