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第43話 稼ぐための戦い

 外縁輸送航路へ向かうアストライアの艦橋では、ジェイドが少し困った顔で操縦席の表示を眺めていた。


「……これ、本当に民間船なのか?」

「一応、民間船だよ」

「一応?」


 ユウは副操縦席からジェイドの端末を覗き込んだ。アストライアの操縦系は、現代の艦艇とはかなり異なるらしい。ジェイドは出港してからずっと操作方法を確認していたが、特に自動姿勢制御と推進出力の配分に驚いているようだった。


「普通、この大きさの船でこれだけ細かい姿勢制御はできない。推進器の配置も変わってるし、補助制御が妙に賢い」


『ありがとうございます』


「アイリス、褒められるの好きだよね」

『正確な評価は歓迎します』


 ジェイドが笑った。


「なるほど。艦長が多少無茶しても、この子が補ってくれるわけだ」


「多少って何だよ」


「多少で済んでいるのはアイリスのおかげだな」

 セラが横から言う。


「セラまで!」


 そんなやり取りをしているうちに、目的宙域が近づいてきた。


 外縁輸送航路は、ノード・セブンから離れた小規模採掘拠点や補給施設を結ぶ物流ルートだった。主要航路ほど警備が厚くなく、定期輸送船の数も少ない。宙賊にとっては、比較的狙いやすい場所らしい。


