第17話 三対一
三隻の宙賊船が同時に動き出した。正面に一隻、左右から二隻。完全にアストライアを囲む形だ。
「アイリス、抜けられる?」
『右舷側の船が最も小型です。突破する場合、そちらを推奨します』
「じゃあ右。リア、何か変な音したらすぐ言って」
「変な音する前に警告出すよ」
『敵船より通信』
「つないで」
男の声が艦橋に響く。
『アストライアだったな。船止めろ』
「断ったら?」
『沈める』
「分かりやすいね」
『船だけ渡せば命は取らねえよ』
「それで警備艇の人たちも助けた?」
通信の向こうが一瞬静かになった。
『何の話だ?』
「すぐそこにあるエルム。あれやったのあんたたちでしょ」
『さあな』
「じゃあ話終わりでいいや」
ユウは通信を切った。
「アイリス。エルムから信号送ってる人、まだいる?」
『短距離通信継続中。発信位置は船体中央部』
「生きてる可能性ある?」
『生体反応を検出できない理由として、遮蔽区画内にいる可能性があります』
「なら置いて帰れないな」
「三隻相手だよ?」
「分かってる」
リアの顔は真剣だった。
「助けるなとは言わない。でも、先にこっちが沈んだら意味ない」
「うん。だからまず三隻どうにかする」
ユウは操艦表示へ両手を置く。
「アイリス、右の船に集中。左と正面は位置だけ絶対見失わないで」
『了解。右舷敵艦、全長四十八メートル。レーザー二基、実弾兵装一基』
「シールドは?」
『展開を確認』
「じゃあ行く」
アストライアが一気に加速した。
右側の宙賊船も反応し、進路を塞ぐように前へ出る。同時に残る二隻からレーザーが飛んできた。
『後方より射撃』
「分かってる!」
ユウは船首を右へ振りながら加速を続ける。
一発が外れ、二発目がシールドを叩く。
『シールド九十六パーセント』
「やっぱ前より減らない」
「喜ぶの後! 正面来るよ!」
リアの声と同時に、右舷側の敵船が実弾を発射した。
『誘導弾三』
「近接防御」
『迎撃開始』
三基の近接防御レーザーが動く。
一発目を撃破。二発目も破壊。最後の一発だけが軌道を変え、アストライアの下方へ回り込む。
「アイリス、下?」
『追尾中』
「船首上げる!」
ユウが操作を入れる。
アストライアが上方へ滑り、誘導弾が船体下を通過したところへ近接防御レーザーが追いついた。
『迎撃成功』
「よし。そのまま右のやつへ」
『有効射程』
パルスレーザーが光る。
一射、二射。敵シールドが青白く広がる。
『敵前方シールド低下』
「距離詰める」
「ユウ、近すぎない?」
「後ろの二隻から射線切りたい」
右の敵船を、小惑星との間へ追い込む。
敵も意図に気づいたらしく急旋回したが、アストライアの方が先に回り込んだ。
『敵船、進路変更』
「そっち行くと思った」
ユウの手が自然に動いた。
敵が逃げようとする先へ船首を合わせる。
『射線確保』
「レーザー、前方シールド」
『発射』
三射目でシールドが大きく揺れ、四射目で消えた。
『局所シールド崩壊』
「武器を潰す」
『照準変更』
レーザーが敵船前部へ直撃する。
装甲が弾け、レーザー砲の一基が沈黙した。
『敵兵装一基停止』
「もう一基」
『後方二隻、射線確保』
「来る!」
「分かってる!」
アストライアが敵船の下へ潜り込むように移動する。
直後、後方から飛んできたレーザーが、アストライアではなく目の前の宙賊船のシールドへ当たった。
「同士討ち?」
『敵シールド後方へ命中。損傷軽微』
「使えるなこれ」
「楽しそうに言わないで」
右の宙賊船が慌てて距離を取る。
その瞬間、ユウは加速した。
「逃がさない」
『推進器を狙いますか?』
「まだ。武器全部止める」
パルスレーザーがもう一度走る。
残ったレーザー砲へ命中。
『敵攻撃兵装反応消失』
「一隻無力化」
『実弾兵装は残存しています』
「それ武器じゃん!」
『先ほどのレーザー兵装を指したものと解釈しました』
「今は細かい!」
敵船の側面から誘導弾が射出される。
距離が近い。
『誘導弾二』
「迎撃!」
一発は即座に破壊。
もう一発がアストライアへ向けて急激に軌道を変える。
『迎撃時間不足』
「シールド前方集中!」
『実行』
爆発。
艦橋がわずかに揺れた。
「うわっ」
『シールド八十八パーセント』
「船体は?」
『損傷なし』
「リア?」
「電源問題なし。シールドも安定してる」
「よし」
目の前の敵船が離脱しようとする。
「今度こそ推進器」
『照準』
「撃って」
