↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/76

第25話 艦長用装備

「測るだけなら問題ないでしょ?」

「リア、その言い方する時だいたい測るだけで終わらないよね」

「信用ないなあ」

「あるから分かるんだよ」


 装備庫へ戻ると、一番ケースだけが淡い照明を点けていた。

 中に収まっている強化外骨格。

 改めて見ると、現代の作業用装備とはかなり形が違う。


 全身を分厚い装甲で覆うタイプではない。

 背骨に沿う主フレームから腰、脚、腕へ細い骨格が伸び、その上に胸部や前腕、太腿を守る装甲板が配置されている。


「思ってたより細いな」

「船内用ならこの方がいいよ」


 リアがケースの周囲を見ながら答える。


「重装甲にすると通路狭いし、整備ハッチ入れないし。これ、たぶん動きやすさ優先」

「戦うためだけの装備じゃないってことか」

「うん。船外作業もするならこっちの方が便利」

『適合確認を開始しますか?』

「何するの?」

『身長、骨格、筋力、関節可動域、生体情報を取得します。装着は行いません』

「それならいいか」

「ほら」

「リアが勝ち誇るところじゃない」

「アイリス、お願い」

『開始します』


 ケースの左右から光が走った。

 頭から足元まで数秒。


「終わり?」

『一次計測完了』


 表示が出る。


《身体寸法:許容範囲》

《骨格適合:良好》

《神経補助接続:未確認》

《主制御系との接続試験:不可》

《総合判定――》


 少し間が空く。


《暫定適合率 93.1%》


「高い?」

 ユウが聞く。


「比較対象分からないけど、高そう」

『通常装着に必要な身体適合条件は満たしています』

「じゃあ着られる?」

『現時点では推奨しません』

「ですよね」


 リアがケースへ顔を近づける。


「電源が死んでる?」

『主電源セル容量、設計値比十一パーセント』

「それは死んでるね」

「交換できる?」

「同じ規格は無理だろうけど……」


 リアは楽しそうに装備の背面を見る。


「変換器噛ませて現代セル載せればいけるかも」

『電圧および供給特性の差異に注意が必要です』

「そこは調べる」

「もう直す前提だ」

「直したくないの?」

「直したい」


 即答した。

 リアが笑う。


「でしょ?」


     *


 装備の記録を確認していく。


《船外作業補助》

《筋力増幅》

《姿勢安定》

《磁気固定》

《短時間真空活動》

《耐熱・耐圧補助》

《艦内災害対応》

《艦内保安支援》


「艦内保安って何してくれるんだろ」

『追加装備情報を検索します』


 表示が切り替わる。


《外部装甲モジュール》

《衝撃吸収層》

《防弾補助》

《戦術情報投影》

《個人火器接続》

《近接戦闘補助》

《非殺傷制圧装備》


「思ったよりガチだね」

「だね」


 ユウが最後の項目を見る。


「非殺傷もあるんだ」

『警備任務を想定した装備体系です』

「じゃあ普通の乗員が船外作業にも使って、いざって時は戦闘にも使う?」

『推定として妥当です』


 リアが腕を組む。


「古い船だからって、全部専用品じゃないんだね」

「むしろ何でも一個で済ませる感じ?」

「長距離航海ならその方が合理的かも」


 補給できない場所へ行く船。

 人員も十二人しかいない。

 一人が複数の仕事をする前提だったのかもしれない。


「アストライアらしいな」


 ユウが何気なく言う。


『どういう意味でしょうか』

「少人数で何でもやらされる感じ」

『否定できません』

「アイリスもそう思ってるんだ」


 少しずつ、この船がどんな目的で作られたのか見えてくる。

 ただし、まだ断片だけだ。

 リアが別の表示を開く。


「十二着全部同じ?」

『基本フレームは共通。装備構成に差異があります』

「差?」

『一番および二番は指揮・保安機能強化型。三番から六番は船外作業機能強化型。七番から十二番は標準型』

「一番が艦長用?」

『登録上、一番装備の優先使用者は艦長です』

「なるほど」


 ユウはケースを見る。

 自分専用。

 そう言われると妙に気になる。


「ちなみに武器は?」

『装備庫内の個人火器保管部は現在アクセス不能』

「あるんだ」

「絶対あると思った」


『ただし一部記録を確認』


 新しい表示。


《携行型指向性投射器》

《制圧用短射程投射器》

《多用途切断装置》


「銃?」

『現在の分類との一致率が低く、断定できません』

「また直さないと分からないやつ」

「楽しみ増えたね」

「リアはな」

「ユウもでしょ?」

「まあね」


 否定はしなかった。


     *


 艦橋へ戻ると、セラが一人で座っていた。


「ノエルは?」

「話は終わった。今は居住区」

「何か分かった?」


 セラが端末をユウへ送る。


「少しな」


 表示されたのは人名と組織名。

 契約会社。

 整備会社。

 軍内部の承認番号。

 そして複数の資金移動記録。


「これ全部?」

「ノエルが覚えていた範囲だけだ。証拠媒体の方はまだ開けてない」

「でも結構ある」

「ああ」


 セラは一つの会社名を指す。


《アルケイド・ロジスティクス》


「ここが中心?」

「表向きは軍向けの補給会社。部品調達、輸送、整備委託までやってる」

「でかそう」

「でかい」


 リアも画面を見る。


「ロウはここから金もらってた?」

「直接ではない。間に二社入ってる」

「面倒だな」

「意図的にそうしてる」


 ユウが聞く。


「ノード・セブンの内通者もここ関係?」

「まだ分からない」

「マルクが言ってたアストライアの情報買ってる相手は?」

「それも別件らしい」

「別なの?」

「ああ」


 セラが少し嫌そうな顔をした。


