第75話 設計図にない船
ヴァンガードの詳細検査が始まってから三日後、ノード・セブンの中古艦販売区画では、ダリオが機関室の床下に潜り込んでいた。
周囲には取り外された点検パネルが並び、細い配線束が露出している。作業用端末には推進制御装置の記録が表示され、一定の間隔で試験結果が更新されていた。
「……やっぱり、ここか」
ダリオが呟くと、近くにいたジェイドが顔を上げた。
「原因が分かったのか?」
「まだ断定はできねえが、かなり絞れた。この艦、昔の改修で推進制御系統を増設してるんだが、そのときの通信変換装置が怪しい」
ダリオは配線束の奥にある小さな装置を指差した。外装には製造会社の刻印が残っているが、現在はすでに生産が終了している型式だった。
「高負荷時だけ制御命令が遅れる理由は?」
「主機の出力を上げると、推進器への制御命令が増える。ところが、この変換装置は同時に処理できる情報量が少ない。普段は問題なくても、急加速時には処理待ちが発生するらしい」
ジェイドは端末を覗き込んだ。
「つまり、主機の故障ではない可能性が高い?」
「ああ。ただし、こいつを交換して本当に直るかは試験しないと分からん」
そのとき、通信端末からミラの声が響いた。
『ダリオ、送ってもらった記録を確認したわ。変換装置の処理遅延と、出力制限が発生するタイミングが一致している』
「だろうな。代替品の候補はあるか?」
『現行規格の装置ならいくつか。ただ、既存の制御ソフトと接続するには調整が必要ね』
「そっちは任せていいか?」
『もちろん。でも、交換後は必ず実負荷試験をして。机上の確認だけで航行制限を解除するのは危険よ』
「分かってる。俺も同じ考えだ」
ダリオは配線図を閉じ、ゆっくりと床下から這い出した。長時間同じ姿勢で作業していたせいか、腰を軽く伸ばしている。
「……しかし、よく今までこのまま使ってたな」
「以前はそれほど高い機動性能を要求されなかったんだろう」
ジェイドが答えた。
「民間警備会社の護衛任務なら、輸送船と速度を合わせて航行する時間が長い。問題が表面化したのは、運用条件が変わってからかもしれないな」
「それにしても、修理せず売りに出すとはな」
「修理費が読めなければ、売却を選ぶ会社もあるだろう」
ダリオは頷いた。中古艦の価値は、船体の状態だけで決まるものではない。整備記録が揃っているか、交換部品を入手できるか、今後も継続して運用できるか。それらが分からなければ、購入価格が安くても意味はなかった。
「とりあえず、ユウには連絡しておくか」
ダリオは端末を開いた。
*
HM-417の会議室では、ユウ、セラ、ハンナがヴァンガードの購入条件を確認していた。
正面画面には艦の立体図と、ダリオから送られてきた中間報告が表示されている。
「……つまり、直せる可能性は結構高いってこと?」
ユウが尋ねると、セラが頷いた。
「現時点ではな。ただし、原因が分かったことと修理が終わったことは別だ。購入を決めるのは、交換試験の結果を確認してからにしたい」
「うん。それでいいと思う」
ハンナが資料を切り替えた。
「販売価格は四十二万Crですが、リーネさんの交渉によって、推進系統の不具合と撤去済み兵装を考慮した再見積もりが提示されています」
画面に新しい金額が表示された。
《ヴァンガード購入条件案》
《船体価格:360,000Cr》
《推進制御系統修理:買主負担》
《撤去済み迎撃砲座:現状渡し》
《購入前検査:実施可》
《売買契約成立前の引き渡し:不可》
「……三十六万!」
ユウは思わず声を上げた。
「六万Crも下がったの!?」
「はい。ただし、修理費と不足している装備の追加費用を考えれば、必ずしも割安とは言えません」
ハンナは淡々と説明した。
「また、購入後の乗員確保と維持費も必要です。アーデントの分割払いも継続していますので、十分な予備資金を残す必要があります」
「……分かってる」
ユウは少し考えた。
「でも、この船が加われば、アーデントだけに負担をかけずに済むよね」
セラが頷いた。
