魔法と制服と器用な団体
俺達がレティスに向かい始めてからいくらかして、ディニギルがさっきの続きを求めてきた。
「で、結局あの裂け目みたいなのは何なんだい?」
もちろん、収納空間のことだろう。
「ディニギルやい、お前は魔術がどういうものだかわかってるか?」
「人間が他の種族が使う魔法を見て、それを自分達で模倣しようとしたことで出来たもの、だろう?」
そう、実はこの世界、魔法と魔術はそれぞれ違うんだそうで。違いを端折って言ってしまえば、魔法は人の体の中にある魔力を使って発動するもの。そして魔術は魔力だけでなく、この世界に漂う魔力、正確には魔素を使って行なう、魔法の模倣だ。
この世界で言う人間は、その体の中に持つ魔力が他の種族に比べて極端に少ない。単純な魔法を使うとしても結構な――人間基準で――魔力が持っていかれる。魔術とは、魔力消費をどうすれば少なくして魔法を使うことが出来るか、という研究から偶然見つかったもの、とされている。だから人間は、人間にとって燃費の悪い魔法ではなくごく少量の魔力を使って行使できる魔術を使う。って、前にランファルトから教えてもらった。この世界じゃまあ常識らしい。
まあ、魔法具はどちらかというと魔法よりだけど、魔法具には魔力が宿っていて基本的にはその魔力を使って魔法を発動させるものだから、人の魔力はあまり関係ない。
「じゃあ、魔術で模倣できる属性って何だ?」
「それなら火、氷、雷、風、地、水とか、後は回復とか防御とかだったかな?」
「ああそうだな。それじゃあ、魔術で模倣できない属性は?」
「まあ、よく知られているのは光と闇、かな」
「そうだな。まあ他にも魔法にはいろんな種類があるんだけどな」
ここまで俺が話すと、ディニギルははっとしたようにこっちを見た。
「何だやる気かコラ!」
「……なんでそんな反応するのかな」
「悪い、少しふざけたわ」
言われた俺は、とっさにとったファイティングポーズを解いて、こう聞く。
「で、何かに気付いたのか?」
「まあね。だけど、それがあってるかどうかは……」
「まあ、いってみるだけ言ってみたらいいんじゃないですか?」
自信なさげなディニギルにユミアがそう背を押した。
「……魔法には、確か時空魔法って言うものがあったはずなんだ。時間と空間を支配できる魔法っていうことぐらいしか知らないけど……もしかして」
ディニギルのその回答は果たして――
「……よく、わかったな」
正解も正解、大正解だ。
「俺の収納空間はまさにその時空魔法だよ」
俺が答えるとディニギルは至極当たり前の疑問で返してきた。
「だけど、そうならどうしてソラは魔法を使うことが出来るんだい? ソラは人間だよね?」
「まあ、この世界の種族に当てはめて言えばそうだな」
「だったら、あまり疲れていないのはなぜだい? たとえ魔法で火の玉を出すだけでも結構な疲労があるのに」
「確か、勇者として召喚された人には多大な魔力が身につく、という話を聞いたことがありますね。もしかして、それでしょうか?」
「いや、そうじゃない」
俺はユミアの推測を否定する。
「じゃあ、一体何なんだい?」
……まあ、確かに聞かれるとは思っていた。でも正直、この質問には答えたくない。
「あーっと、まあ、それはなぁ」
だから濁す。いろいろあるんだよこっちにも。
「別に教えてくれてもいいと思うんですが」
「そうだよ、きっと減るようなものじゃないだろう?」
こ、こいつら。俺の気持ちも知らずにグチグチ言いやがってからに。
「まあ、それはあれだ、俺の秘めたる過去ってことで」
嘘じゃない、これは本当だ。
「まさか、それって朝話してた自棄になってた頃と何か関係が?」
……なん、だと!