レーザーが後部へ二度命中。
推進器周辺から破片が飛び散った。
『主推進器出力低下。加速能力約四割』
「これなら追ってこられない」
『残る二隻が接近』
ユウはすぐに向きを変えた。
正面から一隻。左後方から一隻。
「次どっち?」
『正面艦が最大。全長七十九メートル。エルムへの攻撃記録に存在する大型艦と外形一致』
「こいつが親玉?」
『可能性があります』
ユウは少し考えた。
「先に小さい方落とした方が楽?」
『戦力削減としては有効』
「でも大型放置したら撃たれる」
『はい』
「じゃあ大型を止める」
リアがユウを見る。
「主砲?」
「使う。ただし先にシールド削る」
大型宙賊船から通信が入る。
『ずいぶん調子乗ってくれるじゃねえか』
「三隻で囲んどいて言う?」
『その船、やっぱり普通じゃねえな』
「なんでアストライア知ってる?」
『売ればいくらになると思う?』
ユウの目が少し細くなる。
「船狙いか」
『船だけじゃねえよ』
「何?」
『中身もだ』
意味が分からない。
だが、相手はそれ以上話さなかった。
『敵武器発射』
「来る!」
大型船からレーザーと実弾が同時に飛ぶ。
「アイリス、自動回避半分任せる」
『操艦補助を強化』
「リア、電源見て」
「任せて」
アストライアが大きく旋回する。
レーザー二発を回避。三発目がシールドへ命中。実弾は近接防御で二発撃破し、一発がすぐ脇を抜ける。
『シールド八十二パーセント』
「まだ余裕」
「冷却は余裕ないよ。レーザー撃ちすぎ」
「どれくらい?」
「今七十三パーセント。主砲撃つなら先に少し落として」
「了解」
ユウは敵大型艦から一度距離を取る。
そこへ小型船が側面から回り込んできた。
『左舷敵艦、射撃』
「そっちか!」
レーザーがシールドへ二発。
『シールド七十七パーセント』
「挟まれるときついな」
『小惑星群へ進入すれば射線を限定できます』
「それでいこう」
アストライアが巨大な小惑星の陰へ飛び込む。
大型艦からの射線が切れる。
追ってきたのは小型船だけだった。
「一隻釣れた」
「狙ってた?」
「半分くらい」
「半分かあ」
小型船が小惑星の陰から姿を出す。
「アイリス、距離?」
『八千二百』
「近い。前方集中」
パルスレーザーを連射。
敵も撃ち返す。
互いのシールドが激しく光る。
『敵シールド四十二パーセント』
「こっちは?」
『七十二パーセント』
「勝てる」
「冷却八十一!」
「あと二発!」
ユウの声にリアが即座に返す。
「二発まで! それ以上撃ったら止める!」
『発射』
一射目。
敵シールドが崩れる。
二射目。
船体前部へ命中。
『敵武器管制一部停止』
「推進器」
「ユウ!」
「レーザーじゃない」
ユウは船首を敵船へ向けた。
「主砲、低出力」
『冷却状態は許容範囲』
「推進器の付け根。撃ち抜かない程度に」
『出力調整。照準完了』
敵船もこちらの正面を向く。
何をするのか気づいたらしい。
『敵艦、回避開始』
「遅い」
『発射』
高密度加速砲が放たれた。
敵船の後部装甲が一気に吹き飛ぶ。
推進器の一基が脱落し、残る推進器も光を失った。
『敵艦、主推進停止』
「二隻目」
リアが一瞬ユウを見る。
「……その砲、低出力であれ?」
「俺も思った」
『現状では最大出力の使用は不可能です』
「それ以上あるんだ」
「直したくなってきた」
「リア、今言う?」
大型宙賊船が小惑星の反対側から出てくる。
『敵大型艦接近』
「最後」
ユウが姿勢を直した。
相手も二隻を無力化されたことは分かっている。
それでも逃げる気配がない。
「なんで逃げない?」
『不明』
「普通なら逃げるよね」
「船が目的なら、まだ勝てると思ってるとか?」
大型船から再び通信。
『大人しくしときゃ痛い目見ずに済んだのによ』
「二隻やられてまだ言う?」
『問題ねえよ』
男が笑う。
『お前の船、主砲はもう撃てねえだろ』
ユウとリアが一瞬黙った。
「……なんで知ってる?」
返答はない。
『敵艦、加速』
大型船が真っ直ぐ突っ込んでくる。
「アイリス、主砲状態」
『再充填可能。ただし現冷却能力では発射まで四分以上』
「相手はそれ知ってる?」
『可能性を否定できません』
嫌な感じがした。
アストライアの情報を、相手はどこまで持っているのか。
「レーザーでやるしかない」
『敵艦前方シールドは健全です』
「削る」
アストライアと大型艦が正面から撃ち合う。
光が何度も交差し、双方のシールドが削れていく。