「護衛任務では役割分担がしやすくなる。ヴァンガードを護衛対象の近くに配置し、アーデントを外側の迎撃に回す運用も考えられる。ただし、艦長を含む乗員の確保が前提だ」
ユウは資料を見つめた。
「……じゃあ、船の購入と一緒に人材募集も進めようか」
「その方がいい。船だけ先に買って、係留したままでは意味がないからな」
ハンナが端末に新しい項目を追加した。
《護衛艦購入計画》
《艦艇検査:継続》
《購入判断:保留》
《艦長候補・基幹乗員の募集:準備開始》
ユウは少しだけ笑った。
「……ちゃんと計画して買うって、こんなに大変なんだね」
「今までが早すぎたんだ」
セラの即答に、ハンナも静かに頷いた。
*
その日の午後、HM-417に一隻の小型旅客艇が到着した。
搭乗していたのは、リアの元指導者であるエリアス・ベルクマンだった。到着前には秘密保持契約と調査範囲に関する合意が完了しており、施設への入退場には専用の一時認証が発行されている。
ユウとセラが到着区画で待っていると、旅客艇の扉が開いた。
最初に姿を現したのは、灰色の髪に細い眼鏡をかけた男性だった。片手には小型の荷物を持ち、もう片方には分厚い資料端末を抱えている。
「……ここが例の施設か」
エリアスは周囲を見渡した。
HM-417の大型整備区画には、作業用ドローンや搬送設備が並び、その奥にはアストライアの船体が見えていた。
「エリアス先生、ようこそ」
ユウが声をかけると、エリアスは軽く頷いた。
「君がユウ君だったな。直接会うのは初めてだ」
「はい。遠いところ、ありがとうございます」
「礼はまだ早い。私は研究計画の可否を確認しに来ただけだ」
エリアスはそう言いながら、奥に停泊するアストライアへ目を向けた。
「……あれが古代航路艦か」
「そうです。アストライアっていいます」
「全長百メートルにも満たない船体に、古代航路への接続機能があるという話だったな」
エリアスはしばらく船体を見つめた。
「……興味深い」
その声には、通信面談のときにはなかった熱が含まれていた。
そこへリアが駆け寄ってきた。
「先生!」
「リア。そんなに急がなくても聞こえている」
「だって、早く見せたいんです! 地下の船、想像以上にすごいんですよ!」
「だからまず資料を見せろと言ったんだ。現物を見れば何でも分かるわけではないぞ」
「分かってますって!」
ユウは二人のやり取りを見て笑った。
「……なんか、昔からこんな感じだったんだろうな」
「そうだろうな」
セラも小さく笑った。
エリアスはリアへ視線を戻した。
「ところで、施設の管理者はどこにいる? 調査の立ち入り範囲と設備使用条件を確認したい」
「ガルムに説明してもらいます」
ユウが端末を操作すると、施設管理用の表示が起動した。
『来訪者一名を確認。事前登録情報との照合を開始します』
ガルムの声が響いた。
『認証完了。エリアス・ベルクマン氏の一時立ち入り権限を確認しました。許可範囲は調査区画および指定された施設内通路に限定されています』
「……ほう。自律型の施設管理AIか」
エリアスが興味を示した。
『当施設の管理および防衛機能を担当しています。調査対象への移動に際しては、指定経路を使用してください』
「了解した。危険区域には勝手に立ち入らんよ」
エリアスは素直に頷いた。ユウはその様子を見て、少し安心した。
研究者だからといって、何でも自由に調べようとする人物ではないようだった。
*
YD-09の地下格納庫へ到着したエリアスは、隔壁の前で足を止めた。
巨大な扉の向こうには、未完成の大型古代艦が眠っている。すでにユウたちが一度入った場所ではあるが、今回も安全確認を終えてから開放することになっていた。
『隔壁前方の気密状態を確認しました。内部の空気環境は保証できません。気密服の装着を確認してください』
ガルムの指示に従い、全員が装備を確認した。
やがて巨大な隔壁が開き、薄暗い地下空間が姿を現す。
エリアスは一歩踏み出し、そのまま動きを止めた。
「…………」
