34日目 後編 ~陰陽道~
34日目 後編 ~陰陽道~
晴明は夜空から視線を俺へ移した。
「では。」
「次は、陰陽道についてお話しいたしましょう。」
そう言うと、晴明は庭石へ静かに指を滑らせた。
淡い光が走る。
やがて足元に、美しい五芒星が浮かび上がった。
「綺麗……。」
思わず声が漏れる。
「この世界には五つの属性があります。」
「木・火・土・金・水。」
「陰陽道では、これを五行と呼びます。」
五芒星が淡く輝く。
「属性は世界に存在しております。」
「しかし、それだけでは術にはなりません。」
「現象へ変えるためには、魔素という力が必要になります。」
「魔素……。」
「術を動かす力です。」
「属性という素材があっても、動力がなければ何も起こりません。」
俺は静かに頷いた。
「では、陰陽道とは……。」
「限られた魔素を、効率よく扱うために発展した学問です。」
晴明は夜空を見上げる。
「遥か昔、人は神々の御業を学ぼうとしました。」
「自然の理を知り、その力を理解しようとしたのです。」
「その知識は、一つの文明によって体系化されました。」
「しかし地上では、時代と共に魔素は薄くなっていきました。」
「古の術を、そのまま使うことは出来なくなったのです。」
俺は小さく息を呑む。
「だから陰陽道が……。」
「ええ。」
「先人達は知恵を積み重ねました。」
晴明は五芒星へ視線を落とす。
「五つの属性を一つへ集約する。」
「護符へ刻み。」
「式神へ宿す。」
「限られた魔素でも術を発動できるよう改良され、受け継がれてきた技術。」
「それが陰陽道です。」
「魔法というより……。」
「技術なんですね。」
晴明は穏やかに頷いた。
「その通りです。」
「神々の奇跡ではありません。」
「人が長い年月をかけ、知恵を積み重ねてきた技術なのです。」
AIWatchが静かに補足する。
「補足シマス。」
「遥か昔、この知識を世界各地へ伝えた文明が存在シマシタ。」
「現在、アトランティス文明と呼ばれている文明デス。」
「……また、アトランティス。」
これまで旅で見てきた景色が頭の中を巡る。
ドワーフ。
ピラミッド。
ダ・ヴィンチ。
オーパーツ。
そして、陰陽道。
バラバラだった出来事が、一つの線として繋がっていく。
晴明は静かに微笑んだ。
「文明とは、知識を受け継ぐことで発展していくものです。」
「陰陽道も、その一つに過ぎません。」
しばらく二人で夜空を見上げる。
星々は、遥か昔と変わらぬ光を放っていた。
やがて晴明は懐から一枚の護符を取り出した。
中央には、美しい五芒星が描かれている。
「こちらを。」
「私の護符です。」
「お守りとして、お持ちください。」
「えっ……俺が頂いても良いんですか?」
「ええ。」
晴明は穏やかに微笑む。
「役に立つことがあるかもしれません。」
俺は両手で護符を受け取った。
「ありがとうございます。」
五芒星が月明かりを受け、静かに輝いている。
その時の俺は、まだ知らなかった。
この一枚の護符が。
後に、自分の命を救うことになるとは。




