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第33話 Dランク昇格

 ノード・セブンへ戻った翌日、ユウはまた傭兵協会の面談室に呼ばれていた。今回はダグラスの前に端末が三つ並び、これまでの依頼記録が一覧で表示されている。


「なんか本格的ですね」

「昇格審査だからな」

「落ちることある?」

「ある」

「急に緊張してきた」


 ダグラスが一つずつ記録を確認していく。護衛任務、救難、宙賊船の鹵獲、警備艇エルムの救助、ヘリオスでの戦闘。そして今回の輸送路宙賊討伐。


「実績だけなら十分だ。むしろE級としては多い」

「じゃあ昇格?」

「まだだ」


 ダグラスがユウを見る。


「D級からは、単独で判断を任される仕事が増える。危険度の高い護衛、複数船の討伐、回収、救難。場合によっては他のE級を連れて動くこともある」

「責任増えるんですね」

「報酬も増える。その分、失敗した時の被害も大きい」


 ユウは少し真面目になる。


「今回の戦闘、どう評価されてる?」

「かなり高い。民間輸送船を守りながら四隻を制圧。撃沈なし、死傷者なし。戦闘記録を見る限り、以前より判断も良くなってる」


「先生が増えたので」

「誰だ?」

「セラ」

「ああ、ヴァイスか」


 ダグラスの反応が少しだけ変わった。


「知ってるんです?」

「名前くらいはな。元軍人だろ」

「結構有名?」

「軍歴が長ければ、同業者の間で名前が出ることはある」


 それ以上は聞かなかった。


「で、結果は?」


 ダグラスが端末へ触れる。


《傭兵等級更新》

《E級 → D級》


「おお」


 思ったよりあっさりだった。


「今日からD級だ」

「なんかもっと試験とかあるかと思った」

「実戦記録が試験みたいなもんだ」


「なるほど」


 新しい登録証が表示される。


《傭兵ランク D》

《単独討伐許可範囲拡大》

《中危険度護衛任務受注可》

《複数船任務参加資格》

《小規模船団指揮補助資格》


「最後なんか怖い」

「今すぐやれとは言ってない」

「安心した」


 ダグラスが少し笑う。


「ただ、いずれ必要になる」

「艦隊とか?」

「そこまで大げさじゃなくても、二隻三隻で動く仕事は増える」


 ユウは少しだけ想像した。アストライア以外の船と一緒に戦う。今はまだ遠い話に感じる。


     *


「で、今回いくら?」


 リアの第一声だった。


「昇格よりそっち?」

「修理代が気になる」


 アストライアの艦橋。ユウ、リア、セラの三人で報酬明細を見る。


《通常報酬 18,000Cr》

《輸送船防衛加算 9,000Cr》

《敵船四隻制圧加算 22,000Cr》

《危険手当 7,500Cr》


「五万六千五百」

「それだけじゃない」


 ユウが次を開く。


《鹵獲権配分》

《小型艦A 21,400Cr》

《小型艦B 18,900Cr》

《小型艦C 24,100Cr》

《中型艦 46,800Cr》


「十一万ちょい?」

「手数料引いたあとでこれ」


 リアの目が輝く。


「すご」

「合計十六万七千七百クレジット」


 セラが端末を見る。


「前より稼いでるな」

「Dランクになる前にDランクっぽい報酬もらってる気がする」


「実績が先に追いついたんだろ」


 口座残高は一気に増えた。前回の修理や装備購入で減っていたが、それでも今回の入金でかなり余裕ができる。


「で、修理」

 リアがすぐ切り替える。


「来ると思った」


     *


 今回優先するのは二つだった。旧戦闘支援で使われた補助冷却路の復旧と、姿勢制御系の再調整。


「まず冷却」

 リアが船体図を出す。

「前回中枢が勝手に使った経路、完全に死んでたわけじゃない。閉鎖されてただけの部分と、劣化してる部分が混ざってた」


「直せる?」

「全部は無理。でも二本のうち一本は通常運用に戻せると思う。もう一本は部品交換が必要」


「いくら?」

「冷却だけで三万八千くらい」


「安い」

「金銭感覚壊れてきてるよ」


 リアが呆れる。


「前は一万でも高かったのに」

「最近船売ってるから」


「言い方が宙賊みたいだな」

 セラが言う。


「倒した宙賊船を売ってるだけです」


 姿勢制御側も、戦闘支援時のログから新しい制御方法を一部再現できるらしい。


「こっちは部品交換じゃなくてソフト側が大きい」

「アイリスでできる?」

『戦闘支援時の制御記録を参照し、安全範囲へ制限した上で再構成可能です』


「どのくらい変わる?」

『旋回時の推進効率向上。姿勢変更速度は現在比で約一二パーセント改善する見込みです』


「結構大きいな」

「ただし中枢がやってた動きそのままは無理」

 リアが補足する。

「あれは通常制御の安全域かなり超えてた」


「じゃあ常時強くなるけど、前回ほどじゃない?」

「そういうこと」


 ユウは頷く。


「やろう」


「それで四万五千くらい」

「合計八万三千」

「あと一番装備」

「忘れてなかったんだ」


「当然」


 リアの顔が少しだけ嬉しそうになる。


「電源セル換装、装甲補修、制御変換。現代部品で組むなら二万五千から三万」