『目的宙域まで残り十二分。広域観測を開始します』


「了解。まずは行方不明の輸送船を探そう」


 ユウが答えると、セラが星図を拡大した。


「最後の通信位置から考えると、この小惑星帯が怪しい。襲撃後に船を隠す場所としては都合がいい」


「逃走経路も複数あるな」

 ジェイドが続ける。

「ただ、輸送船を連れて移動するなら速度は出せない。まだ近くにいる可能性はある」


「よし。慎重に行こう」


『艦長、熱源を検出しました』


 アイリスの報告と同時に、星図の端に小さな反応が現れた。


『船舶と思われる熱源、四。うち一隻は推進出力が著しく低下しています』


 ユウは背筋を伸ばした。


「当たりかな?」


「確認するまでは分からん」

 セラが答える。

「ジェイド、敵だった場合の逃走経路を見ておけ」


「了解」


     *


 小惑星の陰から現れたのは、全長百二十メートルほどの輸送船だった。


 船体側面には大きな損傷があり、推進器の一部が破壊されている。周囲には武装した小型艦が三隻。さらに少し離れた位置に、別の船影が隠れていた。


『輸送船の識別情報を確認。行方不明となっていた貨物船《オルテンシア》と一致します』


「生きてたか」


 ユウが安堵しかけたところで、セラが言った。


「まだ安心するな。乗員の状況が分からない」


『生命反応の遠隔判定は困難です。船内通信も遮断されています』


 ジェイドが敵艦の配置を確認する。


「三隻は輸送船の周囲を警戒してる。奥の一隻は見張りか、それとも指揮艦か」


「四隻か。依頼の想定内だね」


「見えている分はな」

 セラが答えた。


 ユウは敵艦の情報を表示した。


 小型武装艇が二隻。中型の改造警備艦が一隻。奥にいるのは小型貨物船を武装化したような艦だった。


「どうする?」


 ユウがセラに尋ねると、彼女は首を横に振った。


「今回はジェイドにも考えてもらおう。お前ならどう攻める?」


 突然振られたジェイドは、少しだけ笑った。


「採用試験か?」


「実戦訓練だ」


「なら、まず奥の一隻を逃がしたくないな。あれが指揮艦なら情報を持ってる。手前の三隻を相手にしている間に逃げられるのは面倒だ」


「輸送船の周囲は?」


「最初に武装艇の一隻を無力化して、残りを輸送船から引き離す。敵が人質を使う可能性もあるから、輸送船を挟んで撃ち合うのは避けたい」


 セラが頷いた。


「悪くない」


「じゃあ、それでいこう」

 ユウが言った。


「決断が早いな」

 ジェイドが驚く。


「セラが悪くないって言ったし」


「自分でも判断しろ」

「してるって。俺も同じこと考えてた」


 セラは疑わしそうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。


     *


『敵艦より通信要求』


 アイリスが報告する。


「繋いで」


 通信画面に映ったのは、無精ひげを生やした中年の男だった。背後には武装した男たちが数人見える。


『こちらは独立回収業者だ。現在、事故船の救助作業中である。無関係な船は退去しろ』


「救助作業?」


『そうだ。邪魔をするな』


 ユウは画面の端に映る輸送船を見た。破壊された推進器、外部に取り付けられた拘束用の固定具。そして武装艦の配置。


「それ、救助じゃなくて拿捕じゃない?」


『何だと?』


「いや、どう見ても」


 男の表情が険しくなる。


『警告したぞ。退去しなければ敵対行為と見なす』


 通信が切れた。


「分かりやすいな」

 ジェイドが呟く。


『敵艦三隻、兵装起動を確認』


「向こうからやる気満々だね」


 ユウは操縦桿を握った。


「アイリス、戦闘準備。セラ、ジェイド、援護よろしく」


「了解」

「任せろ」


『戦闘システム起動。通常兵装のみ使用します』


「それで十分!」


 アストライアが加速した。


     *


 最初に動いたのは小型武装艇二隻だった。


 輸送船の左右から離れ、アストライアを挟み込むように接近してくる。前方の一隻がレーザーを発射し、もう一隻が側面へ回り込んだ。


『敵レーザー照射』


「回避!」


 ユウが機体を傾ける。レーザーがシールド表面をかすめ、光の帯を残して消えた。


「右の艇、推進器を狙えるか?」

 ジェイドが尋ねる。


「いける。アイリス、右舷側の敵を優先!」


『了解。射撃解を算出』


 アストライアの機首がわずかに動き、連続した光弾が敵艇のシールドを削る。二射目で防御が崩れ、三射目が後部推進器を直撃した。