『当艦シールド六十五パーセント』
「敵は?」
『八十一パーセント』
「向こう強いな」
「こっちより大きいんだから当たり前!」
大型艦が距離を詰める。
さらに実弾兵装。
『実弾六』
「多い!」
近接防御レーザーが動く。
一。
二。
三。
四発撃破。
『二発残存』
「回避!」
アストライアが横へ滑る。
一発が外れる。
最後の一発がシールドへ直撃した。
『シールド五十八パーセント』
リアが表示を見る。
「ユウ、これ長引いたらまずい」
「分かってる」
敵シールドを削るには時間がかかる。
相手の火力は高く、主砲はすぐに使えない。
ユウは周囲の表示を見る。
小惑星。
無力化した二隻。
警備艇エルム。
そこで一つ気づいた。
「アイリス。エルムの武装、生きてる?」
『確認します』
数秒。
『右舷レーザー一基が使用可能状態。ただし艦側武器管制停止』
「外から起動できる?」
『通常は不可能です』
「通常は?」
『当艦からエルムの制御系へアクセスする権限がありません』
リアがすぐに反応する。
「中に生存者いるなら、その人に動かしてもらえるかも」
「通信できる?」
『短距離非常回線を使用可能』
「つないで!」
雑音。
何度か呼びかける。
「エルム! 聞こえますか! こちらアストライア!」
数秒後、弱い声が返ってきた。
『……聞こえる』
「武器動かせます?」
『艦橋……落ちてる……』
「右舷レーザー一基生きてます。手動で撃てない?」
『……補助管制……なら……』
声が苦しそうだ。
「無理ならやらなくていい」
『いや……やる』
ユウは大型宙賊船を見る。
「アイリス、エルムが撃てる位置へ敵を誘導できる?」
『可能』
「射線表示」
『表示します』
一本のラインが画面へ出る。
「リア」
「何?」
「ちょっと無茶する」
「どの程度?」
「撃たれながら誘導する」
「かなり嫌なんだけど」
「俺も」
ユウはアストライアを加速させた。
大型艦が追う。
こちらが逃げると判断したのか、さらに速度を上げる。
『敵距離一万六千』
「まだ」
『一万二千』
「まだ」
レーザーがシールドを叩く。
『シールド五十一パーセント』
「ユウ!」
「もう少し!」
エルムの射線へ近づく。
『八千』
「アイリス、エルムへ合図」
『送信』
ユウが一気に船首を上げた。
アストライアが射線から外れる。
「今!」
エルムの残ったレーザー砲が動いた。
一射。
大型宙賊船の左後方シールドへ命中。
『敵後方シールド急減』
「もう一発!」
エルムから二射目。
『敵後方局所シールド崩壊』
「アイリス! 推進器!」
『照準』
アストライアのパルスレーザーが無防備になった後部へ集中する。
一射。
二射。
三射。
敵の推進器が爆ぜる。
『敵主推進出力低下』
「まだ止まってない」
「冷却九十!」
「あと一発だけ!」
「一発!」
最後のレーザー。
敵船左側の主推進器へ直撃した。
『主推進器一基停止。残存推力三十二パーセント』
大型艦の速度が落ちる。
「止まれ!」
ユウが通信を開く。
「武器を停止して降伏しろ! もう逃げられない!」
返事はない。
「アイリス、武器管制は?」
『敵レーザー兵装稼働中』
「まだやる気?」
大型艦がゆっくり船首を動かす。
狙いはアストライアではない。
「どこ向いてる?」
『警備艇エルム』
ユウの表情が変わった。
「撃たせるな」
『レーザーは冷却限界付近です』
「近接防御は?」
『有効射程外』
「主砲は?」
『充填未完了』
大型艦の砲口が光る。
「間に入る!」
アストライアが加速する。
「ユウ!」
「生存者いる!」
エルムとの間へ滑り込む。
レーザーがアストライアのシールドへ直撃した。
『シールド四十一パーセント』
二発目。
『三十四パーセント』
リアが声を上げる。
「これ以上はまずい!」
「アイリス、主砲あと何秒?」
『九十七秒』
「長い!」
敵艦が三発目を準備する。
その時。
『未確認通信を受信』
「今!?」
『送信元、敵大型艦内部』
ユウの手が止まる。
「敵船?」
短い通信だった。
《こちらに……捕虜がいる》
《撃沈するな》
ユウとリアが同時に大型艦を見る。
「捕虜?」
『通信途絶』
大型宙賊船は、なおもエルムへ照準を向けている。
撃沈できない。
だが、このままならエルムを撃たれる。
ユウは歯を食いしばった。
「……アイリス」
『はい』
「次の一発で、あの船を止める方法探して」
『解析します』
大型艦のレーザー砲に、再び光が集まり始めた。