「むしろそっちの方が気になる」


 ユウも同感だった。


「ロウはセラを追ってた。マルクはアストライアを調べてた」

「目的が違う」

「たまたま同じ船に乗ってた?」

「完全な偶然とも思えない」


 リアが腕を組む。


「ロウがアストライアの情報も売ろうとしてたとか?」

「あり得る」


 セラが答える。


「金になるなら使う人間だった」


「じゃあ俺たち、巻き込まれたというより途中から商品扱いされた?」

「可能性はある」

「嫌すぎるなあ」


 それでも、一つ分かったことがある。

 アストライアを狙う動きと、セラの問題。

 全部が同じ敵というわけではない。

 逆に言えば、面倒が二つある。


「増えた?」

「増えたな」

「聞かなきゃよかった」


     *


「それで装備庫は?」

 セラが聞く。


「パワードスーツっぽいの、直せそう」

「っぽい?」

「正式には多目的船外・艦内活動支援装具」

「長いな」


「セラまで言うんだ」


 リアが説明する。


「筋力補助、真空対応、磁気固定、防弾拡張、戦闘支援まである」

「使えるなら便利だな」

「直ったらセラも着る?」

「性能次第」


 即答だった。


「抵抗ないんだ」

「軍でも強化外骨格は使った」

「やっぱあるんだ」

「特殊な装備じゃない。船外作業や降下部隊なら珍しくない」


 ユウが少し安心する。


「じゃあアストライアだけの超技術って感じではない?」

「形を見るまでは何とも言えないが、概念自体は普通だ」


 ここは重要だった。

 何でもかんでもアストライアだけ特別では、さすがに困る。


「じゃあ現代製も買った方がいい?」

「古い装備の修理を待つくらいならな」


 セラがユウを見る。


「特にお前は」

「また?」

「昨日買った防護服は最低限だ。接舷するなら強化外骨格か、少なくとももっとまともな装甲が欲しい」

「三万四千クレジット……」

「命と比較するな」

「セラもそれ言う」

「正論だからな」


 リアが笑っている。


「金使わせる人増えたね」

「リーネは止める側なのに」


     *


 ヘリオスまで残り一時間半。

 アストライアは定速航行を続けていた。


『艦長』

「今度は何?」

『ノエル・ベルクより面会希望』

「艦橋?」

『はい』


「通して」


 しばらくしてノエルが入ってくる。

 少し緊張していた。


「どうした?」

「思い出したことがあります」


 セラが振り返る。


「何だ」

「ロウが受け取っていた通信です」

「ノード・セブンの内通者?」

「そっちじゃありません」


 ノエルはユウを見る。


「アストライアについてです」


 またこっちだった。


「何て?」

「俺は内容全部は見てません。でも、ロウが一度だけ端末を開いたまま席を離れたことがあって」


 ノエルが記憶を辿る。


「依頼条件が表示されてました」

「船を確保しろってやつ?」

「それもです。ただ、一文だけ妙なのがあった」


 ユウの表情が変わる。


「何?」

「確か――」


 ノエルは少し迷ってから言った。


「《船体損傷は最小限。中枢区画への侵入は禁止》」


「中枢区画?」


 リアが眉をひそめる。


「何それ」

「分からない。でもそれだけじゃない」


 ノエルが続ける。


「《対象船が特定の応答を示した場合、接触を中止すること》」


 セラが立ち上がる。


「特定の応答とは?」

「そこは暗号化されてました」

「誰が出した依頼?」

「表示されてた識別名だけなら」


 ノエルは端末へ文字を入力する。


《ORPHEUS》


「オルフェウス?」

「たぶん」


 ユウには聞き覚えがない。


「会社?」

「分かりません」


 セラも首を横に振る。


「少なくとも軍の正式部署名ではない」


 リアが画面を見る。


「中枢区画って、アストライアのどこ?」

「アイリス?」


『該当名称を現在の船内区画情報から検索します』


 数秒。


『一致なし』


「じゃあ相手も正確には知らない?」

「可能性はある」


 セラが考える。


「だが、損傷させるな、侵入するな、特定反応が出たら撤退しろ。随分慎重だ」

「船欲しいだけじゃなさそうだね」


 ユウがそう言った直後。

 艦橋中央の表示が一瞬だけ乱れた。


「ん?」


『異常を確認』


「何?」


 アイリスが答える前に、画面の隅へ見覚えのない文字が浮かぶ。


《外部照会信号検出》

《照合――》

《拒否》


 すぐに消えた。

 ユウが固まる。


「今の何?」

『不明です』

「外から何か来た?」

『通常通信帯では信号を確認していません』


 セラが鋭く聞く。


「発信源は?」

『特定不能』


 リアが周囲のセンサー表示を開く。


「船いる?」

『通常センサー範囲内に該当艦なし』


 誰も何も言わない。

 ユウは正面を見る。

 ヘリオスまでは、まだ一時間以上ある。


「……特定の応答って」


 ノエルが小さく呟いた。

 ユウも同じことを考えていた。

 今のが、そうなのではないか。

 だが確かめる方法はない。


『艦長』

「何?」

『先ほどの信号検出と同時に、乗員装備保管区画一番装備が自動起動しました』


 今度こそ、リアが勢いよく立ち上がった。


「起動した!?」

「待って。今度は絶対一人で行かないからね」

「行く前提なんだ」

「当然!」


 セラがため息をつきながら立ち上がる。


「私も行く」

「セラも?」

「正体不明の信号を受けて勝手に起動した装備だろ」


 腰の拳銃を確認する。


「お前たち二人だけで行かせる方が怖い」


 今回は、誰も反論できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。