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既視感

 暗闇の中。そこからとある場所が見える。そこは公園、そこには幼い俺が出てきた。

「なんで、お前は泣いてるんだ?」

 目の前で泣いている幼い俺よりも少し幼く見える白髪の少女にその俺は声をかける。

「ぐす……ひっぐ……だって……みんな私のこといないみたいに……みんな無視する……みんな私が嫌いで……ぐす……だから」

 少女はそう言った。

「……みんな無視する、みんなお前が嫌い、か」

 そう俺は呟いた。そして、目の前にいる少女をやさしく抱きしめた。

「え……」

 少女は驚いたように俺の顔を見上げる。そして、俺はこう言った。

「何言ってるんだ、みんながみんなお前のことを無視しているわけじゃ、嫌っているわけじゃない。少なくとも、俺はお前のことを無視したりしないし、嫌ったりもしない」

 そういうと少女は目を何度か瞬かせ、そして泣きはらした顔で笑った。そして、こう続ける。

「……じゃあ、私が困ってたら、助けてくれる?」

 幼い俺は答える。

「ああ」

「私のこと、嫌ったりしない?」

「ああ、そう言った」

 少女は続ける。

「……私のこと、ずっと、忘れないでくれる?」

「ああ、もちろん」

「……幼馴染としての約束だよ、空」

「ああ、約束だ」

 俺がそう返事するとその少女がとびきりの笑顔で笑った。





「ん……」

 ふと、目が覚める。それで一つのことが判明した。

「さっきのは、夢、か」

 だが……本当に夢だったのだろうか。あの夢に出てきた少女を見たとき、なにか、既視感のようなものが……




「あの夢、なんだったんだろ」

 昼休み、今朝見た夢について考えている。

「どうした空、何か考え事か?」

「ん、まあな」

「いったいどんな考え事をしてるの?」

 一緒に昼飯を食べている総司と明美にそう聞かれる。藍野は今日は他の奴らに誘われて食堂に行った。俺達も一緒に行かないかと誘ってきたが、藍野を誘った奴らの来るなオーラを察知し、断った。したらこの二人も断り、現在の状況と言うわけだ。今頃食堂は大混雑だろう。もちろん、藍野の見物人で。

 今この教室にいるのはごく少数の人数、と言うより俺達だけしかいない。静かなところで飯を食うっていうのも良いよね。

 それはそうと、さっきの質問に俺は答える。

「いや、今朝変な夢見てさ」

「どんな夢だ?」

 そう聞かれたので俺は夢の概要を説明した。

・・・・・・・・・・

「……えっと、空君。一つ良いかな」

 俺が話し終えた後、明美がそう聞いてきた。

「どうした?」

 すると明美はやけに真剣な顔でこう聞いてきた。

「それって、昔のことなんだよね」

「は?ああいや、まあ、たぶんそうだと思うぞ」

「・・そっか、そうだよね、昔のことだよね」

 そう言いながら、やけに安堵した様子の明美。

「何か、あったのか?」

 気になって俺は聞いた。

「あ、ううん、なんでもないの!」

 その言葉に少しの動揺が混じっているのに気づき、俺は明美を疑うように見る。その視線の先の明美は何か焦ったように視線を逸らす。怪しい、実に怪しい。

 そんなことを俺が思っていると、総司がこう言った。

「まあ、本人がなんでもないといってるんだからそれで良いだろ」

「……まあ確かに」

 総司の言ったことが結構正しいと思ったのでそう返す。そして、俺は皮肉混じりにこう言う。

「総司もたまにはいいこと言うな、たまには(・・・・)

「たまにはを強調すな」

 とまあ、こんなやり取りをした後、「三人寄れば文殊の知恵だ」と言う総司に促されて三人で考えてみたが結局わからないまま昼休みは過ぎていった。





(結局、あの既視感について、何もわからなかったな)

 午後のショートホームルーム、そこでも俺は今朝の夢について考えていた。やはり、あの夢で会った少女が既視感の原因だと俺は思うのだが……それにあの少女、つい最近会ったような気がするのだが。