目の前には、全長六百メートルを超える巨大な船体が横たわっていた。艦首から中央部へ向かって広がる骨格、未装着の外殻装甲、巨大な支持架台。照明に照らされた部分だけでも、その規模が普通の艦艇とは比較にならないことが分かる。
リアが嬉しそうに顔を覗き込んだ。
「どうですか、先生!」
「……少し黙っていろ」
エリアスは船体から目を離さずに答えた。
普段なら反論するリアも、その真剣な表情を見て口を閉じた。
エリアスはゆっくりと歩き始めた。船体を支える架台の構造、外殻の接合部分、露出した骨格の配置を順番に確認していく。
「……これは、単なる大型艦ではないな」
しばらくして、エリアスが呟いた。
ユウが顔を上げる。
「……どういうことですか?」
エリアスは船体中央部の構造を指差した。
「この骨格を見たまえ。主要な船体構造の外側に、別の支持構造が設けられている。普通なら装甲や補助設備を固定するためのものだが、この船は規模が違う」
リアが頷いた。
「私も気になってたんです。交換可能な区画が多すぎるんですよ」
「そうだ。これほど大きな船体で、主要構造の一部を独立した単位に分けるのは、普通なら効率が悪い。重量も増えるし、接合部の強度確保も難しくなる」
エリアスは端末を操作し、船体の一部を拡大した。
「だが、もし最初から複数の仕様を想定していたなら、話は変わる」
ユウは少し考えた。
「……つまり、同じ船体を使って、いろんな種類の船を造れるってこと?」
「その可能性がある。大型輸送艦にも、艦載機を運用する母艦にも、武装を強化した戦闘艦にもできる。もちろん、実際にどこまで対応できるかは分からんが」
ユウの目が輝いた。
「……めちゃくちゃいいじゃないですか!」
「気が早い。構造上の特徴から推測しているだけだ」
エリアスはそう言いながら、少しだけ笑った。
「だが、面白い設計であることは間違いない」
リアも嬉しそうに頷いた。
「ですよね! 先生なら分かってくれると思ってました!」
ユウは目の前の巨大な船体を見つめた。
もし本当に複数の用途に対応できる構造なら、自分たちの艦隊に必要な機能を選んで組み込めるかもしれない。
大型艦としての火力だけでなく、防御設備や医療区画、整備施設、艦載機の運用能力まで備えた、艦隊の中心となる船。
ユウの頭の中には、少しずつ完成した姿が浮かび始めていた。
*
調査開始から二時間後、エリアスは船体中央の支持架台を詳しく確認していた。
ガルムの作業ロボットが取得した内部観測データと、現地で測定した構造材の情報を照合している。リアは隣で解析結果を確認し、必要な情報を次々と表示していた。
「先生、ここの接合部なんですけど……」
「……待て」
エリアスが突然、リアの説明を遮った。
「どうしました?」
彼は端末を拡大した。
画面には、船体中央部の立体構造が表示されている。
「……妙だな」
エリアスは別の資料を呼び出し、船体全体の重量推定値と比較した。
「リア。この船の主要構造材、総重量はどのくらいと推定している?」
「現時点では約二百八十万トンです。ただし、未装着の外装や未搭載設備は含んでいません」
「……やはりな」
エリアスはしばらく考え込んだ。
ユウが尋ねた。
「何か問題ですか?」
エリアスは画面を指差した。
「この艦の船体骨格は、大型艦として見ても非常に強固だ。だが、強固であることと、航行時の負荷に耐えられることは別だ」
彼は船体中央部の接合構造を拡大した。
「ここにある大型の接合部を見たまえ。外装や設備を後から取り付けられる構造になっているが、主要な荷重を受け持つ部分の一部が、まだ完成していない」
リアが画面を覗き込んだ。
「……確かに、ここは途中で止まってる。でも、建造途中なら普通じゃないですか?」
「それだけなら問題ない。しかし、こちらを見ろ」
エリアスは別の区画を表示した。
船体の中央から艦尾へ向かって、複数の大型構造材が連続している。その途中に、明らかに不自然な空白が存在していた。
「……あれ?」
リアが首を傾げる。
「ここ、構造材がない……?」
