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契約結婚を終え、離婚しましたが正直(お互いに!)未練タラタラです  作者: cheeery


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2/23

第2話:婚姻届けは早い方がいい


ガンガンと響く頭痛と共に目が覚めた翌朝。

私はいつものように出社し、デスクでパソコンに向かっていた。


「……うぅ。飲みすぎた」


キーボードを叩く指が重い。


昨日バーで久我山に会って、酒が進んでしまって愚痴をこぼして……。

あー昨日の記憶は忘れたい……。


久しぶりに会った同級生の女があんなに落ちぶれていたなんて広められたらどうしよう。

自業自得なんだけど、とことこんついてない……。


あれ、ちょっと待てよ。

なんか大事なことを久我山と話した気がする……。


なんだったっけ?

確か……。


『俺と結婚するか?』


そうだ!結婚しようって言われたんだった!


結婚しようってなによ。

それこそ夢見すぎじゃない?


向こうもお酒が入っていたし、今頃言ったことを後悔しているだろう。

あれはきっと、たちの悪い冗談だ。


「お疲れ様です、社長!」


フロアの入り口から元気な挨拶が聞こえ、場の空気が一瞬にして引き締まる。

社長という言葉が聞こえてビクリと肩が跳ねた。


視線の先には、秘書や取り巻きを引き連れて歩いてくる久我山の姿があった。


完璧にセットされた髪。

隙のないスーツ姿。

まるで昨日のラフな話し方はウソだったかのように遠い存在の彼。


高級な革靴の音が近づく。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


私の真横を通り過ぎ、そして私に目線一つ送ることなく遠ざかっていく。

そのまま奥の役員エリアへと消えていった。


だよね。

うんうん。


昨日のあれは……夢!

夢ってことにしよう。


そうだよね。

結婚なんて人生の一大事、そんなノリで決まるわけがない。


私は自分に言い聞かせ、スッキリした気持ちで仕事に戻った。


いつも通り仕事をこなし、昼休みの時間。

ふぅ……そろそろお昼食べよう。


そう思った時、フロアの空気が再び波立った気がした。


背後から、コツ、コツ、コツ……と足音が近づいてくる。

振り返ると、私のデスクに大きな影が落ちた。


「佐伯」


頭上から降ってきたのは、低くよく通る声。


「しゃ、社長……!?ど、どうなさいましたか」


私の裏返った声に、フロア中の視線が突き刺ささった。


当然だ。

社長がわざわざヒラ社員の私のデスクまで出向いてくることなんてめったいにないのだから。


「少し話がある。社長室に」

「えっ……」


彼はそれだけ言うと、私の返事も待たずに踵を返した。


ええっ……要件はなに!?

私もしかしてなにかした!?


重大なことが見つかってクビとか!?


付き合ってた彼氏も失って仕事も失うのは災難すぎる……!


周囲の社員たちが「なにごと?」「えっ、問題おこしたとか?」とひそひそ話すのが聞こえる。

けれど、今の私には聞いている余裕なんてない。


(お願い……クビにはしないで……)


彼の背中を追いかけ社長室に入る。


「あ、あの……ご用件は?」


「ご用件はなんて冷たいものいいだな。要件はひとつに決まっているだろ」

「えっ」


私が声をもらすと久我山は引き出しから一枚の紙を取り出し、テーブルの上に滑らせた。


そこには【婚姻届】と書かれている。

それを見た瞬間、私は固まった。


「もらってきたぞ」

「へっ!?」


しかもご丁寧に、夫の欄にはすでに『久我山蓮』と達筆な文字で署名されている。


「あ、あの……社長?」

「今は蓮として話をしてる」


いや、知らないし……!


「これは一体……」

「お前、昨日のやりとり忘れたのか?」


久我山が呆れ顔でそう伝える。


「いや、覚えてるけど、まさか本当だとは思わず……」


「冗談だと思われてたなら心外だな」


いやだって……内容が内容だから……。


「久我山は本当に結婚相手が私でいいの?」

「なにも問題はない」


ハッキリとそう言い切る久我山。

なんか……久我山がいいって言ってるなら、私の意思とかはどうでもいい気がしてきた。


「ほら、書け」


私はペンを渡されるとその場で自分の名前を書いた。


「仕事早すぎ……」

「なにごとも決めたら早い方がいい」


私は観念したようにすべての欄を書ききった。


「……本当に、知らないからね」

「安心しろ。後悔はさせない」


そっちのことじゃないんだけど……。


こうして私たちは契約書にサインし婚姻届を出すことになってしまった。


後日、時間を合わせて区役所に婚姻届を提出すると、私は晴れて久我山紬となった。

(拍子抜けするほど呆気なかったな……結婚ってこんな感じなんだ)


