36日目~ただいま~
36日目~ただいま~
翌日。俺は次の行き先について考えていた。
「なぁ、俺、生まれ故郷に行ってみようと思ってるんだ。」
「ソレは良い選択だとオモワレマス」
次に向かうのは、俺が生まれ育った街。
石川県金沢市。
♢♢♢♢♢
タクシーの窓から見える景色は、俺の知っている頃とは少し変わっていた。
護岸工事が進み、大きなクルーズターミナルも完成している。
それでも、海だけは昔のままだ。
やがてタクシーは、醤油蔵が並ぶ通りへ入った。
窓の外から、ふわりと醤油の香りが流れ込んできた。
「……ああ、この匂いや。」
醤油蔵を抜け、タクシーは【石川県金沢港大野からくり記念館】の前で止まった。
運転手がバックミラー越しに俺を見る。
「到着しましたよ。」
俺は目の前の建物を見上げる。
「……はい。ここです。」
からくり記念館の中に入ると、お茶運び人形が出迎えてくれた。
「ただいま……」
「西洋から伝わった機械時計を応用してイマス。動力となるゼンマイは……」
「鯨の髭な。」
「ご存知デシタか。」
順路に沿って進んでいく。
「慣れてマスね」
「通ってたからな(笑)」
俺は一つの展示物の前で足を止めた。
何も言わずハンドルを回した。
「コレはエレキテルと呼ばれる静電気発生装置デス。」
「うん。」
「西洋から伝わった機械を平賀源内が研究シ……」
「完全には再現できんかった。」
「ソノ通りデス。」
俺は木の箱の前で足を止めた。
カチッ。カチカチッ。
「よし、開いたな。」
「開きましたネ。」
カチッ。カチカチッ。
「よし。戻したぞ。」
「戻すんデスか?」
「一回じゃ分からん。」
カチッ。カチカチッ。
「何をしてるんデス?」
「……仕組みを覚えとる。」
カチッ。カチカチッ。
「中学生の頃を思い出すんよ。」
「自由研究デスか?」
「うん。」
箱を閉じ、もう一度最初から動かし始める。
「昔、この手の木箱を作ったんや。」
カチッ。
「ここで展示もしてもらった。」
カチッ。カチカチッ。
「……そうや。」
幸は小さく笑った。
「思い出したよ。」
俺は木箱を元の場所へ戻し、からくり記念館を後にした。
【大野湊神社は三柱の主祭神を祀る古社。創建にゆかりのある猿田彦大神(佐那武大神)は、「導きの神」「道開きの神」として知られている。】
幸は静かに参拝を済ませ、振り返った。
タクシーの運転手は、もうそこにはいなかった。
代わりに立っていたのは、一人の神だった。
「……ずっといらしたんですね。」
猿田彦大神は穏やかに笑う。
「もし次の行き先を決めかねておられるのでしたら。」
「はい。」
「淡路へ行かれてはいかがですか。」
幸は小さく頷いた。
「ありがとうございます。」




