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生存


「なんとか奥までたどり着きましたね。」

「そうっすね…」


俺が魔法と拳で血路を開き、ペリノアさんが後詰として、というよりフォローの為に脇から死角の攻撃を逸らし生き残りを殺す。

打撃かつ超近接主体の俺と純粋な斬撃と速さを持つペリノアさんが閉所で一緒に戦うにはこの方法がベストだと思ったんだが…


「よくよく考えればオレが戦うのはただの魔力浪費なんだよなぁ…」

「ホッホッホ、そこまで卑下するものではありませんよ、斬撃が余り有効ではない相手にこの老いぼれ一人ではらちがあきませんでしたし…」


ペリノア卿は好々爺的な笑みを潜めサーベルのを抜く。明らかに今までとは違った雰囲気、いや、あからさまに淀んだ空気に俺は非常に、ひっじょーに、気がすすまないが、ペリノア卿は武人らしい荒々しい笑みと冷徹で、まるで冷え切った鋼の様な目をしている。


「この先に感じる邪悪を逃してしまったかもしれませんしね。」


そう言いながら装飾の一部をなぞり魔力を流し込んで行く、するとまるで堰を切ったように付与された魔力が巻き上がり、刀身の真の姿を見せる。


「魔剣解放『唸る獣(クエスティング)』!」

「おおー、カッコイイ。」


その見た目は…何だろうか、もやがかかった様に見えないというか…サーベル全体に何か生き物のような物が纏わり付いている様に見える。

だが同時にその魔力は目の前の闇の先にいる何かとの圧倒的格差を浮き彫りにする。


「では、行きましょうか。私の体力も魔剣を使うのを考えればそこまで多くありませんからね。」


それは一体、どういう意味か、俺はその疑問を言う前に半透明で蛇の様な尻尾と猟犬のような頭、山羊か鹿か何か草食動物の下半身をやたらめったらつけた様な魔力のみの存在に襟元を咥えられ一瞬出入り口に放り出された。

彼が魔剣といったそれを放つ時、一瞬解放された魔力は瞬く間に闇に飲まれ、闇を操る黒いローブの何かが見えたが、ヒミツにはそれが人間には見えなかった。

そして最後に見た彼の顔は無駄に儚げなイケオジフェイスだった。


「あああああ!」


叫ぶ声は自らを律し、奮い立たせる様にも、狂気に落ち、正気を失った様にも聞こえたが、それもすぐ止んだ。



少しあって、抵抗もできず、この不可思議な生き物に運ばれるままだったヒミツは四肢に力を込める。


「つまり。」


俺は魔力生物っぽい何かが消え失せると同時に着地し身体強化をさらに強める。


「…おい、餓鬼、ジジイはどうした。」

「一人で突っ込みました。多分死ぬ気ですね。」


俺がそう言うと同時にラモラック卿が俺に掴みかかろうとし…巨大な何かが血を突き上げるような振動と、爆発音、膨大な魔力の奔流が溢れ出し、おそらくその余波で邪悪な禁呪によって生成された死体のキメラが這いずってくる。奥から鎧の大部分を破損させ右腕をなにか人知を超えた力で轢き潰されたペリノア卿が俺とラモラック卿の間に飛ばされてきた。



俺は彼を一瞥すると解析を走らせる。俺のうろ覚えな回復魔法では救えないのと、持っていたのであろう水薬や軟膏などの医療品が軒並み燃え尽きていたり、何か邪悪なもので汚染されていたり、と使い物にならないのを確認し…


「逃げますよ。」

「あ!?何を言って「逃げますよバーサーカー女、おっと失礼、ラモラック卿。」騎士がこん「てい!」ッガ…テメ…」

「は…え…「ちょっと手荒いが…起きてくれよ、ベオウルフ。」え!?ちょっとまてえぇぇぇぇ…」


心を固めた。自らの生存と周囲の人間の確保、逃走をプランし実行する。

とりあえず身体能力を後先考えず全力で強化、魔力循環を制御できるギリギリまで高め少しでも身体能力を強化、肉体の強度を物理的にあげる魔法をかけラモラック卿を担ぎ、ベオウルフ君を馬車の方角へ投げる。

