第19話:心に空いた穴【蓮side】
そろそろ言わなければいけないことは分かっていた。
彼女が不安に思っていた元カレも消え、その相手も会社を退社となった今、俺と彼女が結婚生活を続ける理由がない。
それでも、言い出せなかったのは俺の勝手なエゴだ。
ある日の仕事帰り、リビングに入ると彼女が待っていた。
テーブルの上に置かれた紙きれ一枚。
離婚届と書かれたそれ。
見た瞬間に諦めがついた。
まあそうなるよな……。
彼女は新しい一歩を踏み出したがっている。
だったら俺は手放さなきゃいけない。
もともと自分から提案してスタートしたことだ。
終わりを告げるのだって潔くこちらから告げるべきだったのだ。
こうして俺はその離婚届にサインを書くことにした。
離婚届けは俺が提出すると伝えて、この日は終わった。
それからはなかなか時間が作れなくなり、紬との生活もほとんど一緒にいることはできなかった。
これでよかったのかもしれない。
もし一緒に過ごす時間があったら、俺は彼女のことを引き留めてしまうと思うから。
彼女の背中を送り出す。
それが俺にできる一番のことだ。
『元気でな……』
こうして彼女は去っていった。
もう一生会えないわけじゃない。
でもそのくらいの別れに感じた。
彼女を送り、家に帰ってくるとそこは静まり返っていた。
もう彼女が「おかえり」と出迎えてくれることはない。
疲れている時に「どうしたの?」と問いかけてくれる人はいない。
彼女の笑顔を見ていると、いつも元気になれた。
細かいことは気にせず、明るくて笑い飛ばしてくれて……決まり切った生活を送る自分の中に唯一入ってきた明るさだったと思う。
「はは……」
こんなにむなしいのか……。
まさかこんな感情になるなんて思いもしなかった。
失恋っていうのは、こういう感情だろうか。
今までしたことがないから分からない。
心にぽっかり穴が開いて、どうしようもない虚しさを感じる。
あの時声をかけたのは間違いだったかもしれない。
普通の同級生でいればよかったのだ。
それを……。
『それなら結婚するか?』
そんなことを提案してしまったがために、俺は……。
紬の顔が頭から消えなくなっている。
「バカ、だな……」




