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第19話 眠っていた装備庫

 ノード・セブンへ戻った翌日、ユウは再び傭兵協会の面談室に呼ばれていた。

 今回はダグラスだけではなく、警備局の職員らしい男まで同席している。


「先に聞きますけど、俺なんかやりました?」

「今回は褒める方だ」

「最近ここ来ると身構えるんですよ」

「慣れろ」

「嫌な慣れ方だなあ」


 ダグラスが端末を操作する。

 今回の依頼は本来、宙賊の活動確認だけだった。それが実際には行方不明になっていた警備艇を発見し、生存者を救助。さらに宙賊船三隻を無力化し、捕虜十一名まで救出している。


「まず通常報酬、四千八百」

「はい」

「警備艇エルムの発見と生存者救助で、一万二千」

「増えた」

「被害者救出、証拠記録提供、宙賊船三隻の制圧協力で二万四千」

「おお」


 ユウの顔が少し明るくなる。


「それと船だ」

「やっぱり来た」


 ダグラスが呆れた顔をした。


「大型艦一、小型艦二。全部お前が単独で取ったわけじゃないが、今回の戦闘記録を見る限り、お前の貢献が一番大きい」

「エルムのレーザーも使いましたけど」

「その分は警備局側で評価してる。問題は残った船体だ」


 画面に三隻の評価額が並ぶ。

 小型二隻は損傷が大きい。

 大型艦も推進器と武装の一部が破壊されているが、船体そのものは十分再利用可能らしい。


《小型宙賊船A 評価額 41,000Cr》

《小型宙賊船B 評価額 37,500Cr》

《大型宙賊船 評価額 168,000Cr》


「十六万?」

「修理前評価だ。ここから犯罪船登録解除、保管、曳航、証拠保全、元所有権照会なんかを引く」

「一気に現実的になった」

「それでも残るぞ」


 最終処理後の数字が出る。


《アストライア側配分》

《96,400Cr》


 ユウは二度見した。


「九万六千?」

「ああ」

「今回の依頼報酬も別?」

「別だ」

「……傭兵すごいな」

「死ぬ奴も多いけどな」

「やっぱそこ付きます?」


 ダグラスは真顔だった。


「付きます」


 説得力が強い。


「合計入金は?」

『端末への口座情報更新を確認』


 アイリスの声が耳元の端末から返る。


『現在残高、約十四万八千クレジット』

「十四万」

「顔が完全に金持った新人だな」

「昨日まで三万切ってたんですよ」

「だから全部使うなよ」

「リーネにも言われそう」

「言われろ」


 警備局の職員がそこで初めて口を開いた。


「それと、エルムの乗員から正式な感謝状が出ている」

「感謝状?」

「生き残った三名全員からだ。特に機関区に残っていた一名は、あと数時間遅ければ危なかった」

「そうですか」


 金額の話をしていた時より、ユウの表情が少しだけ落ち着いた。


「助かったならよかったです」

「警備局としても今回の件は評価している。今後、同種の救難依頼で優先紹介が入る可能性がある」

「仕事増える?」

「信用が増えたと思え」

「それはありがたい」


 ダグラスが端末を閉じる。


「ただし調子に乗るな」

「分かってます」

「本当に?」

「前よりは」


 それなら少しは成長している。


     *


 第三ドックへ戻ると、リアとリーネが待っていた。


「いくら?」

「第一声それ?」

「今回は結構いったでしょ」

「十四万八千」

「おお」

「思ったよりあるね」


 リアは素直に喜び、リーネはすぐに計算する顔になる。


「全部使わないでね」

「まだ何も言ってない」

「顔が使う顔してる」

「そんな顔ある?」

「ある」


 ユウは苦笑しながら、リアが作っていた修理一覧を見る。


「次、冷却だったよね」

「うん。今一番やりたい」

「どこまで直せる?」

「死んでる経路を全部戻すのは無理。でも、生きてる冷却路を増設して、武器系と機関系を分けられる」

「何が変わる?」

「主砲撃ったあと、今ほど長く待たなくていい。レーザーも連続使用しやすくなる。機関出力上げた時の余裕も増える」

「いくら?」

「四万前後」

「やろう」

「即決だね」


 リーネが横から口を挟む。


「他は?」

「外装補修が一万くらい。あと近接防御レーザーの制御系、一基だけ反応遅い」

「それも直したい」

「一万五千くらい」

「合計六万五千」

「だいたい」


 ユウは残高を見る。


「八万くらい残るな」