同時に自分の正面部分に出来るだけ強力な結界を張り、魔法によって初速を強化、次に加速術式を発動させ今まで担がれてきた道を跳躍するように、一瞬で馬車までたどり着く。この時、すでに肉体が崩壊しかけているし、足は左足が折れるように着地したので折れてるし、障壁が加速しすぎたためにぶっ飛んで木の枝とかが左肩にブッ刺さったりしたが、アドレナリンさんが働いているので今は問題ない…が、


「うん、祟り神かな?」

『あぁあ゛ああああぁぁあああ゛!』


巨大な粘性の化け物がご丁寧にキャメロットへの道を塞ぎやがった。俺は乗ったこともない馬車の御者席に乗り急速に方向転換、逃走経路をリンドンにとる。幸い一本道だ。どんなバカでも間違えることなくどちらかの都市に着くだろう。


「…で、だ。」


肉体に身を任せたベオウルフ君はキビキビと馬車に乗る。最後に右に持ってたラモラック卿をドサっと荷台に積み馬に身体強化と肉体強化と加速の三つを幽霊君にうまく押し付けながら並列してかけ、綱を引く。

俺の拙い馬術に気を悪くしたか、それとも後ろの化け物のせいか嘶くと同時に馬は昼間歩いてきた時よりもだいぶん疾く前への推進力を生み出し、それに俺の魔法が乗算、加算され、爆発的に加速した。

咄嗟に障壁を張ったが、ベオウルフ君の肉体の方がうまく凌いでくれたようでラモラック卿が飛ばないように抑えてもくれた。


幸い、奴の足は早くなく。更に幸いなことに俺たちがリンドンの門を見る頃に、後ろからあり得ないほどの熱量を感じたと、思った瞬間に天まで届かんばかりの火柱が立ち、周囲を焼き尽くした。


俺がぶっ倒れ、全身から血を吹き出す頃にはラモラック卿も目覚め、おそらくあの爆発を起こしたであろう太陽ゴリラも来るだろう。そう思った次の瞬間、まるで電池が切れた電動玩具の様に、俺の意識はあっさりとブラックアウトした。




「…ッハ!?」


ラモラックが目を覚ますとそこは町の治療院で、頭に包帯を巻かれ、隣ではミイラの様になった。ペリノアを見殺しにした餓鬼が寝ていた。


(…俺は…頭に血が上って…やった…のか?)

「いや、無いな、ジジイはこいつをわざわざ入り口まで吹っ飛ばしたんだ。それに多少動揺したが…」


口に出して記憶を整理すると…わかったことがある。


「そうか、ジジイは…ペリノアは死んだ…か…」


少なくともこの場には居ない、彼を、彼女は、自分を養子として育て気がつけば円卓の騎士となり、密かにあの偉大な剣士に騎士に追いすがろうとして居たラモラックと言う称号を持った少女は、狂乱とその威勢と短気を畏れられた女戦士は、意外にも冷静に死を受け止め、涙し…冷静に狂った。


「そうか、奴は、殺されたか。」


自分以外の誰かに殺された。バカな自分でもわかる様な太陽の騎士の炎に焼かれ灰も残らず散って行ったか…


「笑っちまうな…」


彼女は自分の手に握られた彼の切れ端を握りしめて…隣に眠る子供を見る。


「…コイツを…殺せば、ペリノアは返って来るかな?」

「ラモラック卿、その剣を離しなさい。」


ふと見ると自分はクビに剣を突きつけられて居た。


「がうぇいん卿、だって、やめてくれよ、コイツが、俺は悪くない、仇を撃ちたいだけだ。別にあんたでもいっか?」

「…焔よ、邪悪を焼け。」


一瞬放出された魔力、ラモラックの意識は再び落ち、次目を覚ます頃にはきっとまたいつも通りだろう。ガウェインは彼女が力強く握って居た切れ端を、魔女の魔力が、狂気が染み付いた魔力を帯びた品を灰も残さず焼き尽くした。


「…よくやってくれたよ、ヒミツ君、僕は君を尊敬する。」


神の加護と天性の強靭さと暴走した魔力、魔女の策略にまんまとハマってまんまと生き延びた騎士は自らの魔力を子供に分け与える。いつ、如何なる時も重要な局面で遅れをとる。物語によってそう紡がれた太陽の騎士は加護の対価が正常に働いているのを感じるのと同時に自分に嫌気がさした。

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