『敵艇一、主推進停止』


「よし、一隻!」


 しかし、残る一隻が急旋回してアストライアの後方へ回り込んだ。


「艦長、左下に落とせ!」

 ジェイドが声を上げる。


「了解!」


 ユウが反射的に操縦桿を倒す。直後、敵艇の砲撃が先ほどまでアストライアのいた空間を通過した。


「今の、よく分かったね」


「こっちに回り込む前から姿勢を変えてた。あの角度なら撃つ場所は限られる」


「なるほど」


「感心してる場合じゃないぞ」

 セラが言った。

「次が来る!」


 中型警備艦が前進し、艦首の連装砲をこちらへ向けていた。


『高出力兵装の充填を検出』


「まずい?」


「輸送船から離れた。今なら兵装を潰せる」

 セラが答える。


「了解!」


 ユウは小型艇を追うのをやめ、中型艦へ向けて加速した。


『敵主砲、発射まで三秒』


「アイリス、右舷側に回り込む!」


『了解。姿勢制御を補助します』


 アストライアが大きく弧を描き、中型艦の正面から外れた。直後、主砲が発射され、白い光が背後の小惑星を砕く。


「うわ、あれ当たったら痛いやつ!」


「だから避けたんだろう!」

 セラが返す。


 側面に回ったアストライアが連続射撃を浴びせる。シールドを削り切ったところで、ジェイドが声を上げた。


「主砲の基部だ。あそこを撃てば旋回できなくなる!」


「了解!」


 照準を修正し、短い連射を叩き込む。


 中型艦の主砲基部から火花が散り、砲身が不自然な角度で停止した。


『敵中型艦、主兵装機能停止』


「よし!」


 そこへ、先ほど逃した小型艇が再び接近してきた。


『後方より攻撃』


「しつこいな!」


 ユウは推進器を吹かして機体を反転させた。敵艇が予想外の動きに対応できず、アストライアの正面へ飛び込んでくる。


「悪いけど、止まってもらう!」


 短い射撃でシールドを剥がし、推進器を撃ち抜く。


『敵艇二、航行不能』


 残る中型艦も、主砲を失った状態で戦闘継続を断念したらしい。


『敵中型艦より降伏信号』


「受け入れる。武装停止を確認して」


『了解』


 ユウは小さく息を吐いた。


「三隻、制圧」


「まだ一隻いるぞ」

 セラが言った。


 その言葉と同時に、ジェイドが声を上げた。


「奥の船が動く!」


     *


 小惑星の陰にいた武装貨物船が、輸送船オルテンシアへ接近していた。


 船体から伸びた接続アームが、オルテンシアの外部ハッチへ固定される。


『敵船より通信』


 アイリスが報告した。


「繋いで」


『動くな!』


 先ほどとは別の男の声だった。


『この船には輸送船の乗員がいる! 追ってくれば全員殺す!』


 ユウの表情が消えた。


「……乗員を移してるのか?」


『そうだ。こちらには人質がいる。お前らが何をしたか分かってるのか!』


 セラが小声で言った。


「ユウ、落ち着け。人質の位置が分からない」


「分かってる」


 ジェイドが敵船の動きを確認する。


「接続アームはまだ外れてない。すぐには逃げられないはずだ」


「でも、強引に切り離せば?」


「逃走できる。ただし輸送船側のハッチを壊す可能性がある」


 ユウは星図を見つめた。


 敵船の推進器はまだ動いている。だが、輸送船と接続した状態では大きく機動できない。人質を盾にして逃げるつもりなのだろう。


「アイリス、あの船の武装は?」


『艦首に小型レーザー二門。船体側面に近接防御砲二基。いずれも旧式です』


「人質の位置は?」

『不明です』


 ユウは少し考えたあと、ジェイドを見た。


「どうする?」


 ジェイドは敵船をじっと見つめていた。


「……俺なら、まず逃走できない状況を作る。ただ、今の位置から推進器を撃つのは危険だ。輸送船に近すぎる」


「だよね」


「でも、相手はまだアストライアの正面しか見てない」


「……なるほど」


 ユウは少し笑った。


「じゃあ、見えないところに行こう」


     *


『敵船、接続アーム切り離し準備』


 アイリスの報告を受け、ユウはアストライアを小惑星の陰へ移動させた。


 敵からは一時的にこちらが見えなくなる。


『逃げたか! そのまま近づくなよ!』


 敵船から通信が飛んでくる。


「逃げてないんだけどね」


 ユウは小惑星の表面に沿って加速した。


 アストライアの小回りは、百メートル近い船体からは想像できないほど鋭い。複雑な推進制御をアイリスが補助し、ユウの操縦に合わせて姿勢を変えていく。


「艦長、あと少し右だ」

