第39話 拠点を動かす
HM-417での二日目は、施設の修復と調査にほとんど費やされた。アストライアの修理は自動作業機群が進め、リアはその監督と施設設備の診断を行う。セラは防衛設備と航路周辺の確認。ユウは管理者権限で開けられる区画を順番に調べていた。
「なんか急に仕事増えたな」
『管理施設を取得したためです』
「そのまんまだね」
ガルムはHM-417へ戻ってから、ほとんど休むことなく各区画の復旧を進めている。四脚端末でユウたちに付き添いながら、同時に百を超える作業機へ指示を出していた。
「ガルムって何個のこと同時にできるの?」
『現在の接続状態では、施設内作業機一八九機、防衛機動体八機、固定設備三基を並行管理可能です』
「めちゃくちゃ働いてるじゃん」
『本来業務です』
「休みとかないの?」
『不要です』
「ブラック企業向きだな」
『意味不明』
*
最初に開放したのは資材管理区画だった。前日に見つけたB-3倉庫より大きく、内部には構造材や整備部品だけでなく、用途不明の密閉ケースが大量に並んでいる。
「全部使える?」
『状態確認が必要です』
リアが一つずつ端末で調べる。
「こっちは生きてる。こっちは劣化。これは……何だろ」
『大型推進器用流量制御部品』
「アストライアには大きすぎるね」
「もっとでかい船用?」
ユウが聞く。
『肯定』
「どれくらい?」
『対応艦級情報が破損しています』
「またそこかあ」
ただ、使えない物ばかりではなかった。アストライアと同規格の部品も多く、現代品で代用していた配管や制御装置を本来仕様へ戻せる見込みが出てきた。
「これなら結構直せる」
リアが嬉しそうに言う。
「少なくとも電力系と冷却系はかなり良くなるよ」
「どのくらい?」
「今までが応急修理の積み重ねだったから、それを整理できるだけでも大きい」
ユウは倉庫を見回す。
「ここ見つけただけで結構得してる?」
「得どころじゃないと思う」
リアが答える。
「アストライア専用部品を買える場所なんて今までなかったんだから」
その言葉で、ユウもようやく実感した。
ここは単なる基地ではない。アストライアを本来の状態へ戻すための場所でもある。
*
セラが調べていた防衛区画では、さらに二基の固定砲台が復旧可能と判明した。
「資材は?」
「施設内在庫で足りる」
「じゃあ直す?」
「優先度は高い」
セラが防衛表示を出す。
「今は固定砲台三、警備機八。宙賊ならともかく、前のオルフェウスみたいなのが来たら足りない」
「ここ知られてる可能性ある?」
「今のところ低い。ただし中継施設を使った以上、航路の痕跡が完全に残らない保証はない」
「じゃあ早めに固めよう」
『固定防衛設備二基の修復を追加します』
ガルムが即座に工程へ組み込む。
「何日?」
『一基二十六時間、二基並行で三十一時間』
「早いな」
『作業機を追加配分します』
セラが少し考える。
「作業機を防衛修理に回して、アストライアの修理遅れないか?」
『影響二時間未満』
「ならやれ」
「もうセラ普通に基地司令みたいだね」
ユウが言う。
「お前が何も決めないからだ」
「決めてるよ」
「金使う判断だけ早い」
「それ重要じゃん」
*
午後、アストライアの修理が一区切りついた。
『外部整備工程第一段階完了』
ドック内で固定されていたアストライアの外装が閉じていく。応急的に現代部品を繋いでいた箇所の一部が、本来規格へ置き換えられていた。
「結果は?」
ユウが聞く。
リアが一覧を出す。
「主電力伝送効率改善。冷却能力向上。姿勢制御系の応答も良くなってる。船体損傷も軽いところはほとんど直った」
「主砲は?」
「またそこ?」
「気になるから」
「冷却時間はさらに短くなる。ただし連射武器になるわけじゃないよ」
「十分」
アイリスが補足する。
『通常戦闘時の熱余裕は従来比約二四パーセント増加しています』
「結構大きい」
「その分、レーザーも長く使える」
リアが言う。
「強くなったなあ」
「まだ直せてないところの方が多いよ」
「夢ないこと言わないで」
「事実だから」
*
修理の最中に、ガルムが一つの区画を発見した。
