第34話 旧中継施設
D級へ昇格して最初に受けた仕事は、旧採掘星系で消息を絶った二隻の捜索だった。報酬は四万五千クレジット。生存者の救助、船体回収、事故原因の特定には追加報酬が設定されている。
「こういう調査任務って初めてだね」
「救難自体は何度もやってるけどな」
「今回は最初から探しに行く仕事って意味」
「なら初めてだ」
セラが戦術席で依頼資料を確認する。失踪したのは小型資源運搬船と作業支援船。どちらも民間船で、旧採掘区画に残された無人設備を調査するために入域したあと、ほぼ同時に通信が途絶えていた。
「最後の通信は?」
『七日前です。バルカより機関異常の報告。その四分後、ニムから救援要請。以後通信なし』
「宙賊の可能性は?」
『周辺宙域に活動記録はありません』
リアが船体データを見る。
「二隻同時に故障ってのも変だね」
「だから調査依頼になったんだろうな」
ユウは星図を眺めた。目的地はノード・セブンから約十一時間。以前、中枢が示した《第七》へ向かう方向とほぼ一致している。
「偶然かな」
「今の段階では偶然として扱え」
セラが言う。
「仕事と謎探しを混ぜるな」
「了解、先生」
「先生と呼ぶな」
リアが笑った。
*
旧採掘星系へ入ったのは出発から十一時間半後だった。
中心恒星を回る惑星は五つ。目的の採掘区は第二惑星と第三惑星の間に広がる小惑星帯にあったが、数十年前に主要鉱床が枯れ、現在はほとんど利用されていない。
『航行ビーコンを確認。信号強度低』
「まだ動いてる?」
『最低限の位置情報のみ送信しています』
ユウは速度を落とす。
「失踪船は?」
『現時点で識別信号なし』
「広域探査」
『開始します』
アストライアのセンサーが小惑星帯を走査する。金属反応は多い。放棄された採掘設備、コンテナ、古い作業艇の残骸。何十年も前のゴミが大量に残っていた。
「探しにくそう」
「だから依頼が残ってたんだろ」
セラが言う。
『人工電源反応を二つ検出』
「近い?」
『当艦より約十二万キロ。双方とも微弱』
「二隻?」
『可能性があります』
「行こう」
アストライアは小惑星の間を抜け、反応地点へ向かった。
*
最初に見つかったのは《バルカ》だった。
船体は小惑星へ接触した状態で停止している。外装には損傷があるものの、爆発や戦闘の痕跡はない。
「生体反応」
『三』
「生きてる!」
『全員、生命兆候低下』
「救助優先」
アストライアを接近させる。リアとセラが船外活動装備を準備し、ユウも修理した一番装備を着込んだ。
「本当に行くのか?」
セラが聞く。
「艦長だから船に残るべき?」
「そういう意味じゃない。まだその装備に慣れてない」
「低出力で使う」
「無茶するなよ」
「先生みたいなこと言うね」
「戻るぞ」
「ごめんなさい」
*
バルカ内部は暗かった。
非常灯だけが赤く点滅している。船内温度は低く、生命維持も最低限しか動いていない。
「反応は前方」
『三名。艦橋付近です』
アイリスの案内を端末で確認しながら進む。
途中、リアが壁際で止まった。
「これ変」
「何?」
「電源落ちたんじゃない。制御系が全部同時に止まってる」
端末を接続する。
「機関そのものは壊れてない」
「じゃあなんで動けない?」
「分かんない。船側が自分で止まったみたい」
セラが周囲を見る。
「後で調べる。今は乗員だ」
艦橋には三人が倒れていた。酸素濃度は低いが、全員生きている。
「一人ずつ運ぶ」
「ユウ、その装備なら二人持てるだろうが、やるな」
「言われる前に止められた」
「姿勢崩したら三人怪我する」
「はい」
一番装備の補助を使い、一人ずつ慎重に運ぶ。
三人ともアストライアへ収容し、簡易医療区画へ送った。
『生命状態安定。重篤な外傷なし』
「よかった」
だが、もう一隻が残っている。
*
《ニム》はバルカから四万キロほど離れた場所にあった。
こちらも漂流していたが、船体損傷はほとんどない。
「生体反応は?」
『二』
「少ないな」
登録乗員は五名。
「残り三人は?」
『船内に反応なし』
セラの表情が少し険しくなる。
「脱出艇は?」
『搭載艇一隻が欠落しています』
「逃げた?」
「その可能性はある」
ニムへ接近したところで、アイリスが別の反応を拾った。
『未登録通信信号を検出』
「どこ?」
『ニムではありません』
星図に一点が出る。
さらに小惑星帯の奥。採掘区から外れた場所だった。
「距離?」
『約三十七万キロ』
「信号内容は?」
『極めて短い周期信号です。現行通信規格に一致しません』
ユウとセラが顔を見合わせる。
「第七?」
「決めつけるな」
『中枢管理機能に反応』
「やっぱり何かあるじゃん」
艦橋の一部に、見慣れない表示が浮かぶ。
《旧中継点》
《識別照合中》
数秒後。