「そうだ。しかも、取り付け途中で止まったようには見えん。周囲の固定部分が、最初から別の構造を想定している」
ユウは画面を見つめた。
「……どういうこと?」
エリアスは少し考えてから答えた。
「この艦には、まだ見つかっていない重要な構造物がある可能性が高い」
セラが顔を上げた。
「別の区画に保管されているということか?」
「その可能性もある。だが、もし見つからなければ……」
エリアスは言葉を切った。
「……この艦は、現在の状態では完成させられん」
ユウは思わず目を見開いた。
「……え?」
リアも驚いたように顔を上げる。
「先生、それって……」
「推測の段階だが、船体中央部の荷重を受け持つ主要構造が不足している。これを補わずに主機を搭載し、加速させれば、船体が損傷する可能性が高い」
エリアスは立体図を閉じた。
「つまり、この艦を完成させるには、失われた構造物を探すか、代わりになるものを新しく設計する必要がある」
ユウは巨大な船体を見上げた。
目の前にあるのは、完成まであと少しの船ではなかった。
まだ、本当に重要なものが欠けている船だった。
*
その日の夕方、仮設の調査室で緊急の検討会が開かれた。
エリアス、リア、ユウ、セラに加え、ダリオも遠隔で参加していた。正面画面には、船体中央部の構造図が表示されている。
「……なるほどな」
ダリオは資料を確認しながら呟いた。
「こりゃ簡単にはいかねえな。主要構造材が欠けてるなら、そこを適当に埋めるわけにはいかねえ」
「そういうことだ」
エリアスが頷いた。
「しかも、古代技術による特殊な接合構造を使用している可能性がある。現代の構造材で代用するなら、設計を大幅に見直す必要があるだろう」
リアは少し考えた。
「……でも、古代施設の製造設備が使えるようになれば、作れる可能性はありますよね?」
「可能性はある。ただし、設計情報が必要だ」
ユウが顔を上げた。
「……ガルム。施設の記録には残ってないの?」
端末にガルムの表示が現れた。
『要求を受理。YD-09の製造記録を再検索します』
しばらくして、結果が表示された。
『該当する構造材の製造記録は確認できませんでした。ただし、未復旧の記録領域が存在します』
「……その中にあるかもしれないってこと?」
『可能性はあります。しかし、現在の設備では記録領域へアクセスできません』
ユウは少し考えた。
「……じゃあ、まずは記録を復旧させるところからか」
エリアスが頷いた。
「そうだな。だが、それだけではない。現代技術による代替設計も同時に検討しておきたい」
セラが口を開いた。
「その件なら、元同僚に相談できる。大型艦の防御構造や運用設計に詳しい人物だ」
「ぜひ頼みたい」
エリアスは即答した。
「私は古代技術の統合に関する研究はできるが、現代艦としての設計経験は限られている。専門家の協力が必要だ」
ユウは二人の話を聞きながら、少しだけ笑った。
「……なんか、本当に研究チームができそうだね」
リアも頷いた。
「うん。でも、先生が来てくれてよかった。私たちだけだったら、ここまで気づけなかったと思う」
エリアスはリアを見た。
「それは当然だ。技術者一人で、すべてを理解できるわけではない」
「……はい」
リアは素直に頷いた。
ユウはその様子を見て、少し嬉しくなった。
これまでリアは古代技術に関して頼れる存在だったが、彼女自身もまだ学ぶことがある。新しい研究者が加われば、艦隊全体の技術力も高まっていくだろう。
*
会議を終えたあと、ユウはエリアスと二人で地下格納庫を歩いていた。
巨大な船体を見上げながら、エリアスが口を開いた。
「……ユウ君」
「はい?」
「一つ聞いてもいいか?」
「もちろんです」
エリアスはしばらく船体を見つめていた。
「君は、なぜここまでして、この船を完成させたいんだ?」
ユウは少し考えた。
「……最初は、単純に大きな船が好きだからかもしれません」
エリアスが小さく笑った。
「正直だな」
「でも、今はそれだけじゃないです」
ユウは船体を見上げた。