「ディニギル、お前エスパーか?」
俺がそういうとディニギルは納得したように頷いた。
「なるほど、秘めたる、というよりは触れられたくない過去、ってことだね」
ああはい、その通りです。
「そうですか、では気が向いた時にでも話していただければ嬉しいです」
ああユミアよ。お前はそれでも気になるのか。
「そのときは僕も誘ってくれよ」
「ディニギル、お前もか」
そういえば、ディニギルと同じように、俺も質問したいことがあったんだ。
「なあ、二人とも」
「はい、なんでしょうマスター」
二人、フランとフレイに俺は聞いた。
「お前ら、その格好は何?」
二人の格好、それは今の俺と同じく……制服姿だ。俺と同じって言っても二人が着てるのは女子が着る、黒のズボンの代わりが白のスカートの制服なのだが。朝からこの格好だったから気になって気になって仕方ないんだこれが。
「えっと、駄目かな?」
「いや、別に駄目じゃないけどなんでうちの学校の制服を知ってるんだ?」
「制服……これはマスターの通う学校の制服なのですか?」
いや知らずに着てたんかい。
「これは、マスターのその羽織っている服の内側のポケットに入っていたものをそのまま再現してみたものなのですが」
「羽織っている服の内ポケット?」
言われて俺は内ポケットを探り、そして見つける。
「この封筒は……」
ホッチキスで元々留めていたんだろう、出てきた封筒には留め金がついたまま開封した跡があった。そしてその中身を出すと――――
そこには、俺と明美の写った写真が入っていた。
ああ、うん。確かこれ、転移する前に総司から渡されてた封筒だなぁ。
「なるほどね、写真を見て女子の制服を真似た、と」
「これは確か、アケミさんですね」
実際に明美を見たことあるユミアが言った。
「ユミアちゃん知ってるの?」
「はい。アケミさんはソラと一緒に召喚された人の一人ですから。アケミさんはソラと同じ学校に通っていたんですか?」
「ああ、同級生だよ」
「じゃあ、やはりこの服はマスターの通っていた学校の制服なんですね」
俺は頷いた。
「なんかさ、同じ学校の制服を着てると思うと連帯感が増す感じがするなぁ。ソラもそんな感じしない?」
「うーん、どうだろう」
唐突なフレイの問い。俺的には、制服は二人に似合ってるし違和感はないのだけど、連帯感は……どうだろうか。
「というより、昨日フランが着ていたメイド服みたいなのと、フレイのワンピースはどこに行った?」
そして浮上する新たな疑問。
「それはあれだよ、私達の服は私達の魔力で作り出したものだから」
「さらに言ってしまえば、私達は魔力で容姿を変えることも出来ますので」
「ああ、ギルドカードの時のあれもそうか」
ギルドカードを紛失した時にフランがなぜか自分の姿を変えていたあれな。
「あの時、なんでお前は自分の姿を変えてたんだ?」
特に理由を思いつかない俺はそうフランに聞いた。
「それは……決別したかったから、でしょうか」
「決別? なにと?」
「実は私、マスターが自分自身の世界にお帰りになられてからは旅をしていたのですが……旅の途中で、思ってしまったんです。マスターと共に見た町、景色、それらを見てるとマスターとの思い出がどんどん浮かんできて……私も、一緒にマスターの故郷の世界に行っていたほうが幸せだったのではないか、と。だから、そんな思いとは決別したくて、どうにかできないかと模索していた結果があれなんです。少しでもマスターとの記憶を思い出さなくてすむように」
「は、はぁ」
もじもじしながら言うフランに、俺はそうとしか返せなかった。いや、というかそれさ、最後の方聞き取りようによっては俺の事嫌ってるみたいじゃないかな?
「ま、まあ。そんな決別が今、このような形で無駄になっているのは、嬉しい誤算ですが」
そう言うフランの顔は、少し赤い気がする。
「……お前今、一緒に俺の世界に行ったほうが幸せ、とか言ったよな?」
「は、はぃ」
なぜか尻すぼみに返事をするフラン。まあ、かまわず続ける。
「だけど、俺のいた世界とネルミスじゃあ、まったくと言っていいほど違うんだぞ? 少なくとも、お前が経験したことのない生活をするのは確実だ。そんな未確認地帯みたいなところに行ったほうが幸せって、どうして思ったんだ?」
「そ、それは……マスターがこの世界で経験したのと同じように、向こうの世界ではマスターが私に生活の仕方とか、常識を教えてくれると思いますし、それに……その……」
フランは続きを言おうとしてためらったのかまごついて――そしてこう言った。
「ま、マスターは私にとって、その……特別な、存在ですし。私は、マスターと一緒にいれればそれだけで幸せなんです、よ?」
――ん? あれ? これってなんか……告白じみてないかな? いやまあ、別に勘違いはしたりはしないけどさ? もうちょっと言い方に気をつけたほうがいいと思うな、うん。
よし、その旨を伝えよう。
「フラン、もうちょっと言い方に気をつけないと人によっては変な勘違いをするからやめなさい」
俺がそう言うとフランは一瞬きょとんとした後、他の三人を見て首をすくめた。えっと……なに?
俺が思うのもお構いなし、俺以外の四人は俺抜きで何かを話しはじめた。
「……ごめん、僕正直なめてたよ。ソラがあそこまで鈍感だとは思わなかった」
「こんなプチ公開告白されても、勘違い一つで一蹴ですよ?」
「フラン、悲しいのはわかります。泣きたい時は泣いても良いんですよ? 愚痴りたいなら愚痴ってもかまいません」
「……うぅ、マスターの超鈍感、何でいつもこうなんですか。私が思い切って好意を表してみてもこの有様ですよ。こんなことなら勢いに任せてこんな小恥ずかしいことをするんじゃなかったわあーもームカつくっ!」
「ふ、フランちゃんが壊れた……」
「よしよし、そんな思いをしているのはあなただけではありませんからね」
「ぐすっ、マスターのばかぁ……」
「うーん、ちゃんと言えばソラもわかってくれるのに、なんで皆やらないのかな?」
ディニギルが肩をすくめ、フランがなんでか泣きながら叫んで、それを優しくユミアが抱きとめて、それを見ながらフレイは呆然と、メリアは不思議そうにしていた。
俺には何を話しているかは聞き取れなかったけど、俺が言いたいことは唯一つ!
皆、歩きながら器用なことです。