「これから俺の両親への挨拶とかでしばらくは迷惑かけることになると思う」

「それは全然構わないけど……」


私の両親にも挨拶しに行くんだよね。

いい感じの人がいるって説明はしてたけど、それは元カレだし……突然久我山のこと連れて行ったら驚くだろうな。


「じゃあとりあえず俺のマンションに向かうか」

「うん」


今日はそのまま久我山の家に行くことになっている。


2人の新居を探してもいいと久我山は言ってくれたんだけど、さすがに利害が一致しただけの関係でそこまでしてもらうのは気が引けた。


だから久我山が今住んでいる家で一緒に暮らす予定になっている。


「……着いたぞ」


久我山の運転する車が滑り込んだのは、都心の一等地にそびえ立つタワーマンションの地下駐車場だった。


「えっ、ここ?」

「そうだが……」


私はゴクリと喉を鳴らし、助手席のドアを開けた。


久我山が荷物を持ってくれる。

そしてそのまま私たちはエレベーターに乗り込んだ。


なんかめちゃくちゃすごそうな家なんですけど……。


エレベーターは最上階に止まった。

扉が開くと、短い廊下の先にドアが見えてくる。


久我山が慣れた手つきでロックを解除し、中へと促した。


「どうぞ」

「お、お邪魔します……」


中に入ると、白を基調とした清潔感のある玄関が広がっていた。

靴を脱いで、彼について廊下を歩く。

リビングのドアが開いた瞬間、視界が開けた。


「うわ……すごい」


正面の大きな窓からは、東京の夜景が一望できた。


「なんかすごすぎるんですけど……」

「そうか?」


部屋自体も二人で暮らしには十分すぎるほど広く、天井も高い。

置いてある家具もシンプルだけど、どれも高そうなものばかりだった。


「久我山、ここ一人で住んでたの?」

「ああ。まあ寝に帰るだけだったがな」


久我山は私のバッグをソファの脇に置くと、ジャケットを脱いだ。


いや、そりゃ社長だしそうなんだけど……私、すごい人と結婚しちゃったんじゃない?

キッチンへ行き、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して戻ってくる。


「少し休むといい」

「あ、うん……ありがと」


促されるまま、革張りのソファに腰を下ろす。

座り心地が良すぎて、逆に少し落ち着かない。

久我山は向かいのソファに座り、水を一口飲んでから私を見た。


「もし足りないものがあったら、このカードを使って買ってくれ。なんでも買ってもらって構わない」


いや、足りないものとかないんですけど……むしろありすぎるというか……満たされすぎてるというか……。


「それと、これからのことを相談しておくか」

「うん」


「部屋はいくつか空いてるから、好きに使っていい。あとは、引っ越しのことだが……ゆっくり準備してこっちにくればいい」


まだ荷物とかが私が一人暮らししている部屋にある。


「会社はここから通うか?」

「うん、そっちの方が近いから……」


「OK」


会社が近いのは久我山の家だ。

でも家に帰ると久我山がいるんだよね……。


いきなり同棲ってきっとお互いに疲れると思うし、時々家に戻るのもありかな。

なんにせよ私たちはただの同級生ってだけだからね……。


「それで寝室はどうする?」

「えっ」


唐突な問いに私は固まった。


そっか……別のつもりでいたけど、夫婦になったのに別で寝るのは一般的にはおかしいか。

でも私たちは一般的な夫婦じゃないし……。


なんてぐるぐる頭の中で考えていると。


「くくっ……」


久我山の笑う声が聞こえてきた。


「な、なに?」

「いや、お前って昔から考えてること顔に出るよな」


「えっ」

「大方普通の夫婦は一緒に寝るけど、俺らは普通ではないしな、とか考えてただろ」


えっ!まんまそれなんですけど!!


「こわ……」


「いや、お前が分かりやすすぎだろ。まぁ……初日から無理させたくないし、今日は一旦別で寝るか」


今日は一旦ってことは、日が経ったら一緒に?

なんか意外……久我山の方が寝室は完全に別にしてくれっていいそうなのに。


「寂しくなったら俺の部屋に来てもいいんだぞ?」

「そんなこと絶対しないから!!!」


それからは、この契約結婚が終わるタイミングの話をした。


久我山は親戚周りに結婚が浸透し、少し時間が経ってから。

私の方は自分の気持ちがすっきりしたらということで、だいたい1年間という時間を決めることにした。


1年間だけの契約結婚。

もっと殺伐とするかな?なんて思ったけど、全然今楽しんじゃってる。


久我山といれば卓也のことを考えなくても済むし……。

今の私にはちょうどいいのかもしれない。


「明日は出社だからもう休もう」

「うん、そうだね」


色々と今後のことを話しながら寝る準備を進めた。

今日は久我山の家に泊まり、ここから出社する予定だ。


「おやすみ」

「おやすみ」


彼は自分の部屋へと消えていく。

私も彼にあてがわれた部屋に入りベッドに倒れ込んだ。


ふかふかの高級マットレス。

なんだか本当にずっと夢を見てるみたい。


ああ、ついに始まったんだ。

私と久我山が結婚なんて高校時代の頃は考えもしなかったな……。




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