《第七系統》
「当たりっぽいね」
「まず救助だ」
「はい」
*
ニムの乗員二人も生存していた。
こちらは艦橋ではなく機関区画近くで発見された。二人とも意識を失っていたが、外傷は軽い。
問題は船だった。
「こっちも同じ」
リアが端末を見る。
「機関は動く。電源も残ってる。でも制御系だけ止まってる」
「外部からやられた?」
「痕跡はある」
リアがログを拡大する。
「変なアクセスが入ってる。通信じゃない。もっと近距離の何か」
「電子攻撃?」
ユウが聞く。
「似てるけど、侵入された感じじゃない。船側が何かを受信して、安全停止したように見える」
セラがニムの航行記録を見る。
「最後の進路を出せるか?」
「出せる」
失踪直前、ニムはバルカから離れていた。向かった先は、先ほど検出した謎の信号方向と一致する。
「こいつら、何か見つけたんだ」
「それを調べに行って止まった?」
「可能性は高い」
ユウが聞く。
「残り三人は脱出艇で?」
『脱出艇の最終航路記録を取得』
アイリスが進路を表示する。
同じ方向だった。
「行くしかないね」
「救助任務としてな」
セラが念を押す。
「分かってるって」
*
アストライアは二隻を安全な位置へ残し、謎の信号へ向かった。
小惑星帯の密度が徐々に下がる。やがて前方に、大きな岩塊が一つ見えてきた。
「ただの小惑星?」
『直径約九・二キロ』
「信号は?」
『内部から発信されています』
「内部?」
リアが画面を拡大する。
「人工構造物ある」
小惑星の影側。肉眼では岩壁にしか見えない場所に、直線的な構造が埋まっていた。
「入口?」
「多分」
アストライアが近づく。
その瞬間、中枢管理機能が反応した。
《旧中継施設確認》
《第七系統》
《施設状態――非常停止》
《管理接続――不能》
「アストライアの施設?」
『私には記録がありません』
アイリスが答える。
「中枢だけ知ってるのか」
セラが周辺を警戒する。
「脱出艇は?」
『反応あり』
施設入口付近に、小型艇が一隻固定されていた。
「三人いる?」
『生体反応三』
「全員生きてるな」
ユウが安心しかけたところで、別の反応が出た。
『施設内部で移動物体を検出』
「人?」
『生体反応ではありません』
「機械?」
映像を拡大する。
暗い通路の奥。
何かが動いている。
高さは一メートルほど。四本の細い脚を持ち、中央に丸い本体。その上部に小さなセンサーらしき光がある。
「ロボット?」
「警備機っぽいな」
セラが言う。
『対象より通信』
「開いて」
雑音の後、低い合成音声が流れた。
『未登録艦艇を確認』
「喋った」
『第七系統施設への接近を確認』
『識別を要求』
ユウが少し考える。
「こちらアストライア。救助任務で来た」
数秒の沈黙。
『ASTRAIA』
機械の動きが止まった。
『照合』
さらに数秒。
『AIRI-S確認』
アイリスが反応する。
『私を認識しています』
「そっちも?」
『追加照合』
小型機械のセンサーがアストライアへ向く。
『鍵保持者』
「そこまで知ってるの?」
セラの顔が変わる。
機械はしばらく沈黙した。
そして。
『管理権限照合』
『……成功』
施設内部の照明が、一つずつ点き始めた。
『第七系統中継施設、暫定管理権を移譲』
「誰に?」
『鍵保持者』
ユウが固まる。
「俺?」
『肯定』
リアが思わず笑う。
「また増えたね」
「何が?」
「ユウの持ち物」
「まだ持ち物って決まってないよ」
機械は続ける。
『施設機能損傷』
『中枢接続不能』
『防衛管理機能分離状態』
ユウが画面を見る。
「あなた何?」
短い沈黙。
『施設防衛管理端末』
『識別名――GARM』
「ガルム?」
『肯定』
四脚の機械がゆっくりと入口側へ移動する。
『第七整備拠点への帰還を要求』
ユウの表情が変わった。
「第七整備拠点?」
『肯定』
『本端末は中継施設復旧待機中』
『帰還先――HM-417』
艦橋が静かになる。
今度はアイリスが反応した。
『中枢管理機能より照合』
《HM-417》
《第七航路整備拠点》
《帰還候補一致》
ユウは星図を見る。
以前、中枢が示した四・七一光年先の座標。
そこへ一本の細い線が伸びた。
この小さな中継施設から、その先へ。
「……道、見つけた?」
『正確には』
アイリスが答える。
『道の入口を発見した可能性があります』
セラが腕を組む。
「まず失踪者を回収する」
「はいはい」
「その後、施設を調べる」
ユウが少し笑った。
「そっちはいいんだ」
「仕事が終わってからならな」
リアも笑う。
普通の失踪船調査だったはずの任務は、いつの間にか四・七一光年先へ続く古い航路の入口へ変わっていた。
そしてその入口には、新しい仲間候補が一体、ユウたちを待っていた。




