↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/78

第26話 起動した装備

 装備庫へ向かう途中、ユウは何度も端末を確認した。表示されているのは一番装備の起動反応。それ以外に異常はない。


「勝手に歩いたりしてないよね?」

『現在、収納ケース内部で待機状態です』

「待機状態って何」

『主制御系起動。姿勢補助、生命維持補助、戦術支援系の一部が自己診断中です』


 リアの足が速くなる。


「すごい。さっきまで電源セル十一パーセントだったのに」

「走らない」

「走ってない」

「速歩きだな」


 セラが後ろからついてくる。拳銃はまだ抜いていないが、いつでも触れられる位置に手を置いていた。


「アイリス。外部信号と装備起動の因果関係は?」

『確定できません。ただし時刻は一致しています』

「偶然の可能性は?」

『否定できません』

「低そうだけどな」


 装備庫前に到着する。扉は閉じたままだった。


「開ける?」

『内部危険反応なし』


「じゃあ開けて」


 扉が左右へ開く。


     *


 十二基並んだ収納ケース。そのうち一番だけが、前とは違う光を放っていた。


「おお……」


 強化外骨格の胸部に細い光が走っている。肩、腰、脚部。各部の表示も点灯し、透明だったフェイスシールドの奥には小さな文字列が流れていた。


「生きてるね」

「言い方」


 リアがすぐに近づこうとする。


「待て」


 セラが腕を出して止めた。


「遠隔で確認できるか?」

『可能です』

「先にやれ」


「セラ慎重だな」

「正体不明の装備だ。普通だ」


 もっともだった。


「アイリス、診断」

『実行します』


 数秒。


《主制御系 正常》

《駆動補助系 待機》

《環境維持系 一部正常》

《電源セル 残量十一パーセント》

《外部装甲モジュール 未接続》

《個人火器モジュール 未接続》

《使用者認証 未完了》


「電源増えてない?」

「そこは変わってないね」


 リアが表示を覗く。


「じゃあ起動しただけ?」

『はい』


「外部信号で起動条件が満たされた?」

「それが気になるな」


 セラがケースの前に立つ。


「使用者認証って何する?」

『艦長の装着を要求しています』


「やっぱ俺?」

『はい』


「今着るのは?」

「反対」


 セラの返事が即座に飛んできた。


「早いな」

「当然だ」


 リアも少し悩んだ。


「私も一回ばらしてからの方がいいと思う」

「リアまで」

「未知の制御系が生きてるからね。動作した瞬間に関節持っていかれたら洒落にならない」


「怖いこと言うなあ」


 ユウはケースを見る。


「じゃあ認証だけなら?」

『装着を伴わない一次認証が可能です』


「何する?」

『生体情報照合、および艦長権限との関連付けです』


 セラがユウを見る。


「触れる必要は?」

『右手掌部を認証面へ接触させます』


「それくらいなら」

「いい?」

「異常が出たらすぐ離れろ」


「了解」


     *


 収納ケースの内側。手のひらほどの黒い面が点灯する。


「ここ?」

『はい』


 ユウが右手を置いた。


 一瞬。

 何も起きない。


「……普通?」

『照合中』


 その直後、装備の各部が一斉に明るくなった。


「うわ」

「手離して!」


 リアに言われるより早く、ユウは手を引く。


 表示が流れる。


《艦長権限確認》

《生体情報一致》

《優先使用者登録》

《補助認証――》


 文字が止まる。


《適合対象確認》

《登録完了》


「終わり?」

『はい』


「変なこと起きなかった?」

『現在異常なし』


 セラが装備へ近づく。


「これでユウしか使えない?」

『優先使用者は艦長ですが、他乗員への割り当ても可能です』

「じゃあ専用品じゃないんだ」

『装備番号一は指揮・保安機能強化型です。艦長への優先割り当てが標準設定されています』


「なるほど」


 ユウは少し安心した。


 リアは別の表示へ進む。


「アイリス、制御ログ見せて」

『表示します』


「何か分かる?」

「起動直前に一回、外部入力待ち状態になってる」


「外部?」

「うん」


 リアがログを拡大する。


「ただ、その入力内容が残ってない」

「消えた?」

「記録形式自体が読めてない感じ」


 セラが聞く。


「装備が直接外部信号を受けたのか?」

『不明です。アストライア船内系統を経由した可能性が高いと推定します』


「つまり船が何か受けて、装備まで起こした?」

『可能性があります』


 ユウは少し嫌な顔をする。


「なんで?」

『不明です』


「最近それ多いな」

『申し訳ありません』

「アイリスが謝ることじゃないよ」


 アストライアそのものに、まだ分からない部分が多すぎる。


     *


「ところでこれ、どのくらい強い?」


 ユウが聞くと、セラが呆れた顔をした。


「急だな」

「だって気になるでしょ」

「気にはなる」


 リアも否定しなかった。


「アイリス、筋力補助どのくらい?」

『完全稼働時の推定値を表示します』


《荷重支援 通常時:使用者体重比約3.2倍》

《短時間最大:同5.8倍》

《姿勢保持補助:高》

《衝撃吸収補助:中》

《防弾性能:追加装甲なしでは限定的》


「三倍?」

「作業用としてはかなり便利だね」


 リアがすぐ食いつく。


「重量物運搬、船外補修、扉こじ開けるとか」

「戦闘だと?」

 ユウがセラへ聞く。


「十分危険だ」

「強い?」

「装着者が使えればな」


「そこ大事?」

「ものすごく大事だ」


 セラがフレームを見る。


「強化外骨格は勝手に戦ってくれない。むしろ補助が強すぎると、下手な奴は自分の動きに振り回される」