「仲間が増えて、船も増えて、守らなきゃいけないものが多くなりました。今の戦力でもできることはあるけど、足りないことも多いんです」
ユウは少しだけ表情を引き締めた。
「だから、いつかは仲間たちが安心して乗れる船を造りたい。敵に勝つためだけじゃなくて、ちゃんと帰ってこられる船を」
エリアスは黙って聞いていた。
「……それに、この船なら、俺たちが必要なものを一から考えて造れそうじゃないですか」
ユウは少し笑った。
「古代のままじゃなくて、今の技術も使って。リアやダリオ、ミラ、それに先生みたいな人たちの力を借りながら」
エリアスはしばらく沈黙していた。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど」
彼はもう一度、船体を見上げた。
「確かに、研究者としては魅力的な計画だ。私が長年考えてきたことにも近い」
ユウが顔を向ける。
「……じゃあ」
エリアスは軽く手を上げた。
「ただし、条件がある」
ユウは少しだけ苦笑した。
「……ですよね」
エリアスは真剣な表情で続けた。
「私が研究責任者として参加するなら、無理な工程は認めん。安全性が確認できない装置を実艦に組み込むことも、研究結果を無視して建造を進めることも許可しない」
「もちろんです」
「それと、必要な人材と設備には、適切な予算をつけてもらう。研究者に無茶だけ要求して、成果を急がせるようなことはしないでもらいたい」
「……それも分かりました」
エリアスはしばらくユウを見つめた。
「……よろしい」
そして、わずかに笑った。
「では、正式に話を進めよう。まずは研究計画書を作成するところからだ」
ユウの表情が明るくなった。
「……ありがとうございます!」
エリアスは頷いた。
「礼は、成果が出てからでいい」
*
その夜。
HM-417の管理室で、ガルムはYD-09の未復旧記録領域について追加調査を進めていた。
古代施設の記録装置には、長期間アクセスできなかった複数の領域が存在する。その一部は損傷しており、通常の復旧手順では読み取ることができない。
ガルムは新たに復旧した電力供給路を利用し、記録領域の一部へアクセスを試みていた。
《記録領域:YD-09/建造管理》
《アクセス状態:制限》
《復旧可能領域:一部》
解析が進むにつれ、断片的な情報が表示され始めた。
《建造計画:識別番号不明》
《主要船体構造:建造中》
《中央接合構造:未装着》
《補助構造材:保管記録あり》
ガルムは記録を照合した。
『記録内容を確認。追加の関連情報を検索します』
画面に、古い搬送記録が表示された。
《中央接合構造:搬入予定》
《搬入元:第七航路関連施設》
《搬送状態:記録欠損》
ガルムはしばらく解析を続けた。
そして、一つの記録を検出した。
《関連記録:旧第七航路》
《保管区画:識別情報破損》
《搬送対象:大型艦用中央接合構造》
《最終確認地点:不明》
その情報は、現在の第七航路中継施設の管理記録とは一致していなかった。
ガルムは解析結果をまとめ、ユウへの報告を準備した。
『重要情報を確認しました。艦長への報告を開始します』
翌朝、ユウの端末に一通の通知が届いた。
《YD-09大型艦建造計画/追加調査報告》
《不足している主要構造材について、旧第七航路関連施設から搬入される予定だった記録を確認》
ユウは報告を読み、目を見開いた。
「……え? 必要な部品、どこかにあるかもしれないの?」
アイリスが応じた。
『その可能性があります。ただし、記録が不完全なため、実際に保管されているかどうかは不明です』
「……そっか」
ユウは少し考えたあと、笑った。
「……じゃあ、探す理由ができたね」
地下に眠る未完成の大型艦。
その完成に必要な重要部品が、かつての古代航路のどこかへ運ばれていた可能性が浮上した。
失われた構造材を探すか、それとも現代技術で新たに造り直すか。
ユウたちは、まだその答えを持っていない。
だが、古代艦の建造計画は、単なる基地内の研究から、再び星々の間へと広がろうとしていた。




