~ダークネスからの間者~
~ダークネスからの間者~
魔王の間。
「うむ。アトランティスとはどのような国であろうか。」
その問いに一人の眷属が答える、
「アトランティスとはこの世界とは異なる世界であると考えます。」
尖った耳。モノクルを着けた知的な顔立ち。悪魔族の王であり、魔王の側近であり、四天王の1人であるアスタロトである。
かつては悪魔を統べる王だったアスタロト。
戦闘力も知的参謀としても四天王の中でも圧倒的序列1位である。
「アスタロト、何故そのようなことを知っておる?」
「はい。魔王様。アトランティスの冒険者を1人捕らえておりますゆえ。」
冒険者を捕らえたと。これは良い駒になるかもしれぬ。
「その者をこちらへ連れてまいれ。」
その冒険者は既にアスタロト配下の魔物マインドハーネスによって精神支配されているようだった。
「正直に答えよ。アトランティスとはどのような国であるか?」
「……良くは知りません。私は転生したばかりですので。」
「転生と?転生とは何だ?」
「死んだ者に新たな人生を与えることです。」
「死霊術か……死者の国であるのか……」
「それはどこにあるのだ?」
「冒険者ギルドに扉がありますので。」
「アスタロト!冒険者ギルドとは何だ?」
「私にも入ることが出来ないのです……何やら魔法で守られているようでした……」
「冒険者にしか入れぬと。」
「ならば、そこの冒険者!お前がアトランティスから我にどのような場所であるか、どこにあるのか、何をしている国なのかを調べて伝えよ!」
「魔王様のために間者になりましょう。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」
この物言い、最後はマインドハーネスが顔を出した様だった。
マインドハーネスは支配した者がどこにいても、その目を通して見ることが出来る。
ダークネスにいながらにして他国の事を探ることが出来るのだ。
♢♢♢♢♢♢♢
【冒険者ギルド前。】
(ここがアトランティスか。)
私は街の中心にある天まで届きそうな塔を見上げていた。この塔、魔王様に献上して城にしていただこう。ヒヒヒヒヒ。
「おーい。そこの冒険者!串肉食ってかねぇか!」
「私、私ですか?転生したばかりでお金持ってませんよ。」
「アンタ、異世界冒険帰りなんだろ?」
「……はい。」
「だったら、向こうで取った魔石のいくつかは、初心者支援でギルドが自動換金してるはずだ。その分も自動換算されて、AIWatchにいくらか入金されてると思うぜ。」
串肉屋のおやじ。元剣聖グレン。
「この冒険者、ちとおかしくねぇか…… なんか雰囲気が今まで見たことない気がする……これはちゃんと見ておかないとな。」
冒険者を見守るためにアトランティス永住を決めた、元SSSランクの剣聖である。
(ヒヒヒヒヒ。AIWatchなる魔道具使えそうだ。)
「AIWatch起動シマス。」
「!!!!お前は何者だ!魔道具が話すなんて!」
「お答えデキマセン。」
「では。この世界は何だ?」
「お答えデキマセン。」
「何でも良いから教えろ。」
「……異常な魔素の流れを感知。全システム一時停止シマス。」
「……まぁいい。先ずは魔王様ご所望のクッキー?なるものを探さねば。」
「……起動シマス。勇者御用達【亀羅クッキー】専門店へご案内シマス。」
「!!!うわっ!!!なんだよ!いきなり!!」
この一連のやり取りをじっと見ていたグレン。
(これは閻魔さまに伝えなきゃぁいけないかもしれん。)
「とりあえず、肉串1本食って落ち着け。」
グレンは静かに「冒険者」語りかけるのだった。
「ところでお前さん。転生したばかりなんだろ?どの世界へ行ったんだ?」
「……666……」
(確かあの世界は……ヒト族がいない世界だったな……強力な魔素の流れ。魔物の世界。)
「おいおい!いきなりあんな危険な所へか?」
「……ゾロ目……」
「なんにしろ、無事に帰ることが出来たんだ!これは俺のおごりだからゆっくり食え。」
♢♢♢♢♢♢
AIWatch内部【冒険者情報】
ー 生前情報 ー
・梅庭和志
・職業 格闘家、パチスロライター
ー 冒険者情報 ー
・転生時Aランク相当
・格闘系スキル所持
ー 追加情報 ー
魔素異常感知。中央システム連携。監視対象とする。
♢♢♢♢♢♢
【魔王の間】
マインドハーネスが巨大な魔法鏡にアトランティスの映像を映し出している。
「ヒヒヒヒヒ。潜入はうまくいったようですね。」