 そんなことを考えていると、あっという間にホームルームは終わっていた。

「ほら空君、一緒に帰ろ♪」

 上機嫌そうな明美によって、俺の思考は止められた。明美はいつも俺を起こすような口調でそういった。まあ、はたから見ればずっとボーっとしていたように見えたんだろうな。

「なんだ、まだ夢のことを考えてるのか?」

 総司がそう聞く。

「ああ、まあな」

「それで、何かわかった?」

「いいや、進展無しだよ」

 明美の問いに俺は答える。

「そっか。じゃあみんなで帰る途中にまた一緒に考えようよ」

「そうだぜ、三人寄れば文殊の知恵、って言うしな」

「総司、それ昼休みのときも言ってたよ?」

「あれ、そうだっけ?」

 総司と明美の会話を聞きながら俺は少し考えた。確かに一人で考えるよりも少しは違うかもな。

「そうだな。だったらゆっくり帰りながらみんなで考えることにしましょうかね」

「ああ」「うん」

 そうと決まればとっとと外へ行こうか。俺がそう考えた、その時。

「……ねえ、青野、君」

 隣から白髪の少女、藍野が俺を呼んだ。

「ん?なんだ?」

 藍野に呼ばれ、何かと思い俺は問う。すると彼女はやや不安そうな顔でこう聞いてきた。

「……僕達、初めて会ったのって、いつだったっけ」

「いつって、三日前くらいだろ?」

 俺は初めて藍野と会ったときのことを思い出しながら言った。

「……そっか。……そうなんだね」

 藍野は俺の言葉を聞き、ふとそんなことを口にした。

「……嘘つき」

「ん?何か言ったか、藍野」

 俺は気になって彼女にそう聞く。そして彼女はこう言った。

「空の……嘘つきっ!!」

「……は?」

「ずっと忘れないっていってくれたのにっ!幼馴染としての約束って!そう言ったのにっ!私はずっと忘れてなかった!ずっと想ってた!なのにっ!」

 そう言って藍野は俺の胸元に飛び込んできた。

「うわっ!」

 彼女があまりに身を投げてこちらに飛び込んできたものだからそのまま床に押し倒されるような形になった。ていうか、さっきから藍野の胸が俺に当たってるんだが……。そんなことを気にせず、彼女は目から涙を流しながら続ける。

「……ねえ空。本当に、私のこと、忘れちゃったの?」

「…………」

 俺はその問いに答えることが出来なかった。……いや、それは少し違う。答えようとしているが正しい。

 さっき藍野が言った言葉。それと似たような言葉を聞いたような気がするのだ。そう、本当につい最近……

『……私のこと、ずっと、忘れないでくれる?』

『……幼馴染としての約束だよ、空』

(……!そうか)

 そして俺は思い至った。それは……

 今朝の夢だ。

 そうわかった時だ。

(!これは、記憶が!?)

 俺は全てを思い出した。





「ひぐっ……ぐす……」

 その少女、俺の幼馴染は決まって公園で、一人で泣いていた。俺はその少女がなぜ泣いているのか調べた。

 彼女はいじめられていたのだ。それも親が金持ちだから、容姿が整っているからというくだらない理由で。

 そのときの彼女の夕焼けに照らされていた泣き顔を、俺は、今でも覚えている。




「ぐすっ……ひぐっ……」

 彼女は泣いていた。窓から差し込む光が彼女の顔を照らす。そしてその泣き顔は、間違いなく俺の記憶の中にある幼馴染のものだった。

「……悪かった、海華」

 俺はそういいながら彼女を落ち着かせるように頭をなでてやる。

「空……本当、悪いよ」

 俺が思い出したことが伝わったのか彼女はそう言った。だが、

「……なあ、海華」

「ん?なあに?」

「そろそろ、どいてくれないか?」

 俺の上に乗ったままの彼女にそう言う。

「どうして?」

「いやどうしてって、このままじゃ俺起き上がれないし、それに……みんな見てるぞ」

「……へ?」

 俺がそういうと海華は周りを見渡す。そして彼女は思い出した。

 ここが教室だということに。

 ええもう、俺にはそりゃあびっくりするぐらい殺気のこもった視線が男子から注がれている。マジで勘弁してほしい。

 と、そこでふと、とあることを思いついた。そして、記憶にあるあること(・・・・)について海華に聞いてみる。

「なあ、海華」

「何?」

「お前、今年でいくつだ?」

 俺の問いにきょとんとしながらもこう答えた。

「もう十五歳だよ」

「誕生日は?」

「四月二日だよ」

「……ん?」「……え?」

 その言葉に何か違和感を感じた様な反応をした総司と明美。やっぱこいつら頭良いなあ。このことにすぐ気づくなんてな。

 今の日にちは四月二十二日。それが示すことはつまり……

「お前……飛び級したな?」

「うんっ!」

『……はぁっ!?』

 海華のこの言葉にこのクラスにいる全員(俺と海華以外、総司と明美を含む全員)がいっせいに驚いた。

 まあ、その確認をした後、俺達は帰路に着いた。このことでさっきの海華との出来事を少しでも薄れさせることが出来ればいいんだが……





「空、ごめんね」

 帰り道、海華は俺に謝った。教室で俺に抱きついたことを言っているのだろう、たぶん。

「別に良いさ、あれくらいな」

 うん、大丈夫。この頃ああいう視線には少し慣れてきたからね。いやぁ、慣れってすごいね。

「でもまさか、海華が空の幼馴染だったとはなぁ。なあ、明美」

「う、うん。そうだね」

 総司の質問にやや歯切れが悪いように答える明美。そして明美は不安そうな視線で海華を見ていた。



「じゃあな、空」

「ああ、また来週な、総司」

 ルートが別れる場所、そこで俺達は挨拶を交わす。

「……あの、海華ちゃん」

「ん?どうしたの明美ちゃん」

 明美は海華に真剣な表情でこう言った。

「私、負けないから」

 そう言われた海華は少しびっくりしたような顔をした……が、明美が何が言いたかったのかわかったようですぐに笑顔に戻りこう言った。

「僕も、負けるつもりはないよ」

 

 その後、俺の家の前で海華と挨拶を交わして別れた。

 こうして、主に放課後に疲れた一日は終わった。

 途中の海華の一人称が変わるのは故意でやっています。

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