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第16話 消えた警戒艇

 リアを臨時乗員に加えて最初に選んだ仕事は、《小型宙賊船の活動確認》だった。

 指定宙域へ向かい、目撃情報の真偽を確認する。宙賊船が実際にいた場合も、無理に戦う必要はない。

 確認して帰れば四千八百クレジット。

 戦闘になれば危険加算あり。


「これならいいでしょ」

「最後の一行が気になる」

「戦わなくてもいいって書いてあるよ」

「戦わなくてもいい仕事で毎回戦ってない?」

「まだ毎回ってほど仕事してないから」

「その返し嫌だなあ」


 リアは副席へ座りながら、アストライアの状態表示を呼び出した。


「主電源正常。シールド正常。冷却は相変わらず微妙。センサーはこの前直したから大丈夫」

「船医の診察みたいだな」

「整備士だから似たようなものだよ」

『出航許可を受信しました』

「よし。行こう」


 アストライアが第三ドックを離れる。

 リアを乗せての初出航だった。


 ノード・セブンが少しずつ遠ざかっていく。


「どう?」

「何が?」

「初めて傭兵船に乗って仕事行く感想」

「思ったより普通」

「もっと何かない?」

「ユウが操船してるのだけちょっと不安」

「昨日まで褒められてたんだけど」

「私は見てないから」

「帰るまでに評価変えさせてやる」


 ユウが手動操艦へ切り替える。

 アストライアが航路へ乗り、ゆっくり加速した。


 リアが少し黙る。


「……普通に上手いね」

「早いな、評価変わるの」

「もっとフラフラするかと思った」

「俺も最初そう思ってた」


 アストライアは素直に動く。

 ほんのわずかに船首を振り、推進方向を修正するだけで、自分の身体を動かしているような感覚が返ってくる。


「やっぱり変」

「何が?」

「初めて乗った船でこうはならないよ」

「相性いいらしい」

『操艦入力に大きな問題はありません』

「アイリスまで認めてるんだ」

「俺の数少ない特技になりそうだから大事にしたい」


 リアが笑った。


     *


 目的地はノード・セブンから三時間ほど離れた宙域だった。

 近くには閉鎖された小規模採掘場があり、以前は資源輸送船が頻繁に通っていたらしい。

 鉱脈が枯れてから交通量が減り、その頃から宙賊の目撃情報が出始めた。


「分かりやすい場所だな」

『人目が少なく、航路へ接近しやすい位置です』

「隠れる場所もある?」

『小惑星が多数存在します』


 大型表示には、大小さまざまな岩塊が浮かんでいる。

 巨大なものでは直径数十キロ。

 その間を縫うように、古い採掘設備の残骸が点在していた。


「ここで待ち伏せされたら嫌だな」

「だから確認依頼なんじゃない?」

「帰りたくなってきた」

「受けたのユウでしょ」


 もっともだった。


「アイリス、センサー出力上げよう」

『通常警戒から高感度走査へ移行します』

「電力は?」

『改修後の主電源状態であれば問題ありません』


 リアが嬉しそうに頷く。


「直した甲斐あるね」

「お金かけた甲斐もある」


 センサー表示が広がる。

 小惑星。

 放棄された採掘ビーコン。

 金属片。

 微弱な熱反応。


『人工物反応を検出』

「早くない?」

『距離約十九万キロ。推進反応なし』


 リアが表示を見る。


「船?」

『船体規模の人工物です』

「確認しよう。ただし近づきすぎない」


 アストライアが進路を変える。

 距離が縮まり、光学映像が拡大される。

 そこに映った船を見て、リアの表情が変わった。


「これ、宙賊船じゃないよ」

「分かる?」

「船体塗装見て」


 船腹に、かすれた文字と紋章が残っている。


『識別照合』


 アイリスが数秒で結果を出した。


『ノード・セブン周辺警備局所属船《エルム》と一致』

「警備艇?」


 全長五十メートルほど。

 船体後部に大きな損傷。

 右舷側の武装は完全に失われている。


「何でこんなところに?」

『登録航行記録を取得できません』

「通信は?」

『応答なし』


 リアが少し身を乗り出す。


「生命反応は?」

『検出できません』


 艦橋が静かになる。


「……全員?」

『現距離からは確定できません』


 ユウは少し考えた。


「協会に連絡」

『送信します』


 ノード・セブンへ状況を報告する。

 距離があるため多少の遅延はあるものの、通信設備を直したおかげで問題なく繋がった。


《警備艇エルムは十八時間前から連絡途絶》

《最終任務 宙賊目撃情報確認》

《発見地点を保持し、可能なら状況確認》

《増援派遣》


「俺たちと同じ仕事してたんだ」

「先に来た人がいたってこと?」