「そのくらいならいいと思う」

「リーネの許可出た」

「私、保護者じゃないんだけど」

「でも止めてくれるから」


 リアが笑った。


「じゃあ冷却から始めるね」

「お願い」


 ユウも作業を見ようとアストライアへ入る。


     *


 冷却系統の作業は船体中央部から始まった。

 これまで入れなかった機関区画そのものではなく、その手前にある補助設備区画。そこから生きている冷却路へ現代製の熱交換器を噛ませる。


「ここ通して大丈夫?」

『許容範囲です』

「じゃあ固定する」

「俺何する?」

「そこ持って」

「これ?」

「それ」

「重っ」


 金属製の筒状部品を抱える。

 思った以上に重い。


「こういう時、パワードスーツ欲しいな」

「作業用なら普通に売ってるよ」

「あるんだ?」

「そりゃあるよ。貨物屋とか整備士とか結構使ってる」

「戦闘用も?」

「あるけど高いよ」

「どのくらい?」

「ちゃんとした軽装型で数万から。軍用ならもっと」


 ユウは部品を置きながら少し考える。


「今回みたいに敵船乗り込むなら欲しいな」

「私もそう思う」

「リアも?」

「ユウ、生身で行ったじゃん」

「一応船外活動服は着てたよ」

「あれ、銃弾止める装備じゃないからね」

「やっぱ危なかった?」

「かなり」


 さらっと言われた。


「武器もスタンだけだったし」

「殺傷武器持った方がいい?」

「使うかどうかは別として、持ってた方がいいと思う」


 リアは作業を続けながら答える。


「船内戦って、逃げ場ないから」

「怖いな」

「相手が銃持ってるのに、こっちだけ非殺傷しかありませんはもっと怖い」


 正論だった。


「じゃあ今度見に行こうかな」

「戦術ドローンも」

「ある?」

「ある。偵察だけする小型機から、武器載せるタイプまで」

「武器はアイリスに任せる感じ?」

『外部無人機の制御は規格次第で対応可能です』

「便利」


 リアが少し笑う。


「そのうちユウよりアイリスの方が戦うんじゃない?」

「俺は判断係らしいから」

『艦長の役割として適切です』

「最近そう思えるようになってきた」


 作業を続ける。

 新しい熱交換器を固定し、配管を接続。リアが制御端末へアクセスする。


「アイリス、流して」

『冷却材循環開始』


 表示が動く。

 数値は安定している。


「いい感じ」

「終わり?」

「ここはね。次は反対側」


 ユウが部品を抱え直そうとしたところで、アイリスが声を上げた。


『未登録区画への接続反応を確認』


「何それ?」

「私何もしてないよ」


 リアが手を止める。


『新設した冷却経路の圧力変化により、隣接区画の補助電源が一時復帰しました』

「隣ってどこ?」


 壁面表示に船内図が出る。

 今いる補助設備区画のさらに前方。

 これまで灰色で表示されていた場所が、一部だけ黄色へ変わっている。


「ここ、入れなかったところ?」

『はい』

「何の区画?」

『記録破損』


 リアの目が輝く。


「見に行こう」

「そう言うと思った」

「だって今まで開かなかったんでしょ?」

「安全?」

『気密確認。温度正常。電力供給は限定的ですが、立ち入り可能と判断します』

「じゃあ行こう」


     *


 通路の先にあったのは、一枚の扉だった。

 今まで完全に電源が落ちていたため、ユウもそこに区画があるとは意識していなかった。


「開く?」

『試行します』


 扉脇の表示が点灯する。


《乗員認証》


 ユウが近づくと、文字が切り替わった。


《艦長権限確認》

《開放許可》


「開いた」


 低い音を立てながら扉が左右へ動く。

 内部は暗い。

 アイリスが照明を点けると、壁際に並んだ収納庫が見えた。


「これ何の部屋?」

『区画情報の一部を復旧』


 表示。


《乗員装備保管区画》


「装備庫?」


 リアが一歩先へ入る。

 左右に並ぶ縦長の収納ケース。

 十二基。

 標準乗員数と同じだった。


「十二人分?」

『その可能性が高いです』


 ユウが一番近くのケースを見る。

 透明部分は曇っていて、中ははっきり見えない。


「開けられる?」

『一番区画のみ電源復旧を確認。開放可能です』

「じゃあ開けて」


 ロックが外れる。

 収納ケースの前面がゆっくり開いた。


「……おお」


 中にあったのは、服ではなかった。

 人型の装備。

 全身を覆うほど大きくはない。

