第24話 装備庫の侵入者
「装備庫!?」
ユウは立ち上がった。
表示された監視映像では、マルク・ヘインズが扉脇の端末へ何かを接続している。
「何してる?」
『外部端末から扉制御への干渉を確認』
「開けようとしてる?」
『はい』
セラはすでに艦橋を出る準備をしていた。
「ユウ、来い」
「行く」
「リアは残れ」
「また?」
「今度は本当に艦内戦になるかもしれない」
リアも反論しなかった。
「分かった。アイリスと見てる」
「頼む」
ユウは腰のパルス拳銃を確認する。
まだ慣れない重さだった。
「アイリス、装備庫の扉は?」
『ロック維持中』
「絶対開けないで」
『了解』
廊下へ出る。
セラが前。
ユウが後ろ。
「走る?」
「音出すな」
「了解」
セラは迷いなく角を曲がっていく。
アストライアに乗ってまだ数時間しか経っていないのに、もう通路配置をかなり覚えているらしい。
「覚えるの早くない?」
「今それ聞くか?」
「ちょっと思っただけ」
「後で話せ」
怒られた。
*
装備庫まで残り一区画。
セラが壁際で止まる。
「アイリス、相手の武器」
『明確な銃器反応なし。ただし携行端末内部に高密度電源を確認』
「爆発物?」
『判定不能』
ユウの顔が引きつる。
「嫌な言い方だな」
「最悪を想定する」
セラは拳銃を抜く。
「出力は?」
「非殺傷」
「そのままでいい。相手が殺傷武器を出したら切り替えろ」
「分かった」
曲がり角の向こう。
金属を叩く小さな音が聞こえる。
「何してるんだ?」
「端末で開かないから、物理ロック触ってる可能性がある」
『その推測は正しいです』
アイリスが補足する。
『扉制御盤の外装が開放されました』
「マジで開ける気か」
セラが指を三本立てる。
三。
二。
一。
角から出る。
「動くな!」
マルクが振り返った。
手には工具。
扉脇の制御盤は開かれている。
「床に置け」
「待て!」
「置け!」
セラの声に、マルクが工具を落とす。
ユウも拳銃を構える。
「両手見える位置に」
「違う、俺は――」
「いいから手上げて」
男はゆっくり両手を上げた。
「装備庫で何してた?」
「確認したかっただけだ」
「何を?」
「この船だ」
ユウとセラが一瞬だけ視線を交わす。
「この船?」
「そうだ」
マルクはユウを見る。
「アストライア。型式不明船」
「だから何?」
「ロウが追ってたのはヴァイスだけじゃない」
ユウの表情が変わる。
「……何?」
セラも拳銃を下ろさない。
「続けろ」
マルクは息を吐く。
「俺はロウの部下じゃない。正確には、別の依頼であの船に乗ってた」
「別の依頼?」
「アストライアの情報収集」
艦内が一気に静かになった。
*
「誰の依頼?」
マルクは答えなかった。
セラの目が細くなる。
「言え」
「言ったら俺が消される」
「今言わなくても状況は変わらない」
その言葉に、マルクは苦い顔をした。
「企業系だ」
「名前」
「直接は知らない」
「便利な答えだな」
「本当だ。仲介を三つ挟んでる」
ユウが聞く。
「何を調べろって?」
「船体構造。武装。推進性能。乗員数。使ってる規格」
「それだけ?」
「最初は」
「最初は?」
マルクが少し黙る。
「途中で条件が変わった」
ユウの背中に嫌な感覚が走る。
「どう変わった?」
「船を可能な限り損傷させずに確保しろ、って」
セラが反応する。
「撃沈ではなく鹵獲?」
「ああ」
「乗員は?」
「生死不問だった」
ユウの顔から表情が消えた。
「……生死不問?」
「俺が決めた条件じゃない」
「分かってる」
声は静かだった。
けれどセラには分かったのか、ユウを一度だけ横目で見る。
「その情報、ロウも知ってた?」
「一部は」
「だからアストライアを渡せって言った?」
「たぶん」
マルクは扉を見る。
「それでこの部屋を確認しようとした」
「なんでここ?」
「船内図にない区画だから」
ユウが眉をひそめる。
「船内図?」
「ロウの船にあった」
セラの声が低くなる。
「アストライアの内部図が?」
「完全じゃない。スキャンデータから作った簡易モデルだ」
ユウは思い出す。
ノード・セブンに来たばかりの頃。
港で不自然な外部スキャンを受けた。
「……あれか」
「心当たり?」
「前に外から船スキャンされたことある」
セラがすぐ理解する。
「それが売られた可能性がある」
「多分」
マルクが頷く。
「俺が見た資料にも外装スキャンと戦闘観測データが入ってた」
「戦闘観測?」
「主砲の発射間隔。シールド減衰。推進性能」
ユウの目が細くなる。
「だから主砲の冷却知ってたのか」
前回。
宙賊船の船長が言った。
主砲はもう撃てないだろ。
偶然ではなかった。
「データ出回ってる?」
「少なくとも裏では」
セラが拳銃を少し下げた。
「誰が買ってる」
「分からない。ただ、高い金を出してる」
「どのくらい?」
「普通の船舶情報の十倍以上」
ユウは思わず扉を見る。
アストライア。
型式不明。
古い船かもしれない。
それだけで、そこまで価値があるのか。
「装備庫の存在も資料に?」