「そのようですね。魔王様、クッキーのありかがつかめるかもしれませぬぞ。」
「それより、なんなのだ!この世界は、獣人?竜人?ヒト族までもが一緒にいるではないか!!誰1人として争ってはおらぬ。それほど王の力が強大なのか……」
「ヒヒヒヒヒ。調べさせましょうか?」
♢♢♢♢♢♢♢
クッキーを購入し、梅庭は一軒の酒場へと来ていた。
相席となった冒険者に探りをいれてみるとしよう。
「なぁ、この世界の王って強いのか?統治が行き届き過ぎてる気がするのだが……」
「なに言ってるんだ?お前、初心者か。なら俺が教えてやるよ!エール一杯奢れよ(笑)」
(な、な、王がいないだと!中央システムが役場?を管理して?国民が自由に繁栄させてる?だと?軍が……無いだ…と……)
♢♢♢♢♢♢
アスタロトが興奮気味に話し出す。
「魔王様!これは朗報ですぞ!」
「朗報と?」
「はい。アトランティスという国は巨大な結界に守られている様ではありますが、軍事力自体は脆弱かと。我々魔王軍の敵ではありませぬ!」
「ヒヒヒヒヒ。魔王様、私もそう思います。多少怪しまれていたようではありますが、誰1人として私を討伐しようとはしませんでしたしね。」
アスタロトが続ける。
「あの梅庭という冒険者、かなりの強者でした。ですのでこちら側へと引き込んだのです!」
「おお!良くやった!結界内部から結界を破壊することは出来そうか?」
「……まだ、アトランティスの場所すら正確には判明しておりません。少し眷属をお借りしても?」
「好きにするが良い。」
【ダークネス参謀室】
アスタロトが中心に会議が開かれていた。
「ベルテクス 、結界解析・魔法陣解析・座標解析は出来そうか?」
「そうねぇ。AIWatchって言うんでしたっけ?アレに侵入してみようかと。」
「ヤヌス 、異世界接続・ゲートをあちらに開く事は可能か?」
「ん……正確な場所と結界の強度がわかれば問題無い……と思う。」
「アバドン、お前は……」
「ガーッハッハ!ゲートさえ開けば我らの勝利よ!ガーッハッハ!我の力、侮るでないぞ!」
【数日後】
「ぶつぶつ……AIWatch侵入出来やしないわ……座標は取れたけど。本当に別の世界なのね。地球?地球というこれは星?なのかしら?の??異空間?に隠蔽されているのね……わからないことだらけだわ
。」
「……ベルテクス……ん。問題無い。そこまでわかれば……あっちにゲート……開くこと……たぶん、可能。」
「ガーッハッハ!1度に我の軍勢送れるのか!?」
「ん。問題無い。いけると思う。」
「ならば、やはり、楽勝ではないか!!」
♢♢♢♢♢♢
【魔王の間】
マインドハーネスが駆け込んでくる!
「梅庭からの映像が途絶えました……」
『何があった!?』
「わかりません!突然途絶えたのです……」
「アスタロト、結界の解析とゲートの研究は進んでるのか?」
「はい、魔王様、問題なく進んでおりますゆえ、ご安心をいつでも決行可能な状態です。」
「いよいよ我が手にクッキー……違う……アトランティスが!アトランティスを手中に治める時が来るのだな!」
『はい。魔王様。偉大なる我が魔王様の手に!!』
♢♢♢♢♢♢
【同時刻アトランティス】
「グレン?呼んだ?」
グレンの屋台に現れたのは……
顔は赤みを帯び、鋭い目と強い眉。冠をかぶり笏を持った1丈(三メートル)ほどはあろうかという冥府の王の【視察姿】
「また、ラフな格好ですねぇ(笑)」
「これはアレだよね?今流行ってるスウェット?だよね?おしゃれなんだよね?」
「……威厳が台無しですよ?んなことより、あの冒険者見てみて下さいよ。」
閻魔大王の目がギラリと光る。
「穢れか……」
「やはりそうですか……」
「小さな穢れだが深く魂に入り込んでおる。冒険者ギルドが気付かないのも無理はないぞ。」
「俺でもハッキリとは見えませんでしたよ。」
「それで、閻魔さまどうなさるのですか?」
「なぁに簡単なことよ。」
閻魔大王は笏をスッと振ると冒険者の肩をポンっと叩いた。
すーーーっ。
紫の靄が笏に吸い込まれ消えた。
「ここは……何処なんです?」
梅庭が辺りをキョロキョロ見回している。
「ああ、簡単でしたね(笑)閻魔さま、そこの冒険者、肉串食って行かねぇか?奢るぜ。」
♢♢♢♢♢♢♢
【ダークネス魔王の間】
「ゲート完成。開きますか?」
「ガーッハッハ!軍の準備は万全だ!」
魔王軍のアトランティス侵攻はこうして始まったのだった。