 胸部。

 腰。

 両腕。

 脚部。

 細い骨格状のフレームに、部分的な装甲が取り付けられている。


「パワードスーツ?」

「似てる」


 リアがすぐに近づく。


「いや、これ……外骨格だね。でも普通の作業用じゃない」

「戦闘用?」

「分からない。装甲あるけど、工具接続部も多い」


 ユウはケースの内部を見る。

 ヘルメット。

 手袋。

 腰に取り付ける小型機器。

 さらに、細長い何か。


「これ銃?」

『装備識別を試行します』


 数秒。


『個人防護・船外作業支援装備』

「作業用?」

『戦闘補助機能を含みます』


 リアがユウを見る。


「両方じゃん」


 ユウも少し笑う。


「ちょうど欲しいって話してたところに出てきたな」

「買わなくて済む?」

『推奨しません』

「え?」


 アイリスの返答は即座だった。


『長期保管による状態不明。電源セル劣化。制御系診断不能。装着試験は禁止します』

「ですよね」

「古い機械だもんね」


 リアはむしろ楽しそうだった。


「でも直せるかもしれない」

「分かる?」

「全然」

「それで楽しそうなの怖いな」

「だから調べるんじゃん」


 ユウは残る十一基を見る。

 そのうち何基が使えるのか。

 そもそもいつの時代の装備なのか。

 まだ何も分からない。


「アイリス、この部屋の記録もっと戻せる?」

『補助電源が安定すれば解析可能範囲が増加します』

「じゃあ修理進めれば分かる?」

『可能性があります』


 また一つ。

 アストライアの中から知らないものが出てきた。


「本当に何入ってるんだ、この船」

『不明です』

「本人が一番知らないんだよなあ」


 リアがケースを覗き込んだまま言う。


「ユウ」

「何?」

「これ、絶対面白いよ」

「整備士的に?」

「ものすごく」


 嫌な予感しかしない。


     *


 装備庫は一度閉鎖し、予定していた修理を先に終わらせることになった。

 冷却系統の増設。

 近接防御制御の調整。

 小規模な外装補修。


 二日後には、アストライアの状態表示からまたいくつかの黄色警告が消えていた。


『主武装冷却時間、従来比約三十八パーセント短縮』

「おお」

『パルスレーザー連続使用許容量も増加』

「かなり戦いやすくなった?」

『以前よりは』

「その言い方好きだね」


 リアも満足そうだった。


「これなら主砲一発撃って終わり、ではなくなったよ」

「二発いける?」

「連続は駄目」

「残念」

「冷却挟めば前より早く次撃てる」


 十分だった。

 ユウが艦長席へ座ったところで、端末に着信が入る。

 リーネからだった。


『ユウ、今大丈夫?』

「大丈夫。どうした?」

『ちょっと変な依頼があるんだけど』

「変な依頼?」


 リアが横から画面を見る。


『商会経由で護衛を探してる人がいるの。ただ、普通の護衛依頼じゃなくて』

「危ない?」

『それもあるかも』


 リーネの声が少し真面目になる。


『依頼人は元軍人。護衛対象も本人』

「自分を守ってほしいってこと?」

『そう。でも正式な傭兵依頼を出すと、居場所が知られる可能性があるらしい』


 ユウは眉をひそめた。


「追われてる?」

『本人はそう言ってる』

「誰に?」

『軍関係者』


 リアの表情も変わった。


「それ、本当に関わって大丈夫?」

『私もまだ判断できない。だからまず会って話だけ聞いてほしいの』

「名前は?」


 少し間があった。


『セラ・ヴァイス』


 ユウは初めて聞く名前だった。


『元連邦軍第四機動艦隊。階級は少佐』

「少佐?」

『それも、普通に辞めた人じゃないみたい』


 リーネから新しいデータが届く。

 経歴の大半は非公開。

 退役理由も不明。

 現在は民間登録。

 その下に、小さく注意表示がついていた。


《軍記録照会制限》


 ユウは画面を見る。


「……面倒そうだね」

『だから先に言ったでしょ』


 リアが腕を組む。


「会うだけ?」

「とりあえずね」


 ユウは少し考えたあと、頷いた。


「じゃあ会おう」


 アストライアの新しい装備庫が見つかったその日に、今度は訳ありの元軍人が向こうから転がり込んできた。

 どうやら、しばらく退屈する暇はなさそうだった。

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