「それもやる」

「即決」

「今回は金あるし」


 セラが横から見る。


「全部使うなよ」

「リーネみたいなこと言い始めた」

「正しいからだ」


 結局、予備費を十分残した上で三項目を進めることになった。


     *


 修理には四日かかった。


 一日目は冷却路。二日目に姿勢制御系。三日目から一番装備の分解と電源換装。四日目に全体試験。


「主砲一発」

『発射試験を実施します』


 ノード・セブン外縁の試験宙域。低出力で主砲を撃つ。


『発射』


 標的用デブリへ命中。


「冷却」

「見てる」


 リアが表示を追う。


「前よりかなり早い。通常運用でこれなら十分」

「次撃てるまで?」

「前より三割くらい短いかな。連発はまだ無理」


「十分十分」


 次は姿勢制御。


「ユウ、右九十度」

「了解」


 入力。


 アストライアが旋回する。


「おお」

「分かる?」

「前より軽い」


 船体が滑るように向きを変える。旧戦闘支援ほど不自然な動きではないが、明らかに反応が良くなっている。


 セラが戦術席から確認する。


「これなら実戦でも使いやすい」

「先生評価は?」

「合格」

「やった」


「まだ操艦は教える」

「ですよね」


     *


 最後は一番装備だった。


 装備庫の中央に、修理された強化外骨格が立っている。以前の弾痕は消え、背部には現代製の電源ユニットが追加されていた。


「見た目ちょっと変わった?」

「電源だけね。外装はなるべくそのまま」


 リアが端末を操作する。


《一番装備》

《主制御系 正常》

《駆動補助系 正常》

《電源 正常》

《使用者認証 ユウ》


「着る?」

 リアが聞く。


「今度こそ?」

「今度こそ」


 セラが横から言う。


「最初は低出力設定」

「もちろん」


 装備ケースが開く。


 ユウが中へ入る。


 脚。

 腰。

 背中。

 腕。


 フレームがゆっくり身体へ固定されていく。


「ちょっと怖い」

「動かないで」


『身体位置確認』

『駆動補助接続』


 重かったはずの装備が、急に軽くなる。


「おお」


「立ってみて」

「もう立ってる」

「じゃあ歩いて」


 一歩。


「軽っ」


 もう一歩。


「普通に歩ける」

「補助入ってるからね」


 腕を上げる。


「これ力強くなってる?」

「低出力で一・四倍くらい」

「十分強いな」


 セラが近づく。


「走るな」

「まだ何もしてない」

「顔が走る顔してる」


「みんな俺の顔で判断するなあ」


 リアが笑う。


「ちょっと荷物持ってみる?」


 床に置かれた整備部品。普段なら二人で持つ重さ。


「これ?」

「ゆっくり」


 ユウが持ち上げる。


「……軽い」

「補助効いてる」

「これ楽しい」


「だから調子に乗るな」

 セラが言う。


「はい」


 ユウは部品を戻す。


「戦闘用としては?」

「今はまだ防御拡張なし」

 リアが答える。

「胸部と腕は多少弾を止めるけど、本格的な戦闘装甲じゃない」


「追加装甲ほしいな」

「お金かかるよ」

「また稼げばいい」


 セラがため息をついた。


「完全に傭兵になってきたな」


     *


 その日の夕方。傭兵協会から新しい依頼一覧が届いた。


 D級へ昇格したことで、表示される仕事が一気に増えている。


《中危険度護衛》

《宙賊拠点捜索》

《遭難船回収》

《長距離貨物護衛》

《複数船合同討伐》


「報酬全然違う」

 ユウが言う。


「危険度も違う」

 セラが返す。


「分かってるって」


 リアが一つの依頼を開いた。


「これ面白そう」


《未登録宙域調査》

《旧採掘星系》

《長距離通信断絶》

《失踪船 二隻》

《D級以上推奨》


「調査系?」

「アストライア向きではあるな」

 セラが言う。


 ユウも少し興味を持つ。


「報酬は?」

「四万五千。発見物によって追加」


「悪くない」


 ただし依頼地点は、普段使っている航路から少し外れていた。


 アイリスが星図を表示する。


『目的宙域まで約十一時間』


「近いね」

「今までよりはな」


 ユウが受注しようとしたところで、アイリスが追加情報を表示した。


『一点、確認』


「何?」


『依頼宙域の座標が、中枢管理機能が検出した《第七》への推定航路方向と一致しています』


 ユウの手が止まる。


「完全に同じ?」

『方向誤差〇・七度。偶然の可能性はあります』


 セラが表示を見る。


「第七までは四・七一光年だ。依頼地点はその途中にあるだけだろ」


「そうだね」


 それでも気になる。


 通常任務。

 Dランク昇格。

 修理完了。


 次は少し遠い調査依頼。


 ユウは依頼画面を見て、少し笑った。


「行ってみる?」

「仕事としてならな」

 セラが答える。


「じゃあ受けよう」


 今度は謎を追うためではない。


 少なくとも、受注した時点ではそう思っていた。

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