37日目 ~国生み~
37日目 ~国生み~
【神域】
幸
「ここは?」
「ここは兵庫県淡路島、伊弉諾神宮デス。」
「御祭神はイザナギ。日本神話でイザナミと共に国生みを行った神として知られてイマス。」
幸
「いよいよ、日本の始まりか。」
「それでは、案内を開始シマス。」
眩い光が幸を包み込む。
【神界】
「いらっしゃい。」
聞き覚えのない、穏やかな女性の声。
幸がゆっくり目を開けると、そこは神社ではなかった。
暖炉の火が静かに揺れる洋館の応接間。
大きな窓の向こうには、美しい街並みが広がっている。
「……え?」
目の前には、一組の男女が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
女性が優しく微笑む。
「ようこそ。」
幸は二人を交互に見つめた。
「……もしかして。」
「イザナギ様と……イザナミ様?」
二人は穏やかに頷いた。
幸は慌てて頭を下げる。
「国、生んでくださってありがとうございます!」
イザナギは目を丸くし、思わず笑う。
「そんな礼を言われたのは初めてだ。」
イザナミもくすりと笑った。
「ありがとう。」
幸は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
幸
「ところで……。」
「国って、どのようにして生んだのですか?」
イザナギ
「日本神話では、私とイザナミが天沼矛で海をかき混ぜ、最初の島を生み、その後、日本の島々を生み出したと伝えられている。」
イザナミ
「それが『国生み』のお話よ。」
幸
「実際は違ったんですか?」
イザナギ
「創造神が世界を創造された時にな。」
「『この辺りは任せたぞい!』」
「そう言われただけだ。」
イザナミ
「それだけだったわね。」
イザナギ
「それだけだったな。」
幸
「軽っ!!」
イザナギ
「島の位置も、大きさも。」
「気候も。」
「山も川も。」
「全部、私たちで考えた。」
幸
「えっ……。」
イザナミ
「だから毎日が設計会議だったのよ。」
イザナギ
「創るっていうのは、案外地味な仕事だからな。」
「それと、イザナミ様って黄泉の国にいらっしゃるんじゃ……。」
イザナミは一瞬きょとんとしたあと、思わず吹き出した。
「何を言ってるの?」
「このアトランティスが黄泉の国じゃないの。」
「あなたも亡くなってから来たのでしょう?」
幸
「あ!」
「そうでした。」
頭をぽりぽりとかく幸を見て、二人は笑う。
幸はふと首を傾げた。
「……あれ?」
「でも、お二人ってご一緒なんですか?」
「日本神話では、イザナギは黄泉の国から戻り、夫婦は離ればなれになったと伝えられてイマス。」
幸
「あ、そうか。」
イザナギは苦笑いしながら答えた。
「別居だ。」
イザナミが肩をすくめる。
「別居ねぇ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
イザナミがソファに腰掛けながら話し始める。
「私はね、アトランティスが隠された時、たまたま孫のオオクニヌシの所にいたの。」
「あの子の仕事を手伝うため、そのままここに残ったのよ。」
イザナギも隣に腰掛ける。
「私は日本での仕事があるからな。」
「日本神域に残ることにした。」
「単身赴任だ。」
イザナミは吹き出した。
「単身赴任ねぇ。」
幸も思わず笑う。
「神様でも単身赴任ってあるんですね。」
イザナギは照れくさそうに笑った。
「たまには会っているぞ。」
イザナミも優しく頷く。
「これだけ会ってれば、そりゃ、子も生むわよねぇ(笑)」
幸
「あっ! そういえば、アマテラス様、スサノオ様、ツクヨミ様は、お二人のお子様なんですよね?」
「私、お会いしました!」
「あの子達、元気だったかしら?」
「お元気でしたよ。」
「……元気すぎるがな。」
「あ、イザナギ様は神域でご一緒ですもんね。」
「恐山の穢れ祓いでは、アマテラスが無茶を言うておったからの。」
幸は苦笑いした。
(相変わらずなんだな……。)
(でも、昔から気になってたんだよな。)
(国生みは分かったけど……。)
(神生みって、一体どういう……。)
イザナギがふっと笑う。
「存外、単純なものかもしれんぞ。」
幸
「え?」
「……イザナギ様。」
「今、心読みました?」
イザナギ
「ん?」
「神じゃからの。」
イザナミはくすくすと笑う。
「難しく考えすぎなのよ。」
「子を授かることに、神も人も、それほど大きな違いはないわ。」
幸
「……えっ?」
静かな沈黙が流れた。
「幸よ。
主は、物事に疑問を持つ。
そして、それをそのままにせず、
尋ね、理解しようとする。
その姿勢を、これからのアトランティスでの生活にも生かすとよい。
それが、いずれ主の道となろう。」




