過去は過去、今は今、前世は?
素早く踏み込み素早く打ち込む。早さに頼るのはよろしくないし、癖がつくと面倒だが、いまこの瞬間に限って言えばそんな余裕をかましていられるほどの余裕はない。
「くっ!意外と、素早いですね!」
ペリノアさんは最初の頃は良かったがどうにも数で押され始めて戦況が怪しくなってきた。剣とは結局対人戦用の武器であり剣術とは殺人術である。視覚で捉えられず音で捉えられないのならば別の器官で知覚すれば良いだけであり、混ぜ物にされた魔法使いと獣の融合したアンデットには、斬撃というのはいささか不利な武器だった。
「フッ!ック!でぇい!」
俺はと言えば…ダガーではなく魔力を纏った拳や足での格闘、つまるところ破壊術のままに手足を振るい急所など関係なくあらゆるものを粉砕していた。
…まぁ、あくまで効率よく出来る範囲で、だ。無理はできない、してはいけない、魔法書にあった賢者式の魔法構成を簡略化した速度強化で拳撃を三重強化し周囲の大気ごと撃ち込む。
一撃に二つの衝撃を重ねるなどという事はこの体では不可能だが、一瞬に二回の攻撃をする事は可能だ。
「バッがああああ!?」
「さようなら。」
不死者にも弱点はある。陽の光や光だとかそういうものではなく。魔力のみが肉体にこびり付いた状態である彼らには魔力が淀む箇所があるのだ。それは多くの場合体に指令を出す役割が集中している頭と魔力を全身に回す役割がある心臓にあることが多い、目の前には異形の部分を削り取られ頭を失い、心臓のあった場所に風穴の空いた屍体が5体、力無く倒れていた。
「…強化の使い手は多くの場合戦士になるらしいですが…貴方にも言えたことの様ですね、助かりました。」
そういうペリノア卿は俺の倍以上、20体ほどのやつらを片付けた様だが、頭と心臓を体か切り離すだけでは不十分だったのか籠手や具足に血痕がついていた。
「…しかし、厄介ですな、光や教会の使う神聖術を使える様な術者がいれば簡単なのですが、原則的に魔法使いは神聖術を使えず、神聖術者も魔法を使えません、剣を使う私では決定打を与えにくいというのもありますが…いえ、とりあえずいまそれを考えている暇はなさそうですね。」
穴の奥から動くものが複数検知された。解析は自らの知っていることを目を通して、整理して、理解するそういう魔法だ。先ほどの探知でこの洞穴の構造を大まかに把握した俺の視界には暗闇の中でもこの洞窟の形をはっきりと捉えている。そして身体強化の一部を切って断続的の発動させている音の反響を聴く魔法で自分の耳を強化しつつ探査を行っている。
その二つで俺の知覚は補われているのだが…
「…さっきまで洞窟内にも人間がいたはずなのに、その反応が軒並み不死者に化けた…?」
「…それは良くない情報ですな。」
俺は釘を五つ粉砕し魔力を補充、小分けにする事で自然回復よりも早く、そして自分の限界以上の魔力を使用しようとして生命力を削るなんて、ありがちな熱血モノみたいなことが起こらない様にしている。…うん、折角の2回目なのだ。きちんと生き切る!それが目標である。
因みにこれは以前から封じていたストックの分である。どうやら俺の魔力は特殊らしく少量ずつ、例えば今の量だとこの釘の魔力許容限界くらいまで詰める分には一瞬で回復する様だ。
…ま、世の中には大気中の魔力を全部使えるとか、別世界から魔力を呼び込んだり出来る超人がいるし、俺の解析、強化そしてこの魔力の急速回復(笑)も上位互換はゴロゴロいるらしいし…
「フッ…悲しいね。」
「…(そうは言ってもそこまで多彩な能力を訓練による後付け無しで発現できるのは…と、言い訳しようと思いましたが、実際、それを超える逸材はごまんといるんですよね…非才の身には厳しい世です。)」
なんだかペリノアさんの俺を見る目がとっても同情的になったが、まあいい、非才なのは前と同じ、積み上げて、積み上げて…それでも届かないなら犠牲にして、体を削って、心を削って、魂まで売り渡して…そうして俺は…俺は?
何言ってんだ俺は、そんな記憶…そんな苦労…したか?したのか俺?
「っと、今はそうじゃない、ペリノア卿!」
「城に戻るまでは『さん』で良いです。流石におじさんはやめてくださいね?…来ますよ!」
魔力循環!肉体強化!身体強化!加速!加速!相乗!
頭に刻まれた訳のわからない記憶よりも、この体が覚えていることに集中しろ!魔法とかいう超謎でマジカルでリリカルなパワーは所詮後付け!
「疾れ!二撃血殺、『二段突き』!」
言うのよりも早く、速く、疾く撃つ、俺に今出来るのはそれだけだ。どうにも魔法によって物理限界君が緩めな世界だが、如何に世界がそうであろうとも幼児の体では物理限界以前に肉体が崩壊する。
空手で言えば前蹴りからの順手突き、今までの加速に任せた二点撃とは違い打点もブレやすい、威力も加速箇所を増やすため、魔力の分散が起きる、だがー
ズドドン!
「あっ!?」
それの積み重ねは魔法を使った二連撃よりもずっとある。なめんなよ、こっちは趣味は趣味でも実務で死ぬほど使ってきてんだ。格闘家とは言えないが、紛争地帯に売り込みに行くセールスマンを、俺を!
「嘗めんなよ?」
…それはともかく。客観視すると俺の職業危険すぎじゃね?ていうか死んでからいうのもあれだけど日本じゃなくてもいいからせめて取引先では銃を携行させてくれてもよかったんじゃないの?マイケル社長?
『オトコはイジトコンジョウデース!』
地下空間なのにあの無駄に爽やかな笑顔と理不尽なことを平気で言うイケメンスマイルが青空をバックに現れた気がした。