 ジェイドが指示する。


「了解」


「セラ、敵の反応は?」


「まだこちらを見失っている。だが、そろそろ気づくぞ」


 小惑星の陰を抜けた瞬間、アストライアは敵船の後方斜め下に現れた。


『射線確保。敵船主推進器を捕捉』


「撃て!」


 短い連射が敵船の後部シールドを削り、続く射撃が主推進器の外装を破壊した。


『敵船主推進停止。補助推進は稼働中』


「もう一回!」


 追加射撃で補助推進器の一基を停止させたところで、敵船が激しく姿勢を崩した。


『敵船、航行能力を喪失』


 ユウはすぐに射撃を止めた。


「よし。次は人質だ」


「待て」

 セラが制止する。

「まだ武装した宙賊が船内にいる。こちらから乗り込めば危険だ」


 ジェイドも頷く。


「まずは降伏勧告だな。逃げられないと分かれば、態度を変えるかもしれない」


「……そうだね」


 ユウは通信を開いた。


「こちらアストライア。そちらの推進器は停止させた。これ以上の攻撃はしないから、武器を捨てて降伏してほしい」


『ふざけるな! 人質がいるんだぞ!』


「分かってる。だから船体を破壊してない」


 相手が黙る。


「乗員を解放してくれれば、降伏を受け入れる。これ以上、誰も傷つける必要はない」


 数秒の沈黙。


 やがて、男が吐き捨てるように言った。


『……分かった。武装を解除する』


 ユウは安堵しかけた。


 その瞬間だった。


『警告。敵船内で急激な電力変動を検出』


「何?」


『貨物区画に高出力反応。爆発物の起動が疑われます』


 セラが立ち上がった。


「自爆か!」


 ジェイドがすぐに叫ぶ。


「艦長、輸送船との接続アームを見ろ!」


 画面には、まだオルテンシアと繋がったままの接続アームが映っていた。


「……巻き込むつもりか!」


 ユウは操縦桿を握り直した。


「アイリス、接続アームだけ切断できる?」


『可能です。ただし、切断後も敵船と輸送船の距離が近すぎます』


「じゃあ切ったあと、敵船を押し離す!」


「待て、どうやって?」

 セラが聞く。


「アストライアで!」


「おい!」


『艦長、衝突時の損傷が予測されます』


「分かってる。でも輸送船ごと爆発させるわけにはいかないだろ!」


 ユウはアストライアを加速させた。


     *


 アストライアの精密射撃が接続アームの基部を撃ち抜いた。


 金属の破片が飛び散り、二隻を繋いでいた構造物が崩れる。


『接続解除を確認』


「よし!」


 ユウは敵船の側面へ回り込み、推進器を絞りながら接近した。


「艦長、船体中央の貨物区画は避けろ! あそこに爆発物がある!」


 ジェイドの指示に従い、アストライアは敵船の後部外装へ機首を寄せた。


『接触まで三秒』


「シールド出力を前方へ!」


『了解。局所防御強化』


 鈍い衝撃が艦橋を揺らした。


「うおっ!」


 アストライアが敵船の後部へ接触し、そのまま推進器を吹かす。二隻の船体が軋み、敵船がゆっくりと輸送船から離れ始めた。


『接触部に損傷。前部外装パネル一部変形』


「修理代!」


「今それを言うか!」

 セラが怒鳴る。


「いや、気になるだろ!」


 ジェイドが姿勢制御を補助しながら叫ぶ。


「あと少しだ! 距離が取れたらすぐ離脱しろ!」


『敵船内反応、急上昇』


「アイリス、離脱!」


 アストライアが横方向へ加速した。


 直後、敵船の貨物区画が爆発した。


 白い閃光が船体を貫き、装甲板と貨物コンテナが四方へ飛び散る。アストライアのシールドが破片を弾き、衝撃で艦が大きく揺れた。


『爆発を確認。アストライアのシールド正常。輸送船への直接被害なし』


「……よし」


 ユウは大きく息を吐いた。


 敵船は中央部を失い、残骸となって漂っている。


 だが、まだ終わりではなかった。


「アイリス、生存者は?」


『輸送船オルテンシアに生命反応を確認。敵船残骸にも複数の反応があります』


「救助できる?」


『残骸の一部区画は気密を維持しています。救助可能性あり』


「なら、両方助けよう」


 セラが頷いた。


「ジェイド、無力化した三隻の監視を頼む。ユウ、救助用の作業艇を準備しろ」


「了解!」


 アストライアは戦闘態勢を維持しながら、救助活動へ移行した。


     *


 救助作業は三時間に及んだ。


 オルテンシアの乗員は十二名。そのうち十名が船内に残され、二名が宙賊船へ連行されていた。幸い、連行された二名も爆発を免れた後部区画で発見され、全員の生存が確認された。