「じゃあ着れば強くなるわけじゃない?」

「体力と防御力は上がる。でも戦い方知らなければ、重い的になるだけだ」


 ユウは少し残念そうにする。


「ロマンが」

「現実を見ろ」

「宇宙船で言われるとなんか違和感ある」


 リアが笑う。


「でもセラなら使える?」

「現代型と操作思想が近ければ」


「じゃあ二番直ったらセラ用?」

「勝手に決めるな」

「でも指揮・保安強化型なんでしょ」

「性能確認してからだ」


 嫌ではなさそうだった。


     *


「武器は?」

「またそこ?」

「大事」


 ユウが装備の腰部を見る。接続部らしいものはあるが、何も装着されていない。


『個人火器モジュール収納部への通電を試行可能です』


「やる?」

 リアが聞く。


「安全なら」

『危険反応なし』

「お願い」


 装備庫奥の壁面で小さな音がする。

 今まで一枚の壁にしか見えなかった部分が、わずかに前へ出た。


「隠し収納?」


 壁面パネルが横へ動く。

 中に細長いケースが並んでいた。


「おお……」


 ユウが近づく。

 今度はセラも止めなかった。

 ケースは六基。

 うち二基だけ、表示が点灯している。


『収納部一、二。状態確認可能』

「開けられる?」

『可能です』

「一番だけ」


 ケースが開く。


 中に入っていたのは、一見すると短い銃だった。

 全長六十センチほど。銃身らしい筒はなく、黒と灰色の直線的な外装。後部に電源らしきユニットがある。


「銃だよね?」

「少なくとも持ち方は銃だな」


 セラが慎重に見る。


『識別情報を一部復旧』


《携行型指向性投射器》

《個人防護装備連携対応》

《出力可変》


「何撃つの?」

『詳細記録破損』


「怖いな」


 リアがケースへ顔を近づける。


「弾倉ないね」

「エネルギー武器?」

「たぶん」

『電源ユニット残量ゼロ』

「使えない?」

「今はね」


 ユウは少し安心し、少し残念だった。


「二番は?」

『同型です』

「じゃあ銃二丁?」

『現時点で確認可能なのは二基です』


 セラが腕を組む。


「保安装備としては少ない」

「他が壊れてる?」

「別収納があるかもしれない」


 リアが周囲を見る。


「まだ装備庫全部起きてないからね」


 その時。


『艦長』

「ん?」

『ヘリオス管制圏まで二十八分』

「おっと」


 装備に夢中になっていた。


「一旦戻ろう」

「そうだな」


 ユウはケースを閉じる。


「リア、これ触るのは到着後ね」

「分かってる」

「本当に?」

「……分かってる」

「間があったぞ」


     *


 艦橋へ戻ると、ヘリオスの外観がセンサー表示に入り始めていた。

 巨大な円筒型居住施設。

 中央軸の周囲を複数の居住ブロックが取り囲み、外側には商業港と小型ドックが張り出している。

 ノード・セブンほど大きくはないが、単なる中継施設とは明らかに違う。


「街って感じだな」

「二十万人いるからな」


 セラが答える。


「証拠はどこに?」

「個人保管庫」

「銀行みたいな?」

「似たものだ。民間の独立保管サービス」

「軍から見られない?」

「令状なしでは難しい」

「なるほど」


 ノエルも艦橋へ呼ばれている。

 彼の記録媒体と、セラが保管したデータ。二つを合わせれば、告発をやり直せる可能性がある。


「着いたらどうする?」

「まず私とノエルで保管庫へ行く」

「俺も行く?」

「来てほしい」

「護衛?」

「ああ」


 セラが少しだけ考える。


「それと訓練も兼ねる」

「何の?」

「街中での警戒」


「まだ教える気満々だ」

「昨日の動きを見たらな」


 リアが笑う。


「もう部下扱いじゃん」

「違う」

「即答」


 ユウは少し面白くなってきた。


「じゃあ先生、お願いします」

「先生と呼ぶな」


     *


『ヘリオス管制より入港確認要求』

「来た」


 アイリスが通信を繋ぐ。


『こちらヘリオス自治管制。船名および入港目的を申告してください』

「アストライア。民間輸送と補給です」

『船籍情報を確認――』


 少し間が空く。


『……型式不明船?』


 ユウが苦笑する。


「はい。よく言われます」

『船体登録はノード・セブン発行の暫定登録で確認しました。乗員および旅客名簿を送信してください』


 セラが小さく頷く。


「送っていい」

「アイリス、お願い」


『送信します』


 数秒。


『受理。第十二民間ドックへ進入してください』


「普通に入れた」

「今のところはな」


 アストライアがヘリオスへ接近する。

 その時、アイリスが低い声を出した。


『艦長。一件、確認事項があります』

「何?」

『先ほど検出した外部照会信号について、残留データを一部復元しました』


 ユウの表情が変わる。


「分かったの?」

『内容の大半は解析不能です。ただし識別文字列と思われる領域を一つ取得しました

「見せて」


 画面に短い文字列が出る。


《AIRI-S》


 ユウは固まった。


「……アイリス?」


 リアも画面を見る。


「これ、アイリスの識別名だよね」

『はい』


 セラが眉をひそめる。


「外部から送られてきた信号が、お前のAIを名指しした?」

『その可能性があります』


「誰が知ってる?」

 ユウが聞く。


『少なくとも現代の船舶登録情報へAIRI-Sの名称は送信していません』


 つまり。


 アストライアを外から見ただけでは分からない名前。


 ユウは正面のヘリオスを見る。


「……オルフェウス?」


『関連性は不明です』


 画面には、ただ一つ。


《AIRI-S》


 その文字だけが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。