35日目 前編 ~ダークエルフ~
35日目 前編 ~ダークエルフ~
出雲大社を後にする。
俺は一度振り返り、本殿へ軽く一礼した。
「アマテラス様。」
「少し調べたいことができました。」
アマテラスは優しく微笑む。
「そう。」
「答えは、自ら確かめなさい。」
光が辺りを包み込む。
――――――――――
気が付けば、見慣れたアトランティスの役場前だった。
俺は休むことなく歩き出した。
「ダ・ヴィンチさんの家まで案内して。」
「承知シマシタ。」
ホログラムの地図が表示される。
俺はそのまま足早に歩いた。
晴明さんから聞いた陰陽道。
魔法。
魔素。
頭の中で点と点が少しずつ繋がり始めている。
だからこそ、確かめたかった。
――――――――――
「来たか。」
ダ・ヴィンチさんは俺を見るなり笑った。
「天使から聞いておる。」
「あの件じゃな?」
「はい。」
「ダ・ヴィンチさんなら詳しい方をご存知かと思いまして。」
「うむ。知っておる。」
少し考え込むように顎へ手を当てる。
「……じゃが。幸には少し刺激が強いかもしれんの。」
「え?」
「ついてくるといい。」
「案内してやろう。」
AIWatchが小さな声で囁く。
(ダ・ヴィンチ様、初めて幸サンを名前で呼びマシタ。)
「え?」
そういえば。
今まで一度も名前で呼ばれたことがなかった。
俺が驚いている間に、ダ・ヴィンチさんは歩き始める。
慌てて後を追った。
――――――――――
【ダークエルフ街】
夜の街というだけあって、昼間は驚くほど静かだった。
石畳の細い路地。
奥へ進むと、一軒の店が見えてくる。
一見すると、ごく普通のBARだ。
ダ・ヴィンチさんが扉を軽く叩く。
「おるかの?」
「あーら。」
「ダ・ヴィンチさんじゃない。」
「こんな時間に珍しいわねぇ。」
ゆっくり扉が開く。
褐色の肌。
長い耳。
そして思わず目が行ってしまうほど豊かな胸。
「あら?」
「隣の可愛い坊っちゃんは誰かしら?」
「儂の仲間じゃ。」
AIWatchが小声で騒ぎ始める。
(幸サン!幸サン!)
(『仲間』ト言イマシタヨ!)
「……。」
俺は目の前の妖艶なダークエルフに、少しだけ心拍数が上がっていた。
ダ・ヴィンチさんが苦笑する。
「ほれ。刺激が強いと言ったじゃろ。」
ダークエルフは煙管を口元へ運ぶ。
薬草の香りを含んだ白い煙が店内へゆっくり漂った。
「ところで坊っちゃん。アタシに何か聞きたいことがあって来たんだろ?」
「遠慮はいらないよ。」
「何でもお聞き。」
俺は姿勢を正した。
「魔素って……何なんですか?」
ダークエルフは少しだけ微笑む。
「いい質問だね。」
煙管を静かに灰皿へ置く。
「魔素は一言で言えば、エネルギー。自然界に存在するエネルギーさ。」
「魔法も、魔道具も、その力を動力として動いている。」
「今の地球で言えば……。」
「原油。」
「そう考えると分かりやすいかもしれないね。」
「原油……。」
「車も飛行機も燃料がなければ動かない。」
「魔法も同じさ。魔素という燃料があって、初めて魔法は使える。」
AIWatchが補足する。
(現在の地球でハ、魔素濃度が極めて低イタメ、一般的な魔法な使用は不可能デス。)
「じゃあ……。」
「昔の地球には魔素があったんですか?」
「もちろん。アトランティスがまだ地上にあった頃。」
「地球全体が魔素に満ちていた。」
「ムーも。」
「アトランティスも。」
「その恩恵を受けて栄えた文明さ。」
「じゃあ……どうして今は?」
店内が少し静かになる。
ダークエルフは煙管へ新しい薬草を詰めた。
「原因は分かっていない。」
「ただ、一つだけ確かなことがある。」
「魔素はある時代から偏り始めた。」
「濃い土地。」
「薄い土地。」
「そして、少しずつ地球全体から失われていった。」
AIWatchが補足する。
(古代文明の多くは、比較的魔素濃度の高い地域に存在していたと考えられてオリマス。)
俺はある遺跡を思い出した。
「モヘンジョダロ……。」
ダークエルフは静かに頷く。
「あれを覚えていたかい。」
「ええ。」
「あのレンガがガラスみたいに溶けていた遺跡ですよね。」
「私達の一族には、あれは魔法事故だったという記録が残っている。」
「……え?」
「もちろん。」
「本当のところは、誰にも分からない。」
「歴史だからね。」
「でも、一族はそう伝えてきた。」
「その頃には魔法も不安定になり始めていた。事故も少しずつ増えていったんだ。」
「だから地上との交流も減っていった。」
「そう。」
「そこまでは私にも話せる。」
ダークエルフは煙管をくるりと指で回した。
「でもねぇ。」
「ここから先は、アタシにも推測しか出来ない。」
「創造神様なら、ご存知でしょうけど。」
「え?」
「創造神様に……会えるんですか?」
ダークエルフはきょとんとした顔をした。
「あら。」
「言ってなかった?」
「ウチにお忍びでいらしてるわよ。」
「たまに。」
「……えぇぇぇぇっ!?」
「ちょっと連絡するわねぇ。」
「捕捉シマス。このお店はダークエルフ街でも魔素研究の最前線デス。視察デス。視察デス……視察だとオモワレ。」