『管理者確認を要求』
「何?」
『未確認格納区画へのアクセス権限を取得しました』
「何があるの?」
『記録不明』
「行こう」
「即決するな」
セラが止める。
「先に危険性確認」
『内部生命反応なし。高エネルギー反応なし。気密維持』
「じゃあ行こう」
「今度はいい」
三人とガルムで向かう。
場所は主整備ドックから少し離れた地下区画だった。扉はアストライアの中枢区画と似た材質で、ユウが近づくと自動的に認証表示が出る。
《管理者確認》
《鍵保持者認証》
《格納区画D-6 開放》
扉が左右へ開く。
「何これ」
内部には、小型船が一隻置かれていた。
全長二十メートル弱。アストライアよりはるかに小さい。細い船体に短い翼状構造があり、見た目は軍用艇より作業艇に近い。
「船?」
『多用途連絡・救難艇』
「動く?」
『診断中』
リアはすでに船へ近づいている。
「外装綺麗。少なくとも放置で崩れてない」
『機体識別情報を復旧』
《PEGASUS》
「ペガサス?」
『識別名として登録されています』
ユウは少し笑った。
「名前ちゃんとあるんだ」
「用途は?」
セラが聞く。
『短距離連絡、救難、物資輸送、施設間移動』
「武装は?」
『近接防御用小型レーザー一基。戦闘用途非推奨』
「完全に足だな」
「便利そうじゃん」
アストライアで毎回基地を出入りする必要がなくなる。救難や近距離移動にも使える。
「直せる?」
ユウが聞く。
リアが船体の診断表示を見る。
「電源セル交換と制御系点検くらい。たぶん二、三日」
「やろう」
「また即決」
「これは絶対使うでしょ」
セラも否定しなかった。
*
さらに施設調査を進めると、HM-417の役割が少しずつ見えてきた。
ここは単なる修理工場ではない。補給、整備、観測、救難。それに航路開拓艦隊が長距離活動するための中継基地として作られている。
大型艦対応ドック。
小型艇格納庫。
資材庫。
居住設備。
観測設備。
防衛網。
「普通に軍事基地じゃない?」
ユウが聞く。
『分類上は航路整備拠点です』
ガルムが答える。
「砲台十四基あるのに?」
『未開拓宙域では自衛能力が必要です』
「説得力あるようなないような」
セラはむしろ納得していた。
「辺境拠点ならこのくらい必要だろ。補給が期待できないなら自分で守るしかない」
「じゃあアストライアも?」
「同じ考え方で作られてるんだろうな」
航路を開き、未知の宙域へ入り、基地を作り、それを守る。
アストライアが単なる観測船ではない理由が、少しだけ分かった気がした。
*
その日の夕方。
ガルムから別の報告が入った。
『施設外縁センサー復旧』
「何か見えるようになった?」
『星系内長距離監視範囲を回復』
「敵いる?」
『現時点で敵性船舶なし』
「じゃあ問題なし?」
『一点、人工物反応を確認』
ユウが表示を見る。
「HM-417以外?」
『肯定』
第四惑星の外側。かなり離れた軌道上に、小さな反応があった。
「船?」
『推定』
セラが表示を拡大する。
「動いてる?」
『移動なし』
「漂流船?」
『可能性があります』
リアが聞く。
「古い?」
『識別信号なし』
「距離は?」
『通常航行で約二時間』
ユウは少し考えた。
「調べる?」
「明日」
セラが答える。
「今日は施設の安全確認を優先する」
「了解」
ガルムが反応を解析し続ける。
『微弱電源反応を確認』
「生きてる?」
『船内生命反応は距離不足により確認不能』
表示された船影は一隻。
ただし、その横にもう一つ別の情報が現れた。
『船体形状照合』
《一致率 七三パーセント》
「何と?」
ユウが聞く。
数秒の解析。
『旧航路開拓艦隊所属規格』
艦橋が少し静かになった。
「アストライアの仲間?」
『可能性があります』
ユウは反応点を見る。
基地を見つけたばかりだというのに、今度はその星系に、アストライアと同じ時代の可能性がある船が漂っている。
「……明日、行こう」
今度はセラも止めなかった。
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