 敵船の残骸からは宙賊五名も救助された。負傷者はいたが、いずれも生命に別状はない。


 ユウは救助された輸送船の船長と通信を繋いだ。


『本当に助かった。もう駄目かと思っていたよ』


「全員無事でよかったです」


『あの連中、積荷だけじゃなく船まで奪うつもりだったらしい。抵抗した機関士が撃たれて……』


 船長はそこで言葉を詰まらせた。


「機関士さんは?」


『治療を受けている。命は助かった』


「それならよかった」


 ユウは少しだけ笑った。


『礼を言わせてくれ。君たちが来なければ、どうなっていたか』


「仕事ですから」


 通信を終えると、セラが横から声をかけた。


「よくやった」


「でもアストライア、ぶつけちゃった」


「そこは反省しろ。あれは最終手段だ」


「はい」


「ただ、輸送船を守った判断は間違っていない」


 ジェイドも頷く。


「敵船を押し離すとは思わなかったけどな。正直、かなり驚いた」


「俺もやりながら驚いてた」


「それは駄目だろ」

 ジェイドが笑った。


『艦長、前部外装の修理費を概算しました』


「……いくら?」


『現代規格部材を使用する場合、約18,000Cr』


「うっ」


『HM-417の整備設備と備蓄資材を使用すれば、外部調達費用は大幅に抑えられます』


「ガルム最高!」


『ガルムは現在通信圏外です』


「帰ったら褒める!」


     *


 翌日、ノード・セブンの傭兵協会では、ダグラスが報告書を読みながら何度も頷いていた。


「四隻の武装船団を制圧。うち三隻を航行不能または降伏させ、一隻は爆発により喪失。行方不明だった輸送船を発見し、乗員十二名を全員救助……か」


「追加報酬、出る?」


「お前は本当にそこが気になるんだな」


「今、切実なんだよ」


 ダグラスは苦笑し、精算画面を開いた。


《依頼精算》


《基本報酬:96,000Cr》


《敵性船舶制圧加算:42,000Cr》


《行方不明船発見・乗員救助加算:35,000Cr》


《合計報酬:173,000Cr》


 ユウは画面を見つめた。


「十七万!」


「さらに、拿捕された三隻については別途処分が行われる。船体の状態が良ければ、そこから追加の分配金も出るはずだ」


「おお!」

「ただし査定には数日かかる。協会の実績評価もその後だな」


 セラが報告書を確認する。


「D級としては十分な成果だ。C級昇格に向けた実績にもなるだろう」


「よし!」


 ユウは拳を握った。


「これで基地の維持費も何とかなる!」


「艦長」

 ジェイドが静かに言う。


「何?」

「初月の支出見込み、二十二万九千五百だったよな?」


「…………」


「まだ足りないぞ」


 ユウはゆっくりとジェイドを見た。


「……そうだった」


『加えて、今回の作戦に伴う弾薬・消耗品費用が発生しています』


 アイリスが追い打ちをかける。


「アイリス、今それ言わなくてもよくない?」

『会計上、重要です』


 ダグラスが怪訝そうに尋ねた。


「お前、一体何を維持してるんだ?」


「……ちょっと大きめの家?」

「家?」

「駐車場付き」

「何台分だ?」

「今は三隻くらい」

「それは家じゃないだろ」


 セラとジェイドが揃って笑った。


     *


 精算を終えて港へ戻る途中、リーネから通信が入った。


『お疲れさま。仕事はどうだった?』

「十七万稼いだ!」

『すごいじゃない。初回にしては上出来ね』

「だろ?」

『それで、もう次の仕事は決めた?』


「……え?」


 ユウの足が止まった。


『何?』

「いや、今帰ってきたばっかりなんだけど」

『知ってるわよ。でも今月の運営費、まだ足りないでしょう?』

「みんな同じこと言う!」


 リーネが楽しそうに笑った。


『それと、いい話が一つあるの』

「お金になる?」

『なる可能性はあるわ』

「聞きます」


『アルフェリア商会の輸送部門で、まとまった護衛案件が出そうなの。通常のD級依頼より規模が大きいから、単独では受けられないかもしれないけど……』


「規模が大きい?」


『ええ。複数の輸送船を、危険度の高い外縁航路で護衛する仕事。商会としては信頼できる護衛艦を複数確保したいみたい』


 ユウはセラとジェイドを見た。


「……複数の護衛艦、か」


 ジェイドが小さく笑う。


「俺たちは一隻しかないな」


「そうなんだよね」


 リーネが続けた。


『だから、今すぐ受けてって話じゃないわ。ただ、あなたが将来艦隊を作りたいなら、こういう仕事が増えると思っておいて』


「なるほど」

『それと、もう一つ』

「まだあるの?」

『今回の投資について、祖父に話したわ』


 ユウの表情が変わった。


「……会頭に?」

『ええ。まだ詳細は伏せてるけど、かなり興味を持ってる』

「怒られなかった?」

『むしろ、どうして自分に相談せず三十万も出したのかって』

「ほら、怒られてる!」

『違うわよ』


 リーネは少し間を置いてから、笑いを含んだ声で言った。


『三十万で済むような案件なのか、って聞かれたの』


「……え?」

『近いうちに、私と一緒にHM-417を視察したいそうよ』


 ユウはしばらく黙った。

 そして、セラを見た。


「……偉い人が来るって」


「そうだな」


「掃除しなきゃ」

「そこからか」


 ジェイドがまた笑った。

 十七万Crを稼いで少し安心したばかりなのに、どうやら次は商会の会頭を迎える準備が必要らしい。

 ユウは天井を見上げた。


「……傭兵って、こんなに忙しい仕事だったっけ?」


『艦長』


 アイリスが静かに答えた。


『現在の業務の大半は、傭兵活動以外に起因しています』


「知ってるよ!」


 宇宙傭兵ユウの仕事は、今日も増える一方だった。

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