「ない。だから気になった」
「気になったから勝手に開けようとした?」
「……そうだ」
「それはダメでしょ」
「分かってる」
「全然分かってない人の行動なんだよなあ」
少しだけユウらしい声が戻る。
*
「ノエルはどこ?」
セラが聞く。
「知らない」
「お前と一緒に貨物区画から消えた」
「一緒じゃない」
「どういうこと?」
「俺が監視を切った時、あいつも動いただけだ」
「監視切ったのはお前?」
「そうだ」
ユウがため息をつく。
「器用だな」
「通信系の仕事してた」
「元軍人?」
「違う。民間の情報屋に近い」
セラの顔がさらに険しくなる。
「そんな人間がロウの船に乗っていた?」
「だから俺も使われてただけだ」
「信用しろと?」
「しなくていい」
マルクははっきり言った。
「ただ、今アストライアが狙われてるのは事実だ」
その時、アイリスが割り込む。
『ノエル・ベルクを確認』
「どこ?」
『医療区画前』
「何してる?」
『負傷者一名と会話中』
ユウとセラが顔を見合わせる。
「普通?」
『現時点では異常行動なし』
「じゃあこっちはマルクだな」
ユウは少し考える。
「セラ、どうする?」
「拘束する」
「だよね」
「当然だ。艦内システムへ不正アクセスした」
「異論ないです」
マルクも抵抗しなかった。
「拘束具出す」
『最寄り収納区画を表示します』
ユウが動こうとする。
「待て」
セラが止める。
「私がやる」
「なんで?」
「銃向けたまま相手に近づくな」
「あ」
「隙になる」
「勉強になります」
セラはマルクから距離を取ったまま指示する。
「壁に向け」
「分かった」
「膝をつけ」
「はいはい」
「返事は一回でいい」
「厳しいな」
「ユウも見習え」
「俺?」
マルクが少し笑った。
*
マルクを一時拘束し、別の個室へ入れる。
装備庫の制御盤はリアが後で確認することになった。
「壊されてる?」
『表面配線への接触のみ。重大な損傷なし』
「よかった」
艦橋へ戻る途中。
ユウはセラへ聞いた。
「俺、やっぱ白兵戦弱い?」
「かなり」
「即答だ」
「今のも私がいなかったら、相手に近づいて拘束しようとしただろ」
「したね」
「隠し武器があったら終わりだ」
厳しい。
でも正しい。
「練習したらマシになる?」
「なる」
「教えてくれる?」
「依頼中ならな」
「依頼終わったら?」
「……その時考える」
少しだけ間があった。
ユウは何も言わなかった。
*
艦橋へ戻ると、リアが待っていた。
「どうだった?」
「アストライア狙われてるらしい」
「また?」
「また」
「人気だね」
「嬉しくない人気だけど」
ユウは席へ座る。
「しかも船の戦闘データまで売られてる」
「それまずくない?」
「かなり」
セラが端末へ情報をまとめる。
「今後は同じ戦い方を繰り返すな」
「読まれる?」
「ああ。主砲の発射間隔、回避傾向、シールド配分。情報がある前提で考えた方がいい」
「戦い方変えないと」
「変える必要はない。選択肢を増やせ」
「選択肢?」
「相手に読ませる情報を一つにするな」
ユウは少し考える。
「毎回違うことする?」
「無理に奇策を使う必要はない。だが、主砲しか決め手がないと思わせるな」
「なるほど」
リアが笑う。
「また先生始まってる」
「命に関わるからな」
ユウは素直に頷いた。
「じゃあ覚える」
その時。
『艦長』
「今度は何?」
『乗員装備保管区画より追加情報を取得しました』
リアが反応する。
「さっきの不正アクセスで?」
『いいえ。制御盤への通電状態が継続した結果、一部記録領域が復旧しました』
「何が分かった?」
表示が出る。
《乗員装備保管区画》
《標準装備:十二式》
《状態:長期保管》
《一番装備:診断可能》
「例のパワードスーツ?」
『正式分類は異なります』
「何ていうの?」
少しだけ処理時間が入る。
『多目的船外・艦内活動支援装具』
「長い」
「つまり?」
リアが聞く。
『船外作業、災害対応、艦内保安、接舷行動に対応する強化外骨格です』
ユウとリアが顔を見合わせる。
「接舷行動?」
「艦内保安?」
セラも表示を見る。
「軍用に近いな」
『追加装備を接続することで、防弾・防爆性能および戦闘支援機能を拡張可能』
リアの目が輝く。
「やっぱり戦えるやつじゃん!」
「使える?」
『現状では使用不可』
「ですよね」
『ただし』
アイリスが続ける。
『一番装備の主制御系は生存しています』
リアが立ち上がる。
「見に行こう」
「今?」
「今!」
「ヘリオス向かってる途中だよ?」
「見るだけ!」
ユウは苦笑する。
「セラ?」
「好きにしろ。私はノエルの話を聞く」
「じゃあ行こうか」
立ち上がった直後。
アイリスがもう一つ表示を出した。
《装備使用認証》
《艦長権限》
《適合確認要求》
ユウの足が止まる。
「……適合?」
『はい』
「誰が?」
『艦長です』
リアがゆっくりユウを見る。
「着る?」
「まだ着ないよ」
「でも測るだけなら」
「その顔やめて」
今度は別の意味で、嫌な予感がした。