「たぶん」


 嫌な予感が強くなる。


「近づこう。リア、船の状態見られる?」

「外から分かる範囲なら」


 アストライアが警備艇へ接近する。


 五万キロ。

 二万。

 一万。


『戦闘損傷を複数確認』

「相手は?」

『推定不能』

「レーザー?」

『レーザー痕、実弾痕ともに存在します』


 リアが画面を見ながら眉をひそめる。


「後ろからやられてる」

「後ろ?」

「主推進器の付け根。ここを先に潰されてる」


 表示が拡大される。

 確かに損傷は船尾へ集中していた。


「待ち伏せ?」

「たぶん。それも狙いが正確」


 ユウは周囲の小惑星を見る。


「アイリス、警戒最大」

『了解』


 センサー出力がさらに上がる。


 反応なし。


「船内見られる?」

『外部通信端末が一部生存しています』

「接続できる?」

『試行します』


 数秒後。

 画面に文字列が流れた。


『非常記録領域へ接続成功』

「ログある?」

『一部のみ』


 映像記録が開く。


 警備艇エルムの艦橋。

 激しく揺れている。

 警報音。

 乗員の怒鳴り声。


《後方! 二隻!》

《どこから出た!?》

《シールド後方へ集中!》

《推進器被弾!》


 映像が乱れる。


《三隻目確認!》

《識別なし!》

《救援要請を――》


 そこで一度途切れた。

 ユウは画面を見つめる。


「三隻」

「少なくともね」


 記録はさらに続いていた。


《乗り移られる!》

《艦橋封鎖!》

《データ消去――》


 映像が消える。


「乗り込まれた?」

『その可能性が高いです』


 リアの声が少し硬くなる。


「ユウ、もう帰った方がいい」

「俺もそう思う」


 これは確認任務の範囲を超えている。

 警備艇を潰せる三隻以上の宙賊。

 しかも待ち伏せして、推進器を狙い、乗り込みまでやっている。


「情報は十分。増援来るまで離れよう」

『推奨します』


 ユウが進路をノード・セブン方向へ設定する。

 その直前。


『微弱信号を検出』


 ユウの手が止まった。


「どこ?」

『エルム船内』

「さっき生命反応なしって」

『生体信号ではありません。短距離非常通信です』


 リアが顔を上げる。


「自動信号?」

『いいえ。断続的に送信されています』


 つまり、誰かが送っている。


「内容は?」

『復号します』


 ノイズ混じりの音声が流れた。


《……聞こえるか……》


 ユウとリアが顔を見合わせる。


《……誰か……いるなら……応答するな……》


「え?」


 音声はかなり弱い。


《奴らが……まだ近くにいる……》


 ユウは反射的に周囲を見る。


「アイリス!」

『高感度走査中』

《……信号を……追ってくる……》


 音声が途切れる。


 直後。

 アストライアのセンサーに、新しい反応が一つ現れた。


『微弱熱源を検出』


「距離は?」

『約三万四千キロ』


 近い。


「船?」

『小惑星表面に接しています』


 画面が拡大される。

 大きな岩塊。

 その影に、何かが張り付いている。


 輪郭が浮かぶ。

 船だった。


「隠れてた?」

『熱放射を小惑星側へ逃がし、推進器を停止していたと推定』


 リアが立ち上がる。


「こっち見てる?」

『不明』


 ユウは操艦表示へ手を置いた。


「武器管制は?」

『まだ照準されていません』


 なら逃げる。

 そう判断した瞬間。


『追加反応』

「まだいる?」


 一つ。

 二つ。


 別方向の小惑星から、さらに二隻。

 完全に囲まれていた。


「三隻……」


 エルムを襲った数と同じ。

 通信が入る。


『見つけたぞ』


 知らない男の声だった。


『変な船が来たって聞いてたが、本当に来るとはな』


 ユウの表情が変わる。


「……俺たちを知ってる?」


 返答の代わりに、三隻の武器管制波が一斉にアストライアへ向けられた。


『敵対照準を確認』


 リアが副席へ座る。


「ユウ」

「うん」


 逃げるには、三隻の間を抜けなければならない。

 しかも相手は、警備艇を一隻仕留めた連中だ。


「アイリス、シールド最大」

『了解』


 アストライアを包む防御膜が立ち上がる。


「リア」

「いるよ」

「壊れたら頼む」

「壊さないでほしいんだけど」


 ユウは少し笑った。


「できるだけね」


 三隻の宙賊船が同時に動き出す。

 臨時乗員を加えたアストライアの最初の任務は、どうやら確認だけでは終わりそうになかった。

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